くたばれインターネット の商品レビュー
1ページに3回のペースで目に飛び込んでくる怒涛のパンチラインでインターネット及びSNS中毒へと至った我々現代人をタコ殴りにしてくる名作だが、真に恐るべきことはこの小説がトランプ大統領/イーロン・マスクCEOの出現前に執筆されていることだ。トランプやイーロンが訪れるまでもなく、イン...
1ページに3回のペースで目に飛び込んでくる怒涛のパンチラインでインターネット及びSNS中毒へと至った我々現代人をタコ殴りにしてくる名作だが、真に恐るべきことはこの小説がトランプ大統領/イーロン・マスクCEOの出現前に執筆されていることだ。トランプやイーロンが訪れるまでもなく、インターネットは既に地獄だったということを嫌というほど再認識させられる。自分たちがここで繰り広げられている地獄の、そのまたさらに底が抜けたところに暮らしている事実に耐えかねた今こそインターネットをやめる好機!お前もブルースカイやマストドンとか言ってないでインターネットをやめて草花を愛でよう! 「貴様たちは、貴様たち自身の敵の作り上げた土俵の上で、ただ言葉だけを垂れ流しているクソ虫でしかない。貴様らはあの白人野郎どものために金を稼いでいるだけだぞ。貴様らがタンブルに嬉々として投稿している、差別主義で性同一性障害など身をもって体験することもなく、ホモも女も憎悪しているような父権主義者たちへの批判の一切も、結局はただタンブルを儲けさせているだけだ。貴様らのやっていることのすべては、自分たちが立ち向かっている、この不公平な経済システムをまさに維持している個人や会社を宣伝しているだけのことなのだ。」
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原題はi hate the internet。アメリカのサンフランシスコを舞台にタイトルどおりインターネットに対する恨みつらみが炸裂していてオモシロかった。一応小説という形を取ってはいるもののモキュメンタリーっぽいニュアンスがあり、たとえば登場人物の1人に著者自身を投影していたり...
原題はi hate the internet。アメリカのサンフランシスコを舞台にタイトルどおりインターネットに対する恨みつらみが炸裂していてオモシロかった。一応小説という形を取ってはいるもののモキュメンタリーっぽいニュアンスがあり、たとえば登場人物の1人に著者自身を投影していたり、いきなり著者自身の文章で「ここに当初25章がありました」という題で延々と説明が続いたり。これに代表されるように話がとにかく横滑りしていって、あとがきにも書かれていたとおり本を読んでいるのにネットサーフィンしているかのような感覚になる。「くたばれ」と言いつつ愛が見え隠れしているような気もする。なによりもテック業界を中心とした実在の人物をこき下ろしまくっていて、そこが一番オモシロい。ただ単純にこき下ろすだけなら誰でもできると思うけど、主人公のアデレーンがネット社会に突入していく過程を描いていくことで自分を含めた多くの人が既に中毒状態となっているインターネットについて改めて距離を置いた視座を提供してくれている。とくにネット上での議論の不毛さの話が好きだった。そもそもサービスの成り立ちからして意味がない、つまりすべては広告ベースであり金になることしか考えていない土台の上で何かを議論すること自体に意味なんてない、という強い理論。(このことをネットで主張すると、それも1つの議論を産んでしまいミイラ取りがミイラになってしまうので難しい)結局オンラインで何かを行うことはプラットフォームにタダ乗りできているように見えて巧妙に搾取されていることに多くの人に気づいて欲しい願いが伝わってくる。とはいえ今の時代はこの本が書かれた2016年よりもさらにネットと現実社会の結びつきは強くなっているのでネットのない世界やネットを活用せずに生きるのは実質不可能だと思う。なので使う際の自分の節度が重要だと気づくことができたのはよかった。 またサンフランシスコの街の歴史にまつわる小説でもある。テック業界の発展に伴ったジェントフィケーションの話や急激な家賃/物価の上昇の背景を知ることができて勉強になった。実際、2018年に訪れたとき物価が高すぎてお昼ご飯食べるのもヒイヒイ言っていた一方で、街中には明らかに危ない場所もあるという矛盾に驚いた記憶がある。小説内で描かれている場所をググってみると通った場所だったりしたので、そこも含めて思い入れのある小説になった。
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原題は『I hate the internet』。文字通り、インターネットがテーマの小説。訳者あとがきに書いてありましたが、著者のジャレット・コベックはトルコ系の在来移民の子孫。本作を出版するために出版社から立ち上げたそうです。出版は2016年。翻訳で出たのが2019年末。作中は90年代-2014年のロサンゼルス、サンフランシスコなどを舞台に、アラフォーの女性漫画家とその周囲の人物の物語を描いています。 SNS,Twitter,Facebook,Instagram,Google,Yahoo,YouTube、タンブル、ビヨンセ、レディー・ガガ、ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブズ、オバマ、ブッシュ、911、バズフィード、マーベル、DC、アイン・ランド、スノーデン、ジャック・カービーなどなど。凄まじい情報量と皮肉憎悪ユーモア罵詈雑言と搾取差別排斥の歴史が文章のところどころに散りばめられており、読むのが楽しかったです。ジョブズもボロクソに言われており、ファンの方はご注意を。 自分にとってのインターネットってそこまで悪いものではないです。ネットで検索はよくするし、記事も良質なものはあるし、spotifyもNetflixもamazonも好きだし、便利なのでそれなりに利用します。けれども、SNSの匿名性における誹謗中傷、晒しやキャンセルカルチャーなど、自分と直接関係がなくてもクソだなと思う側面も確かにあります。 使用している、消費しているつもりが、いつしか、選ばされている、消費させられている瞬間が大なり小なりあって、じゃあそれで儲かってるのは? と。ネットだけでなく、メディアそのものとの距離を考えさせられます。それとは別で、LGBTQや人種による差別など、国内のものに目を向けてばかりだと、そういうものに気付けなかったり、わからなかったり、ズレていくような感覚が年々増してきている(音楽映画などのカルチャーは絶望的)ので、こういう刺激的な書籍と出会えて良かったです。 著者のXXXテンタシオンに関する作品も翻訳刊行準備中だそうです。また、作中ではトランプはまだ大統領になっていないので、残念ながら言及されてはいませんが、2019年に本国で出された『Only Americans Burn In Hell』では何か、あるんでしょうね、やっぱり。 書籍の裏帯には、後半の章のジェイ・カレセヘネムの演説のワンシーンが抜粋されております。それ以外もニヤリとさせられるような表現、文章が多くありました。 一般的にはこれらの"善い小説"群には、皮膚組織中の基底細胞層に真性メラニンをたくさん持っているような登場人物はほとんど出て来ない。 第五章より アメリカのメディアというのは、音楽やスポーツの分野で大成功を収めた黒人たちの姿を放送することが大好きなのだ。 アメリカのメディアというものは、教育やあるいはプロに徹することによって成功を収めた黒人の姿を取り上げることを未だほとんどしていない。面白い話ではないからだ。 第九章より 「おいで子供たち。世界の美を写真に撮ってここに上げなさい」 インスタグラムはそう喧伝している。ほとんどの場合インスタグラムの使用者たちは、自分がお金を費やしたものか、あるいはお金を費やしたいと思っているものの写真をそこにアップする。 第十一章
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