離陸 の商品レビュー
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人のゴールは死しかないもんなと、(悲観では無く)静かに受け入れられる本。 結局、人の「真実」なんて確かめようが無い。 あるのは、誰の目から見ても確かな死だけ。 こう書くと、ものすごく暗くて陰惨な物語のようだけど、読み口は不思議なほど重たく無い。 わりとボリュームのある本だけれど、他の方の感想にもある様に一気読みさせられる。 面白くて面白くて辞められない!と言うより、 淡々と無理のない速さで歩いているから、ついいつもより長く歩いて遠くまで来てしまった、という感じ。 無性に空港に行きたくなったし、飛行機に乗りたくなった。 空港と空の上の空間は、確かにあの世とこの世の中間みたいだなと感じていた。その様に捉えて感じている人は少なくないんじゃないかな。 読後感が静かで穏やかな気持ちになる。 人生で何回か読み返したい、いい本だった。
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途中からタイムスリップの話になるのは驚いた。どのようにその謎が解決されるのかをエピローグの最後の最後まで楽しみにして読んでいたが、解決されなかったので少し肩透かしをくらった気分になったが、それも作者の意図なのだろう。多かれ少なかれ人は謎を残して死んでいく。いつでも残された人たちがその謎を理解できるとは限らず、その場合は「死」という事実しか残されない。そのような意味で、「離陸」がこの小説の題目になっているのだと理解した。ミステリーで始まり、それが非ミステリーで幕を閉じるという点に、斬新さがあるのだろう。 侂景さん、知ってるなら種明かししろよとは思ったが。それと、リュシーが亡くなったのはとても悲しかった。
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絲山秋子にしては珍しくかなりの長篇。何かを解決する類いの小説ではないので、消化不良を起こす読み手もいるかもしれない‥‥とは思った。ただ自分的には、主人公・サトーサトーの人生を生きているような主観的視点が妙に心地よくてしっくりとハマった。
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村上春樹的な訳のわからなさがある。「死とは離陸すること。みんな駐機していて、いつかは離陸する」っていうのは分かったんだけど。 訳のわからないくせに最後まで一気読みさせるからすごい。
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水の番人サトーサトー。ブツゾウとアカネを見守って。離陸はまだまだ。 3年ぶりに読み返して、やっぱり凄かった。
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一週目ではまだ分かりきっていない感はあるけどすごくじんわりくる良さだった。 死を飛行機が離陸することで表していて、その表現がスッとはいってきた。
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以前、絲山さんの『薄情』という作品を読んだが、全くピンと来ず、合わない作家さんだな、としばらく食わず嫌いをしていた。 そのことを、いま、存分に後悔したい。 (薄情は未だに評価できないけれど) 主人公・弘は、はっきりと言って、あまり魅力のない男性だ。地方出身の高学歴で、何の気なしにエスカレーターへ一歩を滑らせるように、国交省のキャリアに乗る人物だからこその、擦れていないというか、予め浮世から離れたように生きている人。おそらく、作中いちばんぼんやりしている。 その主人公たる彼を取り巻き、物語をそくそくと進める人々が、精彩豊かで、ルーツや生き方が非常に濃い来し方をしている為に、弘が徹底して「フツウ」に見える。まず、この対比が面白いし、そのフツウでなさに惹き付けられる。 それなのに、物語に登場する全ての人物は、様々な個性を持ちながら、同じ色調を持って描かれる。 弘の人生と交錯する「女優」の存在と昔語りも相俟って、セピアカラーのような、鼻の奥がつんとする懐かしさに染められて、この作品が、現在から過去へ幾度も旅し、時に誰かを欠き、喪いながら、やがてまた現在に帰着していく。読了してみれば、まるで煙のような物語だ。 淡々とした濃やかな筆致で、ゆっくり河を下るように、常に凪いだ速度を保つ巧みな文章の心地良さ。 離陸、というタイトルに込められた、喪うことへの透徹した視点。 決して華やかではない。謎すら解決されずに残される。それでも、これは良い物語だ。 疾走感ばかりが謳われる作品が多いなか、これほど文章の持つ力を、ゆっくり味わえる作品は本当に少ない。 謎の行方も、誰かの行く末も、眠ったままでもよいのだな、と久しぶりに思える読後感。ぜひ一読をおすすめする。
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2020末に橙書店にて購入。 大人な感じの物語。 タイムスリップなのか、ミステリなのか、全てが曖昧なままだけど、私にしては珍しく、受け止められた。 前半、八木沢、東京、四日市、フランスの場面から 後半は熊本、人吉、八代、唐津、福岡、馴染みのある場所が出てきて、入りやすかったのかも...
2020末に橙書店にて購入。 大人な感じの物語。 タイムスリップなのか、ミステリなのか、全てが曖昧なままだけど、私にしては珍しく、受け止められた。 前半、八木沢、東京、四日市、フランスの場面から 後半は熊本、人吉、八代、唐津、福岡、馴染みのある場所が出てきて、入りやすかったのかもしれない。 人吉の豪雨で流失した球磨川第一橋梁や219号線を思うと残念でならない。 そして3.11の震災も消えることなく事実として残り続けるのだな、と。 離陸した人々を想いまた何年か後にゆっくり読みたい。
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作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。 また文学として、語り部である主人公...
作品ごとに色を変えてくる絲山作品において、特にこれは、ジャンルとしてミステリの範疇に入れたい一冊。巻末で絲山先生が伊坂幸太郎さんに「女性のスパイものを!」と請われて書いたということを語っていらっしゃるが、まさに堂々のエスピオナージュものである。 また文学として、語り部である主人公の佐藤だけでなく、幾つもの登場人物が、異郷の地にいることや、またときにはその人種や障害などの理由から、人生の舞台に対して、異者である。 他の絲山文学において、異者であることからのサウダージはメインテーマであり、作品の中で特にスコープされると、ぼくは思っている。この作品でも同様であるけど、物語のプロットが移りゆく構成をとっていて、(それゆえにこの作品はミステリであるとぼくはつよく感じているのだけど)観念的に傾きすぎない。観念的とは純文学なる指向だと認識してるのだけど、この作品は、エンターティメントとして絲山先生が意図して取り組んだでいる感じがする。バランスがいいのだ。谷崎潤一郎賞を受賞したが、その筆致の見事さ故に、絲山先生の作品のなかで大衆性も得ることが最も可能な一作であると感じる。高村薫以降の、文学とエンターティメントの見事な合致が見られる優れた作品としてミステリ読みに強く勧めたい。
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絲山さんはこんな静かな物語も描かれるんだ、とちょっと驚いた。 突然佐藤の前に現れた黒人。 「サトーサトー」行方不明の女優を探してほしい、と語り出す。 謎の怪文書を解読しながら、謎の「女優」探しの旅が始まった。 「死」を飛行機の「離陸」に例える佐藤の言葉がとても印象的。 滑走路に向かった飛行機が息を整えるように停止し、ゆっくりと力強く滑走をはじめる。その滑走は悲しみを引きちぎるように加速していき、やがて地上を走ることに耐えられなくなりふっと前輪が浮く…。 まだ生きている私達は滑走路で離陸待ちの状態。 私もいつかみんなに見守られながら無事に離陸できるだろうか。 離陸し飛び立った後、次の行き先へは辿り着けるのだろうか…。 死とは、生とは、人生とは…思いは果てしなく続いていく。 じわりじわりと心に染みる物語だった。
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