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渡良瀬 の商品レビュー

3.5

4件のお客様レビュー

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2018/12/22

拓の家族や身の回りには、小さくても暖かい幸せがたくさんある。それなのにとても儚く見えたり、一寸先は闇のように危なげに思うのはなんでだろう。オイラは拓みたいに不器用でも一生懸命に生きる男は好きなんだけど、まわりに元気を与える迫力はないなぁ。何が悪いというわけでもない。拓が幸せになる...

拓の家族や身の回りには、小さくても暖かい幸せがたくさんある。それなのにとても儚く見えたり、一寸先は闇のように危なげに思うのはなんでだろう。オイラは拓みたいに不器用でも一生懸命に生きる男は好きなんだけど、まわりに元気を与える迫力はないなぁ。何が悪いというわけでもない。拓が幸せになるには何かが必要なんだろうけど、実はそれはすぐ目の前にあるもののようにも見える。オイラがこの物語で元気が出なかったのは、薄暗い事件が身近に起きていたりする時代背景も含めて拓や幸子、優子や夏子や祐一らとのやり取りとかが自分のことのように思えたからかもしれない。オイラを客観的に見たら拓に似ているような気がして沈んだ。なんか酒飲みの本所さんも並木さんをはじめ、真面目でいい人たちなんだけど薄幸そうなんだよな。北関東という地域の所為かな、栃木育ちとしては古河のこともなんとなくわかるしなぁ。物語のなかに笑顔が少なすぎる気がする。女性から拓に向けられた笑顔は夜の店が多いし、いつか拓が過ちを犯しそうでハラハラした。やっぱりユーモアがないと息がつまるなぁ。

Posted byブクログ

2018/10/10

どこまでも私小説風だし、起伏あるストーリー運びでもないのに一気に読めてしまう不思議な小説。 仇やおろそかには読めない文芸作品というか・・・。 知らなかった!佐伯一麦さんの作品。 たしかに若い頃はあのだらだら感が我慢できず私小説が嫌いで、 世界文学を好んでいたのだからってい...

どこまでも私小説風だし、起伏あるストーリー運びでもないのに一気に読めてしまう不思議な小説。 仇やおろそかには読めない文芸作品というか・・・。 知らなかった!佐伯一麦さんの作品。 たしかに若い頃はあのだらだら感が我慢できず私小説が嫌いで、 世界文学を好んでいたのだからっていうのもあるけれど、佐伯さんは昔の作家ではない。 年経て、私小説だってよく読み込めば文芸世界なのだとわかってきているし、 文芸雑誌を読むほどにはなっていないけど、小説読みとしては一丁前のつもりだったが、まだまだ。 帯に「私小説系の文学の頂点と絶賛された」とあるから周知のことだったのだろうが。 文学評はともかく、ある点について印象深かったことを。 主人公南條拓(電気工)と妻幸子との凍えるような不仲の描写が 真に迫って悲しく、その原因が夫の小説にあるというのが切なかった。 子供の健康を考え田舎に引っ越しして、そのために転職の苦労をし、 でも、自分の技術を信じ工場の歯車になりながらも、懸命に仕事をしてまじめに働き、 ちゃんと一家を養ってなお、家事を手伝う模範的な夫。 だけど、思いやりがないのではなく、思いやれないのだから。 彼が自分の世界を持って、自分の到達点を目指して 知らず知らずのうちにそこに閉じこもってしまう。 到達点とは文学芸の世界、小説の成功を願う。 そしてその「私生活=実生活の文芸化」を書いて、 その小説が傑作になり、小説家として成功する。 でも描かれた家族・・・小説家の妻やまわりはやりきれないこともあるだろう。 私小説家って因果な商売、あな恐ろしい。

Posted byブクログ

2017/11/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

本屋で見て何故か惹かれて手に取った。手に取ったら、これまた何故か読みたくてたまらなくなった。 「圧倒的な文学的感動で私小説系文学の頂点」という説明も「伊藤整文学賞受賞」という背景も必要なく、読み始めるやこの作品世界に引き込まれていく。 見渡す限り平坦な関東平野、荒川を電車で渡ると、見えてくる渡良瀬遊水地…そんな景色が脳裏に浮かぶ。 子どもの病気を慮り、そこに移り住んで、配電盤の工場で働く拓とその家族の物語は、昭和から平成に代わるそのあたりの時代を背景に、バブルに至る好景気にも無縁の下請け、孫請けの工場労働者の世界を丁寧に描き出す。 なじみのない配電盤の製造工程を延々と読んでいても、そこから見えてくる主人公の仕事に対する姿勢、工場の同僚を含めた市井の人々のささやかな日々に心打たれる。 渡良瀬川の美しい景色も、遊水地ができる原因となった過去の鉱毒事件を知った後では哀しみしかない。 家庭での妻との心の行き違い、なれない土地に必死にとけ込もうとする姿・・・主人公拓のそんな日々の生活が愛おしい。 大きな事件は何も起こらないまま、丁寧で無駄のないことばで淡々と、だけど真摯に生きている拓の姿が描かれていき、やはり何事もなく作品は終わる。 あとには渡良瀬川の荒涼たる景色だけが残された。

Posted byブクログ

2017/08/31

何もドラマやイベントのない静かな日常、しかも電気工事の人というちょっと地味な仕事。でもすごくエキサイティング。なぜなら日常には小さいけれどもスリリングなドラマがあるから。それが現実。そして本作はその現実をみごとに写し取っている。もちろん創作だからノンフィクションとは違うけど、やは...

何もドラマやイベントのない静かな日常、しかも電気工事の人というちょっと地味な仕事。でもすごくエキサイティング。なぜなら日常には小さいけれどもスリリングなドラマがあるから。それが現実。そして本作はその現実をみごとに写し取っている。もちろん創作だからノンフィクションとは違うけど、やはり日常の中の起伏を最悪に写し取っている。それは、ほんとうに生活というものに向き合わないと見えないくらい小さいけど、よく見てみるとすごくアップダウンがあるわけ。 最も悲しかったのは行きつけになりかかっていた居酒屋の突然の閉店。そういう経験は自分もしていて、すごく残念だというのがよくわかる。 妻とのやりとりが殺伐としていて怖い。それもまた日常だねり

Posted byブクログ