ブラッド・メリディアン あるいは西部の夕陽の赤 の商品レビュー
一言で、血なまぐさい。 しかし、人間の本性というか、根っこというか、生物の一種としての存在としてというか、そういう部分では、もしかしたらこういう感覚や行為はあるのかもしれない。 読み進むのに楽ではないところもあるし、この本を読んでいる間はずっと鼻の奥に血の匂いがあるような感じまで...
一言で、血なまぐさい。 しかし、人間の本性というか、根っこというか、生物の一種としての存在としてというか、そういう部分では、もしかしたらこういう感覚や行為はあるのかもしれない。 読み進むのに楽ではないところもあるし、この本を読んでいる間はずっと鼻の奥に血の匂いがあるような感じまでしたが、人間とはどんな生き物なのかということをマザマザと見せつけてくるような感じという点では、すごい存在感がある一作。 読む人は選ぶのかもしれないけれど。
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人生ベスト級 句読点が少なくセリフに「」がなかったり読みづらくはあるのだが冷徹さと重厚さを備えていて唯一無二のその文章には圧倒される。人にはお薦めしづらい内容ととっつきにくさはあるのだが興味をもった人にはぜひ読んでいただきたい 読んだあと意外だったのはこの話はSamuel E. ...
人生ベスト級 句読点が少なくセリフに「」がなかったり読みづらくはあるのだが冷徹さと重厚さを備えていて唯一無二のその文章には圧倒される。人にはお薦めしづらい内容ととっつきにくさはあるのだが興味をもった人にはぜひ読んでいただきたい 読んだあと意外だったのはこの話はSamuel E. Chamberlainの自伝『わが告白』に描かれているグラントン団での出来事を元ネタにしているということだった。名前までそのまんまだ。さらにびっくりなのがあの超人然とした判事までもがモデルがいるという。俺は本書の判事が好きで彼の語っていることは完全に同意せずともそれなりに共鳴するところもあり気に入っている。 あまり関係ないが俺はウィスキーが好きじゃなくあまり飲めないのだがよくみんながぶがぶ飲めるなと感心する。アメリカ人はみなこんなに酒をするりと飲めるのだろうか
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
物語の大半の舞台となっている、生きものを寄せつけず死体をすぐにからからに干からびさせてしまうアメリカ西部の岩だらけの原野のようにゴツゴツとした文体は、最初は読者を拒絶するようでもあるが、読み進めるうちになぜかペースに乗せられてしまう。何しろ長いので、読んでいるうちに慣れてしまう。むしろハマってしまう。 当たり前のように虐殺シーンが続くが、それが当然の時代だったというわけでもなく、この時代にあっても特に荒くれ者の(実在した)頭皮剥ぎ集団に身を置くことになった少年の物語。物語の終わりには少年ではなくなるので、ある意味ではビルドゥングスロマンに相当するのかなと思った。 感想を書くのは難しいが、何となく分かったような気がする部分と、こりゃ分からんお手上げだという部分があって、そのぐらいの歯ごたえのある文章を読むのは単純に楽しい。 特に強烈だったのがホールデン判事というキャラクター。いつの間にか存在に気付いたが読み返してみたらもう冒頭ぐらいから登場していた。何しろ風貌が怪異で、この風貌を描写するマッカーシーの文章が冴えに冴えている。何度も描写されるが毎回異なった表現がつけられていて、この部分だけをまとめた引用文集を作ってみたいぐらい。またこの判事の発言が実に哲学的で含蓄に富んでいて、理解できない部分が多いのだが、これもまたまとめてみたい。
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グラントン隊というインディアンの頭皮を狩ることで賞金を稼ぐならず者集団が、殺戮を繰り返しながらただひたすら旅を続ける話。 アメリカ南部の広大な砂漠の自然描写、夜の焚火など、乾ききった風が物語全体から感じ殺戮描写がまるで自然現象のようにあっさりと描写され、殺戮巡礼の旅の合間に時折...
グラントン隊というインディアンの頭皮を狩ることで賞金を稼ぐならず者集団が、殺戮を繰り返しながらただひたすら旅を続ける話。 アメリカ南部の広大な砂漠の自然描写、夜の焚火など、乾ききった風が物語全体から感じ殺戮描写がまるで自然現象のようにあっさりと描写され、殺戮巡礼の旅の合間に時折ホールデン判事が独自の哲学を語る。「人間は何かを懸ける遊戯が大好きであり戦争はその完成された作品だ。最高の作品が最高の語り手を待っていたのだ。」 殺戮と侵略、これがアメリカの歴史であり人類の歴史であるかのようだ。著者は事象のみあるがまま記述し自身の思慕を語ることはない。自然の摂理からすれば生命の倫理なんて人類がでっち上げたものにすぎず永遠の戦争状態こそ人類のあるべき姿だし自然のあるがままの姿なのだろうか。 読んでいると思わずホールデン判事に諭されそうになってしまいそうだが、もし判事の言っていることが正しいのならば、人類が長い歴史の中で永遠と続く闘争を克服しようとしてきたことも事実ある。この事実と判事の主張は矛盾してはいないかと個人的には感じる。(ホールデン判事からは自然の摂理を無理やり捻じ曲げているだけだと喝破されそうだが。) また、あとがきで著者が語っていた内容が非常に印象的だった。 「流血のない生などない。人類はある種の進歩をとげて、みんなで仲良く暮らせるようになり得るという考えは本当に危険だと思う。そんな考えに取り憑かれた人たちはさっさと自分の魂と自由を捨ててしまう連中だ。そういうことを望む人間は奴隷になり、命を空虚なものにしてしまうだろう。」
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本書を読んで思い出したのは、1960年代のアメリカで出版された偽書、アイアンマウンテン報告であった。平和というのは異常なのであり現代社会は戦争があるのが平常である、というテーゼから戦争を賛美するこの偽書は未だにカルト的な賛美を集めている。 本書、『ブラッド・メリディアン』は18...
本書を読んで思い出したのは、1960年代のアメリカで出版された偽書、アイアンマウンテン報告であった。平和というのは異常なのであり現代社会は戦争があるのが平常である、というテーゼから戦争を賛美するこの偽書は未だにカルト的な賛美を集めている。 本書、『ブラッド・メリディアン』は1850年頃のアメリカを舞台として血が血を洗う暴力こそが社会にとって必要だということを描き出す暴力小説である。アメリカ先住民を撲滅するために暴走した私兵軍団は、先住民のみならずメキシコの人民も含めて旅路で出会う人間を皆殺しにしていく。そして、殺害の証拠として彼らが集めるのは殺した人間の頭皮である。死骸から頭皮を剥ぎ取るシーンのグロテスクさは筆舌に尽くし難い。 そして判事と呼ばれる謎の登場人物が滔々と語る暴力の正当化理論は、アイアン・マウンテン報告に似た形で暴力を賛美する。ひたすら暴力が繰り返される社会とはどんなものなのか、そこで加害者は何を思うのかということをここまで突き詰めた小説というのはそうそうないだろう。 全く万人にはお勧めできる作品ではないが、私のように他作品でコーマック・マッカーシーの世界に魅力を感じているのであれば、彼の一つの極地として本作を読むのは悪くないと感じる。
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乾ききった大地を進み 汚れに汚れ、殺す、虐殺する 原住民であろうがなかろうが まるで、それが当然の自然の行為であるかのように 語られるほどの神も法もなく、 なんの感情も必要以上の情報も加えず描き切る。 凄惨なはずの津を死も不合理な死も あさましい生と同等に当然、自然の存在、行為と...
乾ききった大地を進み 汚れに汚れ、殺す、虐殺する 原住民であろうがなかろうが まるで、それが当然の自然の行為であるかのように 語られるほどの神も法もなく、 なんの感情も必要以上の情報も加えず描き切る。 凄惨なはずの津を死も不合理な死も あさましい生と同等に当然、自然の存在、行為として なにもまじえず描かれる。 自分たちが倫理の名のもとに飾っている世界が 乾いた風に吹き飛ばされ、腐敗した肉と乾いた風に 吹きさらされた骨と皮、朽ち果てるであろう人工物 その葬列の中を生き延びた先に待つのは悪のダンス
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アメリカ西部の歴史はある意味虐殺の歴史。 荒野の焚き火の中で浮かび上がるような血みどろの判事の神々しさに、畏れを感じると同時に惹かれざるえない。
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この著者の作品を読んだのは『ザ・ロード』以来の2作目でしたが、これは読み手を選ぶ作品ですね。自分の場合、初読時はまったく乗れませんでした。インディアンの狩りが延々続くストーリーは単調だし、映像化不可能かつPTA有害図書指定確実な極悪非道で残虐なシーンのオンパレードに辟易。極めつけ...
この著者の作品を読んだのは『ザ・ロード』以来の2作目でしたが、これは読み手を選ぶ作品ですね。自分の場合、初読時はまったく乗れませんでした。インディアンの狩りが延々続くストーリーは単調だし、映像化不可能かつPTA有害図書指定確実な極悪非道で残虐なシーンのオンパレードに辟易。極めつけは時折出てくる句点で区切らない異常に長い文章で、読みにくいったらありゃしない・・・といった印象だったのですが、頑張って読み返してみるとこれはこれでなかなか味があるようにも思えてきました。 本作のキモはホールデン判事が語る言葉の数々であることは疑いようがありません。自分が一番シビれたのは「人間が登場する前から戦争は人間を待っていた。最高の職業が最高のやり手を待っていたんだ」でしたが、これを始めとした生と死、善と悪、神と人間といった哲学的な内容にリアリティを持たせるための舞台装置として、先述した残虐なシーンとか、シンプルなストーリー展開とか、読者に緊張感を与える長い文章とかを揃えているんだな、と解釈しました。そう考えると著者の伝えたいことは伝わってきたし、これも一つのオリジナリティだとすれば、好きなタイプの小説ではないけれどまあ悪くもないかな、と思えてきました。 正直誰にでもお勧めできる作品とは言い難いのですが、現代小説に物足りなさを感じている人、硬派で歯ごたえがあるスルメのような作品を欲する人であれば、かなり楽しめるのではないかと思います。
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