罪の轍 の商品レビュー
「吉展ちゃん誘拐事件」を下敷きに 昭和38年の日本が描かれている。 翌年に東京オリンピック開催を控え 好景気の中、浮き足立つ人たち。 しかし、地方では貧しさから 抜け出せない者たちがいた。 やはり、日本はどこかが歪んでいたのではないかと 思わずにはいられない。 その中で起きた誘...
「吉展ちゃん誘拐事件」を下敷きに 昭和38年の日本が描かれている。 翌年に東京オリンピック開催を控え 好景気の中、浮き足立つ人たち。 しかし、地方では貧しさから 抜け出せない者たちがいた。 やはり、日本はどこかが歪んでいたのではないかと 思わずにはいられない。 その中で起きた誘拐事件。 ネタバレになるので細かいことは書けないけれど、繊細な人物描写に気持ちをガッツリ掴まれてしまった。 楽しい読書の時間だった。
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奥田英朗が本気を出した。 まず読み始めてすぐにそう思った。それもそのはず、これはフィクションではなく、当時日本中を震撼させたであろう、『吉展ちゃん誘拐殺人事件』がモチーフとなっている。 親にとって一番大切なもの。それは子どもだ。自分が大切に大切に育てた宝物が何者かによって...
奥田英朗が本気を出した。 まず読み始めてすぐにそう思った。それもそのはず、これはフィクションではなく、当時日本中を震撼させたであろう、『吉展ちゃん誘拐殺人事件』がモチーフとなっている。 親にとって一番大切なもの。それは子どもだ。自分が大切に大切に育てた宝物が何者かによって連れ去られる気持ちは如何程のものだろうか。ましてや、命も奪われるなんて、想像に絶する。 幼い頃、継父によって当たり屋をさせられていた寛治は、その時に頭を打った後遺症で成人した今も物忘れが酷く、莫迦と呼ばれていた。 常に人に馬鹿にされ、利用されてきた寛治は空き巣の常習犯だ。北海道から流れて東京に住み着いた寛治は、初めて自分に親身になってくれる味方ができた。ヤクザ者の明男だ。 空き巣で得たインドの金貨を明男にあげると、その金貨が原因で、大きな事件へと発展していくことになる。 読みながら犯人は寛治だろうと想像はつくものの、寛治じゃなければいいなと僅かな期待を持ちながら読んだ。 誘拐や人殺しはもちろん許されないことだが、それでも寛治の生い立ちには同情の余地はある。 この事件を生んだ背景を思うと、ただただやるせない。
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北海道礼文島の雇われ漁師である青年、宇野寛治。幼少期の虐待により、脳に軽度の障害があり、記憶力が悪いとか、罪悪感などの感情が乏しいなどの症状を有している。礼文では蔑まれ、自由もなく、金もないため、町に出ては空き巣などし、そのうち礼文には居られなくなり、東京下町へ。そこでも空き巣を...
北海道礼文島の雇われ漁師である青年、宇野寛治。幼少期の虐待により、脳に軽度の障害があり、記憶力が悪いとか、罪悪感などの感情が乏しいなどの症状を有している。礼文では蔑まれ、自由もなく、金もないため、町に出ては空き巣などし、そのうち礼文には居られなくなり、東京下町へ。そこでも空き巣を行い、ヤクザの明夫と知り合い、ストリップ小屋で働き踊り子とねんごろになる。そんな中資産家の老人が殺害され、金庫が荒らされる事件が発生。警視庁捜査一課の落合刑事も所轄と一緒に捜査にあたる。捜査を進めていくとヤクザの他に宇野の影が見え隠れする。そして今度は豆腐屋の子供の身代金誘拐事件が発生する。この事件でも宇野が引っ掛かり、警視庁は疑いを深めていく。 ミステリではあるが、それよりも個々人の生き様や心理を、それぞれに感情移入しながら読むことが出来、非常に楽しかった。大変優れた文学作品と言って良いのではないだろうか。 この前に読んだ「罪と祈り」とは題名、昭和、東京下町、子供誘拐事件と設定が被るが、この600頁を最後までハラハラして、主要な人物の個性が感じられ、一息もつかせない面白さは数段上と感じた。 でも題名は当初の「霧のむこう」の方が良かった。船から霧の向こうに微かに美しい礼文島が、寛治の目を通して見えるような気がする。 今年一・二を争う小説であった。
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骨太の社会派,警察小説.犯人の丁寧な記述と捜査の醍醐味,またオリンピック間近の東京の空気感などページ数も多いが面白くてどんどん読めてしまう.何より人物が生き生きしていて,このような事件(吉展ちゃん事件)がそのままあったかのような気がした.これ,映画化されるのでは?
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まさに一気読みでした。当時の雰囲気、登場人物の造形、そして息をもつかせぬストーリー、と大満足です。さすが奥田作品です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
昭和30年頃の時代背景。まだ各家庭に電話が置かれ始めた頃。事件が発生すると刑事たちの捜査は足で稼ぐもので、容疑者の言葉を地道な捜査で崩していく様は読んでいて爽快でした。今のように情報がすぐさま届きスピード感があるものとは違う重厚感が良かったです。ただ、私は犯人と刑事の知恵合戦のような物語が好きなので、今回の事件の犯人に物足りなさを感じました(^-^;
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濃密過ぎて、においとかホコリとかまで感じた気になってる。 連載時は『霧の向こう』という題名だったとの事。 「うんうん、そうだよね。」 って思う。 どちらが良いという事はないけれど、 『罪の轍』は胸が掻き毟られる感じ。 解釈間違ってるかな。
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莫迦呼ばわりされながら礼文島で漁師手伝いをする空き巣犯の青年。元時計商の撲殺事件と小児誘拐事件。 容疑者、警察、やくざ、被害者、新聞記者など関係者のリアリティが圧巻。吉展ちゃん事件をモチーフにしているだけあって、誘拐事件捜査のバタバタ、東京オリンピック前年という時代背景も相まって...
莫迦呼ばわりされながら礼文島で漁師手伝いをする空き巣犯の青年。元時計商の撲殺事件と小児誘拐事件。 容疑者、警察、やくざ、被害者、新聞記者など関係者のリアリティが圧巻。吉展ちゃん事件をモチーフにしているだけあって、誘拐事件捜査のバタバタ、東京オリンピック前年という時代背景も相まって濃密な描写のストーリーだった。 19-117
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『吉展ちゃん誘拐殺人事件』がベースになっているのかな? 昭和30年生まれの私には、既視感のある作品だ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
犯人が覚醒してからが、怖い。 何を考えているのか? ゾクゾクする怖さがあった。 厚いし重いし、持ち運ぶのが大変だけど、文庫本になるまで待たなくてよかった。そう思えた一冊です。
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