世界を変えた勇気 の商品レビュー
伊藤千尋氏(1949年~)は、朝日新聞社のサンパウロ支局長、バルセロナ支局長、ロサンゼルス支局長などを歴任した、現在はフリーのジャーナリスト。「コスタリカ平和の会」共同代表、「九条の会」世話人なども務める。 本書は、全国商工団体連合会が発行する週刊紙「全国商工新聞」に連載した「憲...
伊藤千尋氏(1949年~)は、朝日新聞社のサンパウロ支局長、バルセロナ支局長、ロサンゼルス支局長などを歴任した、現在はフリーのジャーナリスト。「コスタリカ平和の会」共同代表、「九条の会」世話人なども務める。 本書は、全国商工団体連合会が発行する週刊紙「全国商工新聞」に連載した「憲法を活かす世界の人々」(2014年1~4月)と「したたかに生きる~抵抗と自立を求めて」(2017年8月~2018年3月)の2つのシリーズに加筆し、新たな内容も含めて一書としたもの。 著者がこれまでに取材で訪れた国は82ヶ国に上るというが、本書には、南米のチリ、アルゼンチン、ペルー、ブラジル、ベネズエラ、エクアドル、中米のコスタリカ、ニカラグア、プエルトリコ(米国)、ジャマイカ、キューバ、欧州のポーランド、チェコ、ルーマニア、バルト三国、ドイツ、オーストリア、アフリカのチュニジア、モロッコ、エジプト、アジアの韓国、ベトナム、ミャンマー、フィリピン、中国、そして米国の28の国と地域が登場する。 そして、そこで著者が目にした、民主化を求めて独裁政権に抵抗する毅然とした人びとや、極貧のスラムの中でも希望を持ち、豊かな生活を求めて活動する人びと、換言すれば、現在の日本では想像もできないような困難な環境の下、圧力にめげず、権力に屈することも忖度することもなく、信念を述べ行動する、美しい人びとの姿が描かれている。 私は、昭和30年代後半に生まれ、高度成長期前の日本の貧困期・混乱期を知らない世代であるが、1990年代初頭から欧州に駐在する機会があり、1989年の東欧の民主化から1991年のソ連の崩壊、2010~12年のアラブの春などには人一倍関心を持ってはいたものの、本書に描かれているような、現地に生きる人びとが実際にどのように行動していたのか、更には、時期的にも地理的にも離れた中南米における民主化の現地の様子を知る機会は、残念ながらほとんどなかった。 初出の連載に求められたメッセージの性格からか所々にある少々教訓じみた表現は気になるものの、それでも、日頃ニュースやドキュメンタリーでも取り上げられることの少ない国々の人びとが、自らの行動により歴史を変えていった様子にはとても心を動かされたし、これまで行く機会のなかった多くの国々を実際に訪れて、そこに生きる人びとと彼らが作る社会を自分の眼で見てみたいと強く感じたのである。 (2019年6月了)
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