ペンギン・ブックスが選んだ 日本の名短篇29 の商品レビュー
これが「ベスト短編29」と思わない方がよい.あくまでも編者の主観による「名短編29」である. とネガティブなことを書いたが,いずれも「日本の」という冠にふさわしい,様々な意味で「日本を表現している」といっていい短編ばかりであるように思う.またこれらを選出するためには非常に幅の広い...
これが「ベスト短編29」と思わない方がよい.あくまでも編者の主観による「名短編29」である. とネガティブなことを書いたが,いずれも「日本の」という冠にふさわしい,様々な意味で「日本を表現している」といっていい短編ばかりであるように思う.またこれらを選出するためには非常に幅の広いジャンルの小説に目を通しているのだろうと思うにいたり,感心した. 全29編の小説は,「日本と西洋」,「忠実なる戦士」,「男と女」,「自然と記憶」,「近代的生活,その他のナンセンス」,「恐怖」,「災厄 天災及び人災」という見出しで分類され,年代はバラバラであり,編者曰く「レンタルビデオ陳列」方式,ということであるが,特に「災厄 天災及び人災」という分野は,我々は普段意識しないのにもかかわらず,日本文学特有のジャンルであるのかもしれない.
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読み終えて「自分が読んでいない面白い小説というのは、まだまだこの世界に存在しているのだ」という至極当たり前のことを再確認して、改めて小説という世界にワクワクさせられる自分を発見した。 本書はハーバード大学の名誉教授であり、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』の英語版...
読み終えて「自分が読んでいない面白い小説というのは、まだまだこの世界に存在しているのだ」という至極当たり前のことを再確認して、改めて小説という世界にワクワクさせられる自分を発見した。 本書はハーバード大学の名誉教授であり、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』の英語版の翻訳者として知られるジェイ・ルービンが英国の大手出版社ペンギン・ハウスからの依頼で選出した日本の近現代の短編小説29作品を収めたアンソロジーである。 当初は年代別に編纂しようとしたようだが、作品を選定する中でむしろテーマ別に編纂すべきではないか、との考えにかられた編者は、7つのテーマを設定し、そこに29作品を配置した。結果として、このテーマ選定は日本の近現代文学の持つ特殊性をうまく引き出すことに成功している。 例えば「忠実なる戦士」というテーマでは日本固有の自死の形態である切腹をテーマに2作品が選ばれている。1作品は著名な三島由紀夫の『憂国』であり、2.26事件を舞台とした軍人とその妻が切腹に至る生々しい描写は、血なまぐささと共に最高級の官能美を持つ。 また「災厄 天災及び人災」では、関東大震災、広島の原爆や東京大空襲、阪神・淡路大震災、東日本大震災を題材に、作家が何を感じ取ったのかがそれぞれの方法論で伝わる良いテーマ選定である。特に東日本大震災をテーマとした作品では、自らも被災者である佐伯一麦が避難暮らしの生々しさを描いた「日和山」や、佐藤友哉の作品であり原発事故によって放射性物質を帯びた水や野菜だけを執拗に実の赤ちゃんに与え続けるというグロテスクな「今まで通り」が素晴らしい。 名前を知らない作家も若干いたが、そうしたものも含めて日本の近現代の優れた短編小説を読めるアンソロジー。冒頭に収録された村上春樹による「切腹からメルトダウンまで」という序文も素晴らしい。
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村上春樹の序文読みたさに読んでみた。といっても春樹氏が言ってるように福袋みたないいろんなに作家たちの新旧問わずいろんな時代の小説がお楽しみ袋のように詰まってる。 時間がなくて全部は読みきれず、興味の引いたものだけ拾い読み。 とりわけ印象に残ったのは、 ・三島由紀夫 ”憂国” 切腹”を世にも美しいものと信条していたことがこれを読むとわかる気がした。 ・多恵子 ”箱の中” 嫌な女だからってエレベーターの各階を全部つけて降りるってすごい。しかも二度と会わない人ではなく同じ住居で使ってる箱でだよ。 ・川上未映子 ”愛の夢とか” リストのピアノ曲愛の夢を間違わずに弾くまで隣人の家(60~70代の女性テリーと呼んでという不思議な人)を訪ねることになったなんの仕事をしていない主婦のビアンカ(と呼んでと思わず言ってしまった主人公) 春樹の短編も二編載ってた。 他の小説も時間がある時、じっくり読みたい。
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