百貨の魔法 の商品レビュー
あなたに故郷の思い出が詰まった場所はありますか。 1人で、家族と、友達と、特別な誰かと訪れた場所。初めて何かをした場所、何度も繰り返し通った場所、とても印象的な出来事があった場所。それはお店だったりレストランだったり公園だったり遊園地だったりするかもしれない。 自分はどうだったか...
あなたに故郷の思い出が詰まった場所はありますか。 1人で、家族と、友達と、特別な誰かと訪れた場所。初めて何かをした場所、何度も繰り返し通った場所、とても印象的な出来事があった場所。それはお店だったりレストランだったり公園だったり遊園地だったりするかもしれない。 自分はどうだったかと振り返ってみると、初めて自転車に乗れるようになった日行った場所は隣町の古本屋で、小学生のとき夏休みに毎日通ったのはできたばかりの図書館で、高校時代毎日寄り道していたのは県内最大規模の新刊書店だった。なるべくして書店員になったのだなあと呆れかえるばかりである。 さて、この作品にそんな「故郷の思い出が詰まった場所」として登場するのが風早の街の『星野百貨店』です。 就職して初めてこの街を訪れた人、幼い頃にこの街を離れ戻ってきた人、ずっとこの街に住み続けている人など、それぞれの事情を持ちながらこの百貨店で働いている人たちの願いと奇跡を描く連作短編集です。 この星野百貨店には「願い事をなんでもひとつ叶えてくれる魔法の猫」がいるらしい。 もしも本当にそんな猫に出会えたら・・・? すべてのエピソードを通して読んで、共通して感じたのはこれは「再会と再生の物語」であるということです。 生き別れの家族と再会し再び一緒に暮らせるようになった人。過去の後悔の場面に立ち戻って前を向けるようになった人。憧れの人に出会って自分の魅力に気づけた人。 出会えたら願いを叶えてくれるという白い猫は再会のきっかけをくれるだけです。過去を変えたり自分を変えたりはしてくれません。そこから自分の願いを叶えるために行動を起こすのはその人自身。けれどきっかけさえあれば前に進む力はそれぞれの人が持っているのです。 この構図は舞台である「星野百貨店」にも当てはまります。不況で存続の危機にある百貨店は「百貨店が大好きな女の子」と再会したのだから、きっと再生できる。白い猫の奇跡で前を向いて進めるようになった従業員たちと同じように、未来に続いていくのではないか。そんな希望を抱かせる物語です。
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優しくて優しくて優しくて、そして温かい。村山小説は真ん中に優しさのコアがあって、その周りをたくさんのいろんな優しさが包み込んでいる。だからどこからめくっても温かい優しさがあふれ出て来る。 悲しいけれどこの世界には多くの嫌なことが転がっている。憎しみや悪意や敵意に振り回されているか...
優しくて優しくて優しくて、そして温かい。村山小説は真ん中に優しさのコアがあって、その周りをたくさんのいろんな優しさが包み込んでいる。だからどこからめくっても温かい優しさがあふれ出て来る。 悲しいけれどこの世界には多くの嫌なことが転がっている。憎しみや悪意や敵意に振り回されているからこそ、この物語の優しさに救われる。 誰かに裏切られたり傷つけられたり、あるいは逆に自分の中のある誰かへの黒い気持ちに気付いてしまったりするとき、そんな負の感情とのバランスをとるために私たちは村山小説を求めるのかもしれない。こんな嫌なことばかりある世界だけど、もう少しここにいてもいいかもしれない、とそんな気持ちにさせてくれる。自分の中にある優しさをもっと感じてみたい、って思える。 今回の舞台は百貨店。デパートじゃなく百貨店。小さくて古い百貨店。古いからこそそこにはたくさんの人の思いがつまっている。誰かの誰かへの思いと優しいまなざしが、金目銀目の白猫になって奇跡を起こしてくれるんだろうね。魔法や奇跡は、結局誰かの思いが起こしている、そんな気がする。 私も行ってみたいなぁ、星野百貨店。そして魔法を使う猫に会ってみたい。そして一つお願いをしよう。かなうかな。かなうといいな。
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