ヘーゲル哲学を研究する の商品レビュー
著者の初期のヘーゲル研究である『ヘーゲル『精神現象学』の考察―否定性の根拠をめぐって』(1989年、理想社)などを収録しています。 『ヘーゲル『精神現象学』の考察』ではまず、ヘーゲルの「懐疑論の哲学に対する関係」という論文がとりあげられます。ヘーゲルが『精神現象学』において論じ...
著者の初期のヘーゲル研究である『ヘーゲル『精神現象学』の考察―否定性の根拠をめぐって』(1989年、理想社)などを収録しています。 『ヘーゲル『精神現象学』の考察』ではまず、ヘーゲルの「懐疑論の哲学に対する関係」という論文がとりあげられます。ヘーゲルが『精神現象学』において論じた意識の弁証法的運動は、抽象的側面または悟性の立場から、弁証法的で否定的な理性の立場を経て、思弁的で肯定的な理性の立場へと移っていくとされていますが、懐疑論は悟性の立場における有限性を見きわめ、否定性を明らかにすることで、肯定的理性的立場へ向かう精神の運動の一段階をなすことになります。さらに著者は、ヘーゲルがこのような自己否定的な運動をおこなうものとして主体を理解していたことについて考察しています。 『ヘーゲル『精神現象学』の考察』の「あとがき」で、著者はこの書を刊行したあと、現代文明論に取り組み、とくに現代において「非真理」が横行していることを批判する仕事を手掛けたと述べています。そうした仕事は本シリーズにも収められていますが、本巻の約半分の分量を占めている「断片集 阿修羅の言葉」にも、文明批判的なアフォリズムが多く収められています。 さらに長年にわたって著者が手掛けた俳句、短歌なども収録されています。 著者の文明批評的なアフォリズムは一通り目を通しましたが、むしろ現代ではありふれたものであり、ここに「反時代性」はうかがえないように感じられます。
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