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選べなかった命 の商品レビュー

4.3

46件のお客様レビュー

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2019/12/30

医師の勧めで出生前診断(羊水検査)を受けた41歳の女性。結果は陰性だったが、生まれてきた子はダウン症だった。それに起因する様々な疾患のため、3ヶ月半でこの世を去った子・天聖。医師の単純なミスで結果を誤って伝えられた両親は、その後の対応への不信感もあり裁判を起こす──。なんのための...

医師の勧めで出生前診断(羊水検査)を受けた41歳の女性。結果は陰性だったが、生まれてきた子はダウン症だった。それに起因する様々な疾患のため、3ヶ月半でこの世を去った子・天聖。医師の単純なミスで結果を誤って伝えられた両親は、その後の対応への不信感もあり裁判を起こす──。なんのための、誰のための検査なのか、異常が見つかったら中絶すべきなのか、生まれてきた子が障害を持っていたら……などなど、様々な疑問や考えが交錯するなか読み終えた。当然、答えなど出せない。……全然関係ないが、実の親に虐待され命を落とした子たちも、妊娠中にこの検査を受けて生まれてきたのだろうかと、ふと思った。

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2019/12/02

この感想を書くには自分があまりにも無知過ぎて、どう言葉を選べば良いのか…本当に難しい。 でも、何か書かないと忘れていってしまう。それだけは避けたい。 著者の河合香織さんは、自身の出産も非常に困難だったことから、出生前診断の誤診をした医師を提訴した女性の事を人ごととは思えず、彼女...

この感想を書くには自分があまりにも無知過ぎて、どう言葉を選べば良いのか…本当に難しい。 でも、何か書かないと忘れていってしまう。それだけは避けたい。 著者の河合香織さんは、自身の出産も非常に困難だったことから、出生前診断の誤診をした医師を提訴した女性の事を人ごととは思えず、彼女に会わねばならないと強く感じたそうだ。 あとがきには、「取材を始めて5年の月日が経った」と書かれていたから、いかに長く河合さんがこの件とそれを取り巻く様々な問題に向き合っていたかが伺い知れる。 この本では、優生保護法についても書かれているが、かなり掘り下げて調べ、取材もされている。それは、出生前診断が優生思想と繋がるものだとする考えからに他ならない。出生前診断は突如として現れたのではなく、優生思想から生まれた優生保護法から続くものなのだ。 出生前診断による「命」の選別。非常に難しいテーマだ。 その立場に立ったことのない私には、どちらを選んでも心に何らかの禍根は残るであろう、ということくらいしか言えない。 以下に印象に残ったフレーズをあげておく。 ・「なんでもかんでも人間がコントロールできると考えて抗っている社会ですが、それが本当にいいことなのかと思うのです」ダウン症児をもつ弁護士の言葉。 ・「医師の言うことを患者が何でもきく時代ではないのは、間違いない。しかし、医療において大切にされることが、訴訟を起こされないことだとすれば、その代償は大きい」著者の言葉。 ・「医療者は親の意思決定を支える立場で、本当の自分の思いを隠していなければいけません。育てていくのは親御さんです。けれども、どこまで親は意思決定できるものなのでしょうか?子どもの立場に立ったらどうでしょうか?本来はその子どもの生命力で生きるか生きられないかは決まるのだと思います。  思い障害があれば、生きていても苦しいことも多いかもしれない。けれども、中絶の痛みの方がもしかしたら大きいかもしれない。餓死の方がずっと苦しいのかもしれない。なぜ親がそれを決められるのでしょうか」高田助産師の言葉 ・「女性の権利運動の成果として中絶が合法化された欧米諸国とは違い、日本では歴史的に中絶と優生が抱き合わせの状態から始まったため、退治条項を議論するときに優生思想との関係を避けて通れない。 勧告があったのちも、国会などの公の場において、あるいは新聞やテレビなどのマスメディアにおいて、胎児の障害を理由とした中絶、いわゆる胎児条項についてはほとんど踏み込んだ議論がなされることは未だない」著者の言葉 ・光はずっと命を選択する時は、「崖に落とされそうになって指一本でつかまっているギリギリのところで判断する」と話していた。原告光の言葉を著者が引用 ・「重視されるべきは女性の自己決定権なのか、障害者の尊厳なのか、公共政策なのか、医療なのか」優生保護法を巡る裁判を受けて著者の言葉 ・「絶対の悪もないし、絶対の善もねえんだよな、本当は。その人にとっては悪でも、別の人にとっては善だよな」光の父の言葉 2019.11.30

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2019/11/06

ノンフィクション作家であり、「セックスボランティア」の著書を持つ河合香織さんの著。 出生前診断という言葉を成人した人なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。妊婦が胎児の染色体異常について出産前に知るための検査のことです。 本書は、出生前診断を受けて陰性と伝えられた女性...

ノンフィクション作家であり、「セックスボランティア」の著書を持つ河合香織さんの著。 出生前診断という言葉を成人した人なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。妊婦が胎児の染色体異常について出産前に知るための検査のことです。 本書は、出生前診断を受けて陰性と伝えられた女性が、誕生した我が子がダウン症だった事例について裁判を起こしたことがきっかけで聴取が開始され、様々な立場からこの事柄についての視点を提示する本となっています。 女性は「診断結果が陽性と知っていれば、人工妊娠中絶を選択した確率が高く、そうなれば児の得た苦痛は無かった」とし、そのことに対する損害賠償請求を行いました。 それに対する医師側弁護士とのやりとりや著者が傍聴席で聞いた一連の流れから「出生前診断とは」というところに焦点をあてて本文が進行してゆきます。 「様々な立場」と書きましたが、具体的には ・我が子が「ダウン症」だとわかっていたら産まなかったという人(妊婦とその夫、妊婦の父) ・ダウン症の児を里子に出した女性 ・ダウン症の児を里子として預かり、育てる人 ・無脳症の児を出産した人 ・出生前診断に関わる医師と看護師 ・ダウン症当事者 ・裁判にて医師側弁護を務めた弁護士 このような人々です。 出生前診断というものがどういうものか、仕組みは理解できても実際に当事者になってみなければ分からないものだな、と私自身思っていたのですが、当事者であっても(本文中の言葉を借りるなら)「決断というのは、迷って迷って、崖に落とされそうになって、最後の指一本でつかまっているギリギリのところで決めるもの」だということを知り、最後まで正解もなければ強制されたり、周囲から指摘されることでもないのだなと、今更ながらに考えが至りました。 本書は上記の裁判を中心とした構成になっていますが、「人工妊娠中絶」や「ダウン症」「正常変異」「優生思想」(とくに優生思想は歴史的側面について詳細に記載されています)、「母体血清マーカー検査」「レスパイトケア」など関連する項目について(全く医療の知識のない人間でも)わかりやすく記載されています。 ずっと心の片隅にあったモヤッとした疑問の正体は「優生学」に基づくものなんだ、ということが分かり個人的には腑に落ちた本でした。 著者も何度も試みた結果叶わなかったわけですが、この件に関わった医師本人から聴取ができていたら、今後出産を控えた人のみならず、ほぼ全ての人間がこの問題に向き合うきっかけとなり得た本ではないでしょうか。 (”医師”という立場からの視点を補完する目的として、本書では別の医院の医師からの聴取が記載されています) 大変勉強になりました。

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2019/10/22

とても考えさせられる本だった。出生前診断の誤診で誕生したダウン症の子供。たった三カ月でこの世を去った。誤診した医院を提訴した母親への取材をまとめたノンフィクション。提訴した心境は複雑。母親だけでなく、ダウン症の当事者、ダウン症だと分かって産んだ人、被告の弁護士、医療側などへの取材...

とても考えさせられる本だった。出生前診断の誤診で誕生したダウン症の子供。たった三カ月でこの世を去った。誤診した医院を提訴した母親への取材をまとめたノンフィクション。提訴した心境は複雑。母親だけでなく、ダウン症の当事者、ダウン症だと分かって産んだ人、被告の弁護士、医療側などへの取材から多角的に出生前診断による命の選別という行為の意味に迫る。読んでもどうしたらよかったのか分からない。分からないものなのだろう。また読んでみたい。そういう作品でした。

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2019/09/06

ううん。読んでいるうちに、気持ちは二転三転したけれど、最後に心に残ったのは、被告側弁護士の言葉と、今までに出会ったダウン症のひとの笑顔だった。woolでも思ったけれど、価値観はその時代のものであって、絶対的なものではない。私は、人の可能性は否定できないと思う。子どもをつくる、とい...

ううん。読んでいるうちに、気持ちは二転三転したけれど、最後に心に残ったのは、被告側弁護士の言葉と、今までに出会ったダウン症のひとの笑顔だった。woolでも思ったけれど、価値観はその時代のものであって、絶対的なものではない。私は、人の可能性は否定できないと思う。子どもをつくる、という行為が、自分の意思で決定できる場合においては、そこもまとめて請け負う、ということだと思う。動物として考えたときには、非合理なことなのかもしれないけれど、人間を人間たらしめているものは、時に非合理な決断なのだと思う。という今の考えも、崖っぷちに指先一本でぶら下がったら、変わるかも知れず、これは将来の自分のための、今の考えの備忘録です。

Posted byブクログ

2019/08/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 日本初の出生前診断をめぐるロングフルバース(ライフ)訴訟の原告を追ったノンフィクション。「夏物語」を上梓した川上未映子との対談記事で知って読む。  20年ほど前、学生時代に医療系サークルのディベートテーマで扱った出生前診断。その当時、多くは出産未経験の女子看護学生からは障害がわかっても産む、わかったら産まない、その時にならないとわからない、などと色々な意見が出たことを覚えている。小児科医になることをまだ決めていなかったその当時、僕がボンヤリと考えていたのは、「人が生まれてくる人の命の選別なんてしていいんだろうか」という倫理的な問題だった。  NIPTが当たり前のように比較的安価に行えるようになった現在、その技術の運用方法について、社会は少しは成熟しただろうか?小児科医になって20年近く経って、ようやく問題の全貌を掴むことが自分の中ではできてきたように思うが、多くの人はもっと軽い気持ちで検査をするのではないだろうか?  自分は大きな病気になるなんて思ってもみない時に、検診で不治の病がわかって、人はそう簡単に自分の病を受け入れられるのだろうか?  それと同じで、多くの親は、自分たちの子どもに重大な染色体異常があるなんて思ってもいない時に、その通告を受けて、十分に悩むこともなく堕胎を選ぶのではないだろうか。  子どもが出生前診断でダウン症とわかったが、タイミング的に中絶できなかった弁護士夫婦の発言が重い。 「私は選択できなくて幸運でした。選択できなかったから生まれた命がある。・・・わからない方がいいこともある。悩むことなくうまえてきた方がいいこともある。だからこそ、選ばねばならないお母さんが気の毒に思います」  小児科医は日常的に障がい児と親と接しているので、とても絆の強い家族、みんなに愛されているお子さんを見るとこちらも幸せをもらえるのだが、もちろんそれは美談でもなんでもなく、親の愛情を受けられずに施設に入る子もいて、それでも施設の職員や学校の先生の愛情を受ける。しかし、ほとんどの人はそんな障がい児の日常を知らない。  出生前に障害を知ることができたので、心の準備ができて、生まれてくることを祝福することができたという声も重い。そもそも、生まれてきて初めて愛着が湧くものなのに、生まれる前に「観念」の段階で選択をしなければならないという現状は、何か資本主義的な価値観に搦め取られているように感じる。  とにかく様々な立場の人を取材して、多面的に問題を考えることができる。ダウン症協会の玉井邦夫先生も発言されていて、小児科医の社会への発信も大事だということを改めて感じさせられた。

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2020/10/10

できるだけ冷静な視点でダウン症児の出産と中絶について取材している。 しかし、「出生前にダウン症と分かってて生んだ人」「出生前にダウン症と分からずに生んだ人」の取材はしているが、「出生前にダウン症と分かって中絶した人」の取材が無い。 また、「ダウン症の子を育てていて、(たいへんなこ...

できるだけ冷静な視点でダウン症児の出産と中絶について取材している。 しかし、「出生前にダウン症と分かってて生んだ人」「出生前にダウン症と分からずに生んだ人」の取材はしているが、「出生前にダウン症と分かって中絶した人」の取材が無い。 また、「ダウン症の子を育てていて、(たいへんなこともあるけど)今は幸せです」という事例、しかも全て女児のパターンばかりなのが気になる。 ダウン症イコール必ずしも知的障害ではないが、知的障害を持った子、特に男児の場合、大人になってからの苦労話をよく耳にする。 そういう視点を語らないのは話の流れを止めてしまうからなのかもしれない。けれども若干のモヤモヤを感じた。同著者の「セックスボランティア」を読めばそのモヤモヤはすっきりするのだろうか。

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2019/05/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

出生前診断の誤診で生まれた子 医者の簡単なミスで、ダウン症ではないと診断されたが、実際生まれてきた子はダウン症だった。その子の名前は天聖といい、様々な合併症を患って幼くして亡くなってしまった 「ゼロにしてほしい。なかったことにしてほしい。あの子をかわいいと思えない。良い母を演じているだけだと思う。」母親は、自分は生まれてくる子供がダウン症であるなら、生まなかったのに生んでしまったから医師を責めたいという気持ちがあるいっぽうで、その子の親は自分であるからという葛藤に悩まされながら、天聖と向き合っていく話です。 また、本当に天聖をうまなかった方が、天聖に対する損害は少なかったのかという問題もでてきます この本は、生命倫理についてじっくり考えたい人、 これから医療に関わっていく人、これから赤ちゃんを産もうと考えている人、ダウン症の子を授かった人など、多くの人に読んでもらいたい本です! 赤ちゃんを生んで、赤ちゃんが亡くなるまでの話だけではなく、それから母親がどう行動していくのかについても注目して読んでみてください 蔵本1階ホール 9784163908670 ゆず

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2019/02/05

出産前に、心づもりで読んだ本。河合香織さんの本は、以前セックスボランティアを読んだ時から、大事だけれど面と向かって心開いて語られることの少ないテーマを扱ってあり、その逃げない感じにひかれる。 この本の中で出てくる母親の気持ちが、母になったいま、よくわかる。中絶していた、と言い切れ...

出産前に、心づもりで読んだ本。河合香織さんの本は、以前セックスボランティアを読んだ時から、大事だけれど面と向かって心開いて語られることの少ないテーマを扱ってあり、その逃げない感じにひかれる。 この本の中で出てくる母親の気持ちが、母になったいま、よくわかる。中絶していた、と言い切れない気持ちも。

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2019/01/01

出生前診断の誤診によって生まれたダウン症の子に関するノンフィクション。詳細なインタビューと描写で涙なしには読めません。自分だったらどのように考え、判断を下すか、をずっと考えさせられます。奇しくも国による強制不妊手術に関するニュースが取り上げられており、合わせて考える機会になりまし...

出生前診断の誤診によって生まれたダウン症の子に関するノンフィクション。詳細なインタビューと描写で涙なしには読めません。自分だったらどのように考え、判断を下すか、をずっと考えさせられます。奇しくも国による強制不妊手術に関するニュースが取り上げられており、合わせて考える機会になりました。生命の選別はどこからなのか、不妊治療で元気な精子と卵子を選ぶのは命の選別には当たらないのか。答えはないものの、十分に議論すらされていない現実を突きつけられました。

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