カッコーの歌 の商品レビュー
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池に落ちて記憶を失った少女・トリス。目覚めてから異常な空腹に苦しみ、いつも身体には枝や葉が纏わりついている。原因を調べていく内に、近づく者を刺す人形、人を飲み込む影、そして異形のはぐれ者「ビサイダー」といった、不可思議な者達と出会い、その世界に足を踏み入れていく。 ビサイダーの描写が薄い点は惜しまれるが、ホラーやファンタジー、成長譚、そしてマイノリティの寓話という多岐にわたる要素が、高い完成度で統合された傑作。個人的にかなり面白かったので、以降は特に印象的だった点を記載します。 本作の真価は、物語が中盤に差し掛かり、真相が発覚した時です。チェンジリングによって人間の少女とすり替えられていたトリスタは、記憶を失っていたのではなく、そもそも“偽物”であり、怪物でした。この事実を知った彼女の物語は、“失われた記憶”を求める「自分探し」から、攫われた本物の少女・トリスを探索し、空っぽだった自分を構築する為の「自分探し」へとシフトします。 この「かつての自分(トリス)の探索」と「今の自分(トリスタ)の構築」というストーリーが特に目を惹きました。相克する二人を両方とも助けようとする、無茶なお題目が、本作で特にユニークな特徴でした。 本物のトリスの記憶に翻弄され、時に苦悩しながらも、トリスタが自らの意思と経験によって、新しい「自分」を紡ぎ上げていく過程は、非常に面白く、そして切ないお話となっています。 もう一点は、トリスタとビサイダー達との関係です。偽物として拒絶されたトリスタと、人間でないという理由で潜伏を強いられるビサイダー達は、最大の敵であるにも関わらず、境遇が鏡のように呼応しています。排除され、居場所を失った者たちが、新たな世界に自分の立ち位置を作ろうとする構造は、現実社会におけるマイノリティの姿とも重なります。 『カッコーの歌』は、異形の者を主役に据えることで、逆説的に「人間らしさとは何か」を問いかけてきます。設定そのものは過去の作品で目にしたことがあるかもしれませんが、本作はトリスタというキャラクターを視点の中心に据えたことで、これまでにない「怪物側の冒険譚」として、ユニークな物語を紡ぎ出しました。 まがい物だった偽物の少女が、それでもなお「本物になろう」とする姿は切なく、怖く、優しく、胸を打つ。極上の異界譚となっています。
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海外文学ならではの表現と世界観にワクワクした。 押し付けがましくないけれどストレートな名言が多く、ファンタジーの世界観も相まって入って来やすい。 やっぱりこの作者の文体は長編ながらもスラスラと読めて、世界観に没頭できるのが良い。 自分というものを形作るのは何かということを11歳の...
海外文学ならではの表現と世界観にワクワクした。 押し付けがましくないけれどストレートな名言が多く、ファンタジーの世界観も相まって入って来やすい。 やっぱりこの作者の文体は長編ながらもスラスラと読めて、世界観に没頭できるのが良い。 自分というものを形作るのは何かということを11歳の純粋で複雑な少女に教えてもらえる。 ハサミや小道具の使い方がやっぱり素敵だと思う。 子供だろうが親だろうが、人間なら複雑で不透明で、関わり方によって見え方が変わるし、間違えることもある、人間臭い人物描写もこの作者のお気に入りの点。
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「あと七日」 池に落ちて意識を取り戻したトリスの耳に囁かれる声。 おぼろげな記憶。 耐え難いほどの異常な食欲。 声を上げて動き出す人形。 その人形を食欲に導かれるままに食べてしまう。 十一歳の娘、トリスの身に何が起こっているのか。 「嘘の木」がとても素晴らしかったのでハーディ...
「あと七日」 池に落ちて意識を取り戻したトリスの耳に囁かれる声。 おぼろげな記憶。 耐え難いほどの異常な食欲。 声を上げて動き出す人形。 その人形を食欲に導かれるままに食べてしまう。 十一歳の娘、トリスの身に何が起こっているのか。 「嘘の木」がとても素晴らしかったのでハーディング作品をもうひとつ読んでみようと思い手に取りました。 どファンタジーだなぁ。 「嘘の木」はミステリー、サスペンス、ファンタジー、冒険、そして少女の成長と、良い感じに配分されていて、そこが素晴らしかったのよ。 でも今回はファンタジーに寄りすぎだなぁ。 これが本来のハーディングなのか、そうでないのかは分からないけど。 中盤までは辛い。 なにがなんだか分からない状態が続くので。 後半はいいね。 特に女3人チームでの冒険。第一次大戦終戦直後のイギリスを舞台に、少女2人をサイドカーに押し込んでバイクでぶっ飛ばすのは想像してもカッコイイ。 列車の場面もいいな。 「嘘の木」のレビューでも書いたけど、今作も是非ジブリあたりでアニメ化して欲しい。 かなり相性が良さそうな気がするんだよな~。 本で読むと分かりづらかったり、くどそうな部分も、アニメ化することでスッキリできると思う。 なんとなくだけどストーリーは全く違うのに空気感が「ハウルの動く城」っぽいなとも感じた。 関係者さん見てる? 早く作者や出版社と話付けてツバつけないと他に取られちゃうよ。 ジブリの知り合いの知り合いの知り合いでもご存じの方は、勧めてあげてください。 がっつりなファンタジーで、しかも主人公は十一歳の女の子で、なかなか自分には入り込むのが難しい作品だったけど、悪くはないんだろうと思う。 発想はおもしろい。 俺には合わなかっただけで。 ま、まあ、よくあることや_| ̄|○ う~ん。もう1作くらい読んでみようかな~。 どれにしようか……。
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そのスケールの大きさに驚嘆するファンタジー。 とにかくワクワクハラハラしながら読んだ。とても面白かった。 そして巻末の深緑野分さんの解説が素晴らしい。 うんうん、そうなんだよ!って自分の頼りない語彙力を補って余りある筆力。 ストンと気持ちよく腑に落ちて本を閉じた。読書ってやっぱり...
そのスケールの大きさに驚嘆するファンタジー。 とにかくワクワクハラハラしながら読んだ。とても面白かった。 そして巻末の深緑野分さんの解説が素晴らしい。 うんうん、そうなんだよ!って自分の頼りない語彙力を補って余りある筆力。 ストンと気持ちよく腑に落ちて本を閉じた。読書ってやっぱりいいな!
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妹と共闘するあたりから面白くなって一気に引き込まれた。家族を題材にした作品はどうしても親目線で読んでしまう。子どものころに読んでいたらどう感じただろうかとふと思った。
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☆4.7 20世紀初頭、11歳のトリスは別荘滞在中に高熱を出して意識をなくした。 池に落ちてずぶ濡れになっていたらしい。その上、熱のせいか前後の記憶がなくなってしまった。 目覚める時に聞こえた「あと七日」という耳ざわりな声が頭に残るが、一体何のことかわからない。 なくした記憶に...
☆4.7 20世紀初頭、11歳のトリスは別荘滞在中に高熱を出して意識をなくした。 池に落ちてずぶ濡れになっていたらしい。その上、熱のせいか前後の記憶がなくなってしまった。 目覚める時に聞こえた「あと七日」という耳ざわりな声が頭に残るが、一体何のことかわからない。 なくした記憶に関係があるのだろうか。 時を同じくして、トリスの体にも異変が起こりはじめる。 恐ろしい飢えを感じるほどの空腹に悩まされるようになったのだ。 父親は何かトラブルを抱えているようで、トリスが池に落ちた件もどうやら無関係ではないようだ。 そして妹のペンにはすごく嫌われている。 ついには「偽物」と罵られるまでになってしまった。 朧気に思い出す記憶にも不穏な影がつきまとい、異常な空腹感もトリスを追いつめる。 目覚める時に聞こえる声は、カウントダウンのように日数が減ってゆく。 そんな中、家族の目をぬすみペンが家を抜け出すことに気付き追いかけた先で、思わぬ真実を知ることになる。 読み始めた時には、こんな展開になるとは思ってもみなかった。 人は一つの面から見えるものだけではちっとも理解したとは言えないな、と改めて教えられる。 それがメインの人物だけでなく脇役までも書かれているのが、流石のハーディング。 ハサミでちょっきんと割り切れた要素だけの存在なんてないよね。 目覚めてから自分のことすらわからなくなってしまうトリスだけど、共に進む存在ができてからは前半の覚束なかった足取りとは変わって、迷いながらも地に足ついてとにかく進んでいく姿がいじらしくもとても勇敢。 ずっと頑張れって思いながら読んでた。 その勇気も意気地も狡さもためらいも足掻きも、全部全部包み込んで抱きしめてあげたい。 ラストシーン、きっと背筋を伸ばして凛としてるだろう彼女の後ろ姿に、いつまでもいつまでも手を振って見送ってあげたい。 大好きだ。
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すっっっっごくおもしろかった!!!いやー最初は分厚さにひるんだけど、読んでよかった。傑作ファンタジーという触れ込みどおり、傑作ファンタジー。みんな読んで………… 舞台は第一次世界大戦終わって間もない1920年のイギリス。主人公、11歳の病弱な女の子トリスは目を覚ます。グリマーの...
すっっっっごくおもしろかった!!!いやー最初は分厚さにひるんだけど、読んでよかった。傑作ファンタジーという触れ込みどおり、傑作ファンタジー。みんな読んで………… 舞台は第一次世界大戦終わって間もない1920年のイギリス。主人公、11歳の病弱な女の子トリスは目を覚ます。グリマーの池に落ちて記憶を失ったらしい。少しずつ思い出す。やたらとトリスを嫌い憎む妹のペン。地元の名士である両親。しかしなにかがおかしい。トリスの周りで起こる奇妙で不気味な現象、ペンや両親の不可解な行動言動。たまにやってくる戦争で死んだ兄のセバスチャンの元婚約者・ヴァイオレットはいつもひとところに留まらない。次々と起こる奇妙な展開にトリスと共に置き去りにされそうになりながら必死で物語に食らいついていく。 しかしそれら嵐のような奇妙な出来事や些細な描写は、全て物語の伏線なのだ。だからこれ以上作品のあらすじは述べない。それらの伏線がまとまり明かされ始めたとき、不気味ささえある幻想奇譚は手に汗握るワクワクハラハラの冒険譚に変わる。話が進むにつれて深まる登場人物の人物像と魅力。 もうめちゃくちゃ面白かった。映像で見てみたいな。絶対すごい迫力になる。 でもね、面白いだけじゃない。 世界はそんなに単純じゃないことも、誰かにとって都合よく出来ていないことも、この物語は教えてくれる。簡単に善悪を決め切ることはできないのだ。 そしてアイデンティティについて考える機会もくれる。ちなみに解説は深緑野分さん。 この作者の作品がもっと読みたい。ので、もっと邦訳されないかな…!ひとまず今度嘘の木を読みたい。
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これぞ!!ファンタジー!! 最初からドキドキそわそわしながら読み進め、最後もとっっても素敵!! めちゃくちゃ面白いお話やった。 『自分』とは。という事も色々考えさせられた。 しかし、ヴァイオレットカッコよすぎ。あんな風になりたい。 フランシス・ハーディングさんと児玉敦子さんタッグ...
これぞ!!ファンタジー!! 最初からドキドキそわそわしながら読み進め、最後もとっっても素敵!! めちゃくちゃ面白いお話やった。 『自分』とは。という事も色々考えさせられた。 しかし、ヴァイオレットカッコよすぎ。あんな風になりたい。 フランシス・ハーディングさんと児玉敦子さんタッグの本ほんまに面白い!!
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”取り替え子”ものを小説で書くとこうなるのか…怖いな… でも取り替えられた側の子視点で動くと…というifをテーマにしたってのは面白い試みだと思う すごい
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『嘘の木』の著者による作品。『嘘の木』に比べると、こちらはミステリ色は薄く、ファンタジーやホラー寄りの作品になっている。疾走感のある展開は健在で、読んでいる間に何度感情を揺さぶられたことか。この著者に出会えてよかったと思える傑作だった。
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