落花 の商品レビュー
落花と聞いて少し名残り惜しい美しいという印象をもって読み出したが、戦場における散りゆくさま、血の海の朱、どす黒いドロドロしたものだった。 その中に至誠の声を、将門、千歳、自分という人物を通して、それぞれが追い求め人間の欲とそうしないと生きてはいけない時代の生き様が仁和寺の寛朝(自...
落花と聞いて少し名残り惜しい美しいという印象をもって読み出したが、戦場における散りゆくさま、血の海の朱、どす黒いドロドロしたものだった。 その中に至誠の声を、将門、千歳、自分という人物を通して、それぞれが追い求め人間の欲とそうしないと生きてはいけない時代の生き様が仁和寺の寛朝(自分)によって描かれている。 最後はそうならざるおえなかったとして、寛朝としての至誠の声が物語を通して揺れ動くように無理なく落としこまれている。これこそが寛朝の僧としての落花なのだろう。 平安時代の難しい言葉を忘れないように覚えるように調べなおしながら読んだため約3週間かかった。 やはり祖父である宇多天皇は魅力ある人だったという印象がほんの少しの描写で強まり、もっと知りたいと思った。 勿論、寛朝、将門、蝉丸、お経についてもね。
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平将門の乱が起きる時期の関東を、京から来た僧の目を通して描く小説。 この時代をありありと描いた作品は珍しく、貴重ですね。 仁和寺の僧・寛朝は、皇族の血を引くが、早くから出家し、親に顧みられることもなかった。 寺の修業にある声明<梵唄>に魅せられ、<至誠の声>に近づくことを願って...
平将門の乱が起きる時期の関東を、京から来た僧の目を通して描く小説。 この時代をありありと描いた作品は珍しく、貴重ですね。 仁和寺の僧・寛朝は、皇族の血を引くが、早くから出家し、親に顧みられることもなかった。 寺の修業にある声明<梵唄>に魅せられ、<至誠の声>に近づくことを願って、はるばる関東まで旅に出る。 教えを請い、目指す境地に達したかったのだ。 声明を真剣に学ぶなど、考えたこともなかった世界ですよ。 寛朝は生きがいをそこに求め、ある意味では音楽を極めること、それを仏に仕える意味があると思っていたのでしょうか。 京の定めた法は関東にも届いているが、荒ぶる武者たちや貧しい農民にとっては、あまり実感がない。 強さや人間関係で揺れ動いていくのが実情。 平将門は器が大きく、魅力のある人間だった。 だが、人を信用しやすく、自分を頼って来た者を無下にすることはない。 それが次第にことを大きくし、しまいには災いを呼び‥ 寛朝は実在し、東密声明中興の祖とされる人物だそうです。 たおやかに育った京生まれの僧が、苦難の旅を越え、さまざまな階層の人間と交流します。 武士たちのやっていることは、外から見るだけですが。 戦いの悲惨さもまた、人の生きる姿として、とらえたのでしょうか。 救いはどこに。
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これやこの 行くも帰るもわかれつつ 知るも知らぬも逢坂の関 蝉丸 朝(あした)には落花を踏んで相伴つて出づ 暮(ゆふべ)には飛鳥に随つて一時に帰る 白楽天 この二編の詩が お気に入り または なんとな...
これやこの 行くも帰るもわかれつつ 知るも知らぬも逢坂の関 蝉丸 朝(あした)には落花を踏んで相伴つて出づ 暮(ゆふべ)には飛鳥に随つて一時に帰る 白楽天 この二編の詩が お気に入り または なんとなく 知っている そんな人には 強くお薦めです 「声明」 「日本の古楽器 特に琵琶」 に ご興味がある方にも 強くお薦めです 澤田瞳子さんの作品の巻末に 紹介されている 「参考文献」は いつもながら まことに 興味深く また なぁるほど感 満載です 平将門さんの時代が舞台として 描かれており 将門さんが「主」でないのも また 嬉しい
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将門と寛朝。 戦の世と音楽。 対になるのかと思っていたので、 将門があくまでも添え物だったのにびっくり。 そうか、主人公は寛朝だもんね。 でも、なんだかいまいち乗り切れず。 うーん、将門がこの扱いかぁ・・・
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人間の行動や考えや営み自体は本来は不浄なものではないと説く理趣経の精神を下地にして、戦による殺し合いも、盗みや妬みも美しさを併せ持っているというような世界観が描かれている。 終盤の将門が討たれるシーンは圧巻である。 蛇足ながら、最後に蝉丸の出自が出てきたことには驚いた。
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交響楽を聞き終わったような読後感。 梵唄(ぼんばい)、読誦(どくじゅ)、催馬楽(さいばら)など、 なじみのない漢語に悩まされたけど、 流れるような文の美しさ、 音と光を色にして、画布に塗りたくるような激しさが 心地よい。 いままで読んだ澤田瞳子の作品の中で、 一番色鮮やかだと思う...
交響楽を聞き終わったような読後感。 梵唄(ぼんばい)、読誦(どくじゅ)、催馬楽(さいばら)など、 なじみのない漢語に悩まされたけど、 流れるような文の美しさ、 音と光を色にして、画布に塗りたくるような激しさが 心地よい。 いままで読んだ澤田瞳子の作品の中で、 一番色鮮やかだと思う。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
NHK大河ドラマはほとんど観ないが、『風と雲と虹と』はなぜだか記憶にある。平氏一門の内紛のあげく、一族内で孤立。不本意ながら東国で新皇を名乗ることとなり、ついには京の追討使に討たれる。この本では、そんな将門の乱に関わって梵唄を磨くこととなる寛朝の物語だ。呪術を学ぶ中で、東密声明中興の祖とされる寛朝に興味をもったが、さて、戦乱の中を右往左往し、平氏敵味方どちらにも保護されながら風見鶏のごとく振る舞う僧侶に描かれる。とにかく、いつか成田山に行ってみたい。
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Amazon他で見ると世評の高い作品です。 確かに歴史小説に劇画的活劇を求めるのなら非常に面白い作品なのかもしれません。 でも私は駄目でした。 冒頭部分、主人公達が動き始める動機を描き切れない様に見えます。主人公の口から色々理由を語らせるのですが、何か腹に落ちないのです。思いの...
Amazon他で見ると世評の高い作品です。 確かに歴史小説に劇画的活劇を求めるのなら非常に面白い作品なのかもしれません。 でも私は駄目でした。 冒頭部分、主人公達が動き始める動機を描き切れない様に見えます。主人公の口から色々理由を語らせるのですが、何か腹に落ちないのです。思いの言葉は高いが、それを支えるものが脆弱~高調子なスタートです。 この状態が中盤まで続きます(ここらで挫折しそうになりました)。登場人物たちの様々な思いを、見かけた光景、態度やしぐさなどの間接表現を使わず、彼らの過激な物言いで直接的に表現します。そしてそれが次々に変化する。しかも思いが変わるから物語が変わるのではなく、物語を変えるために思いを変えさせているように感じられるのです。 後半、悲惨な戦闘場面が続きます。血沸き肉躍る劇画。ここまでやるかという感じで登場人物たちが死んできます。血なまぐさく過激な表現です。ただ、ここに来てこれまでの高調子がしっくり来るようになり、読み応えが出てきました。 澤田瞳子さん、wikiで引くと「日本の歴史学者(専門は奈良仏教史)、小説家。」であり澤田ふじ子の娘さん。 そんな経歴もあり、どうしても専門とする奈良~平安期を描いた重厚な歴史小説を期待してしまうのですが。。。
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馴染みのない時代の歴史は小説で味わうのがベストだなぁ、と思わせる作品。争いのシーンの血生臭さが半端ない。
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平将門の乱に関わる小説に出会ったのは初めて。 僧・寛朝の視点で描かれているが、史実に基づいているかは分からないものの作者の梵唄や詩の圧倒的な語彙力には驚きました。
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