愛国心を裏切られた天才 の商品レビュー
空中窒素固定法が可能にした食料の大増産が人類を飢餓の恐怖より開放した。 この偉業はフリッツ・ハーバーの名前を人類史上の偉人として永に刻むはずだったが、 平和にあっては人類のために、戦争にあっては祖国のために尽くす。 がモットーなユダヤ系ドイツ人の愛国者ハーバーは第一次世界大戦のさ...
空中窒素固定法が可能にした食料の大増産が人類を飢餓の恐怖より開放した。 この偉業はフリッツ・ハーバーの名前を人類史上の偉人として永に刻むはずだったが、 平和にあっては人類のために、戦争にあっては祖国のために尽くす。 がモットーなユダヤ系ドイツ人の愛国者ハーバーは第一次世界大戦のさなかに祖国ドイツ勝利のために毒ガス兵器の開発に辣腕をふるう。 彼の天才は最強の糜爛性化学兵器イペリットの開発を成功させ、悪夢の戦場をこの世の地獄に変えた。 貧者の核兵器と言われる大量破壊兵器 毒ガス は核保有する大国と中小国家との戦力差を埋める戦略的な切り札として、今も各国で生産され貯蔵され続けている。 そして、たまに使われてもいる(-_-;) 毒ガス博士のドス黒い悪名はハーバーの令名を塗り潰し、彼の死後も、そして今に至っても狂気のマッドサイエンティストとフリッツ・ハーバーの名を貶め続けているのだ。ハーバーの窒素固定法により増産された穀物にたかり4割方を喰い尽くす害虫駆除にと開発した殺虫剤が、ナチスの絶滅収容所で同胞を殺戮するツィクロンBだって話になれば、悪趣味で不出来な神の冗談に反吐がでる思いの雑魚です。 愛するドイツから追放されるハーバー。 枢密院顧問官として皇帝に仕えた比類なき愛国者、世界に冠絶するドイツ科学界の偉大な指導者と仰がれてきた天才は、ただのユダヤ人ハーバーと祖国から石もて逐われ客死する。 第三帝国と変じた祖国の蛮行が彼の耳目に届く前に命を召したのは残酷な神のせめてもの善意であったのかと。 運命の綾に思いを巡らせずにはいられない。
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