落花 の商品レビュー
なかなかに読み応えのある話だった。 京都仁和寺から楽の道を極めるために坂東に下った二人の求道者。 坂東の雄、平将門の戦の中に響く生命の響き。 将門の生きた時代、楽の道を求めるものの姿を、その歴史とともにダイナミックかつ繊細に描いた本書は、なかなかに面白かった。
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平将門ってなんか勇猛な歴史上の武将という記憶しかなかったので新鮮でした(^^;) 。スピード感も読み応えもたっぷり。全体としては、風光明媚な霞ヶ浦(香取海)周辺を舞台に、琵琶の音や梵唄が流れつつ、血なまぐさい戦いまでもかくや美しく描写される映像美の世界が圧巻。さすがの直木賞候補作...
平将門ってなんか勇猛な歴史上の武将という記憶しかなかったので新鮮でした(^^;) 。スピード感も読み応えもたっぷり。全体としては、風光明媚な霞ヶ浦(香取海)周辺を舞台に、琵琶の音や梵唄が流れつつ、血なまぐさい戦いまでもかくや美しく描写される映像美の世界が圧巻。さすがの直木賞候補作でした。 wikiに「平将門の血筋は、大正天皇には女系を介して春姫の血が入っており、現代の皇室まで受け継がれている」とあり。ホンマかっ!
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やはりここで登場する将門も、私が今まで認識して来た、「歴史上特筆すべき愚かな武将」とはあまりにもかけ離れた、愛すべき人物だった。 はたして、どちらが将門その人に近いのか・・ キーワードは「新皇」だろう。 自らが望んだのか、はたまた本書が描いているように、周りが創り上げたものな...
やはりここで登場する将門も、私が今まで認識して来た、「歴史上特筆すべき愚かな武将」とはあまりにもかけ離れた、愛すべき人物だった。 はたして、どちらが将門その人に近いのか・・ キーワードは「新皇」だろう。 自らが望んだのか、はたまた本書が描いているように、周りが創り上げたものなのか。 やんごとなき血族の長男に生れながら父親に疎まれ、幼くして祖父の開いた寺に、捨てるかの如く放り込まれた寛朝。 およそ全ての芸事に通じ、名人の名を欲しいままにして来た父への尊敬・憧れ・そして憎しみ。 幼き日に聞いた豊原是緒の詠ずる唄に魅せられ、刻み込まれたその「至誠の声」への渇望。 遂には全てを捨て、その行方を追って坂東への旅に出る。 随行する下僕・千歳の正体、そして果てしない欲望。 一方で、自分の信念にのみ従い武士道を貫く もののふ将門。 気質も、生きる世界も、大きくかけ離れた二人の人生が理屈の埒外で繰り広げられる戦さの中で交錯する。 戦場の阿鼻叫喚の中、将門に聴く至誠の声。 寛朝の追い求めるその声とは・・ ◯寛朝・・主人公・仁和寺の僧侶。梵唄(声明)の名手として名を馳せるも、己の才能を認められず理想の声を追い求める。 ◯千歳・・寛朝の従僕として坂東への旅に随行。元は敦実親王家の雑色。 後の世の・・ ◯敦実親王・・寛朝の父。 醍醐天皇の弟。楽をはじめ和歌、蹴鞠、乗馬、鷹狩までに通じている。寛朝を激しく疎み遠ざける ◯寛平法皇・・寛朝の祖父。仁和寺の開基。 寛朝の才能を高く評価し可愛がるが、まもなく他界。 ◯平将門・・下総国猿島郡に住む平家所縁の豪族。純粋に、己を頼る者を守る為の戦いが、いつのまにか謀叛の首謀者に。 ◯平貞盛・・将門の従兄。 長きに渡り将門と争っている宿敵。如意の情人。 ◯異羽丸・・しゅう馬の党・首魁。傀儡女たちの兄貴分。盗賊ではあるが人の倫を外すことは無い。 ◯あこや・・香取の海を根城に船上生活する傀儡女集団の一人。心慶が目をかけ、琵琶の名器・有明を持たせる盲目の傀儡女。 ◯如意・・気性の激しい美形の傀儡女。あこやの姉貴分。将門の妹だと言われて育つが・・ ◯心慶・・元は「豊原是緒」と名乗り、都の楽人の間で「至誠の声」と呼ばれた名声の持ち主。 突然都を去り行方不明に。 ◯多治経明・・将門の股肱の家臣。忠義の武将。 寛朝も一目置く。
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時代は平安時代だろうか。至誠の声を求める寛朝と琵琶の逸品を求める千歳が坂東(関東)へと旅をする。その中で、平将門や傀儡女、盗賊の異羽丸らと出会う。千歳は琵琶に取りつかれ、人の道を外す。寛朝は戦場の平将門に至誠の声を聞く。落花は綺麗な花なのか、戦場の血なのか。地獄を見ながら芸術を追...
時代は平安時代だろうか。至誠の声を求める寛朝と琵琶の逸品を求める千歳が坂東(関東)へと旅をする。その中で、平将門や傀儡女、盗賊の異羽丸らと出会う。千歳は琵琶に取りつかれ、人の道を外す。寛朝は戦場の平将門に至誠の声を聞く。落花は綺麗な花なのか、戦場の血なのか。地獄を見ながら芸術を追い求める二人。 登場人物が多いので、最初は人物のメモをとりながら読むのが良いだろう。無駄な人物はおらず、誰もが歴史の中で翻弄されながら、歴史に流されていく。それを無常と言っても良いが、ここでは“落花”と表現するのが良さそうだ。
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安定感ある面白さ。文章が流麗で描写に過不足なく、人物像がイメージしやすい。自分の思っていた平将門像とほぼ一致していて、とても読み易かったです。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
平将門の乱を僧侶・寛朝目線で描いた物語。 至誠の声を学ぶため京から東国に下った寛朝は、京の理論が全く通らぬ荒ぶる東国の土地柄と、何にも縛られず自由奔放に生きる人々の姿を目の当たりにする。 そして謀反人・平将門と出逢い、その人となりに魅せられ親しくなっていく。 混沌とした世の中で、己の信じた義を守るため戦いを繰り返す将門。 後戻りすることなど決して出来ない不器用さに好感を持った。 雅な都と対比することで東国の荒々しさ獰猛さがより強調され、将門の苦悩も浮き彫りになっていく。 京の「音楽」と東国の「戦」、静と動、一見相反するこれらが折り重なると戦の不条理さを感じずにいられない。 貴族社会から武家社会へと移る変わり目をまざまざと見せつけられた気がした。 平将門目線の話も読んでみたくなった。 寛朝目線のせいか、戦の場面も淡々としていた気がする。 もっと荒々しさと盛り上がりも欲しかった。 特に後半、話の展開がちょっと強引すぎたかもね。
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落ち着いたたたずまいの表紙からはちょっと考えられないほど熾烈なお話でした。 読み応えという点では候補作中ナンバーワンでしょう。巻末の参考文献を見ても分かる通り、大変な労作であり力作であります。 時は平安の世。宇多天皇(寛平法皇)の孫であり、仁和寺の僧である寛朝は、音楽(梵唄)を...
落ち着いたたたずまいの表紙からはちょっと考えられないほど熾烈なお話でした。 読み応えという点では候補作中ナンバーワンでしょう。巻末の参考文献を見ても分かる通り、大変な労作であり力作であります。 時は平安の世。宇多天皇(寛平法皇)の孫であり、仁和寺の僧である寛朝は、音楽(梵唄)を求めて従者である千歳とともに東国に旅立ちます。 盗賊が跋扈し、荒ぶるかの地で出会ったのは、のちに朝敵となる男・平将門でした。 時代小説には詳しくないのですが、どうやら平将門を不器用にしか生きられない男として描いた点が新しいようです。合理主義に侵された現代の価値観で将門をみると、何てアホなやつなんじゃいと言いたくなる向きもあろうかと思いますが、謀反人の汚名を着せられてもなお自らの信念を貫き通す姿は単純にカッコよかったです。特に第五章で、寛朝と将門が再開・対峙する場面はぐっと胸に迫るものがありました。 もう一つの読みどころは音楽に憑りつかれた男たちのドラマです。梵唄に魅せられた寛朝と、琵琶(有明)に魅せられた千歳は、まるで合わせ鏡のようで面白かったです。彼らを含めた登場人物たちが抱える様々な屈託が明らかになっていく展開も、時代小説というよりはミステリ小説を読んでいるようでなかなか新鮮でした。 ただ前回の候補作『火定』と比べると人間関係が入り組んでいる分、読み進めるのがちょっと大変かもしれません。名前も似てますし。 傍らで人物相関図を書きながら読むといいと思います。
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初出2017年読売新聞 平将門を純粋な人間としてとらえ直した直木賞候補作品。取れるといいな。 貴族の音楽管弦朗詠の天才である父敦実親王に嫌われ仁和寺に入れられた寛朝は、父が関わらない梵唄(読経)を極めるために「至誠の声」の持ち主豊原是緒に師事しようと、その消息を尋ねて板東へ下り...
初出2017年読売新聞 平将門を純粋な人間としてとらえ直した直木賞候補作品。取れるといいな。 貴族の音楽管弦朗詠の天才である父敦実親王に嫌われ仁和寺に入れられた寛朝は、父が関わらない梵唄(読経)を極めるために「至誠の声」の持ち主豊原是緒に師事しようと、その消息を尋ねて板東へ下り、そこで平将門に出会う。 寛朝は心慶という僧になっていた豊原是緒から避けられ、彼の持つ琵琶の名器「有明」を手に入れて出世しようとする従者千歳と共に板東に留まるが、まっすぐな気性の将門が、彼を頼って逃げ込んでくる不逞の輩のために戦をする様子に「至誠の声」を聴いて、自分が何のために何を極めようとしているのかを考えてしまう。 やがて将門は寛朝はの諫めを聴かず、国司を追放して反乱を起こしてしまう。国衙や国分寺が焼かれて夥しい人が殺され、戦場で武者たちが殺し合う様子を、寛朝は心を揺さぶられながら客観的にとらえる。 心慶があこやという盲目の少女に与えた「無明」と名を変えた「有明」を、千歳は少女を殺して強奪し、千歳は半殺しにされるが、寛朝によって都に戻され蝉丸になるらしい。ということは寛朝も帰っちゃうわけね。 せっかく「この世の音に優劣などありはしない。あまねく声は至誠の声であり、同時に乱世亡国の声。我ら愚かな凡百が気付かぬだけで、世の中はすべて尊ぶべき妙音に満ち満ちているのではあるまいか。」と気付いたのに。
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「至誠の声」を求める寛朝。人の道を外れても琵琶の名器「有明」を求めた千歳。同じ傀儡女なのに正反対の在り方である如意とあこや。罪を背負いそれを償い続ける心慶。秩序のない坂東の地で真っすぐに生きる平将門。 坂東の地は血で染まる。 戦は全てを灰じんに帰す。 その中で寛朝は何を感じて何を...
「至誠の声」を求める寛朝。人の道を外れても琵琶の名器「有明」を求めた千歳。同じ傀儡女なのに正反対の在り方である如意とあこや。罪を背負いそれを償い続ける心慶。秩序のない坂東の地で真っすぐに生きる平将門。 坂東の地は血で染まる。 戦は全てを灰じんに帰す。 その中で寛朝は何を感じて何を見、何を得たのか? そもそも「至誠の声」とはなんぞや? 読み進めると初めと最後の寛朝の見方がずいぶん変わって行くのを感じた。
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寛朝と蝉丸と将門を交差させて,平安時代の藤原道長の絶頂の時代の少し手前の大和朝廷の横暴の内に飲み込まれてしまった将門の姿が哀しく美しく響く.また千歳の琵琶「無明」に固執する姿は何やら恐ろしく,芸のためというより芸術より出世のためのようでこれが蝉丸かと驚いた.寛朝もまた音曲に囚われ...
寛朝と蝉丸と将門を交差させて,平安時代の藤原道長の絶頂の時代の少し手前の大和朝廷の横暴の内に飲み込まれてしまった将門の姿が哀しく美しく響く.また千歳の琵琶「無明」に固執する姿は何やら恐ろしく,芸のためというより芸術より出世のためのようでこれが蝉丸かと驚いた.寛朝もまた音曲に囚われたところは同じだがさすがにのちの大僧正で,将門の戦の中に至誠の声を聴くという奇跡を見る.とにかく音曲に囚われた者と権力争いの戦に囚われた者達,そして哀しい傀儡女の織りなす世界は見事だった.
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