あひる の商品レビュー
小説に書かれていないことがある。 それは周到に隠されているというよりも、文字通り"書かれていない"という方が印象として精確なのだが、単純に何かの描写を省略しているのではなく、むしろサラリとなされている些細な描写によって「何かは判然としないまでも確実に書かれて...
小説に書かれていないことがある。 それは周到に隠されているというよりも、文字通り"書かれていない"という方が印象として精確なのだが、単純に何かの描写を省略しているのではなく、むしろサラリとなされている些細な描写によって「何かは判然としないまでも確実に書かれていないナニカがある」という気配がそう"確実に"漂っている。そしてそれはたとえるなら、ホラーに近い。 自分以外誰もいないはずのこの部屋になにかがいる気配がする──というようなあの感じだ。 ホラーと異なるのは「書かれていないこと」が現象ではなくその内実という点で、むしろ書かれているのは徹頭徹尾 現象のことしかない。 一人称で書かれている小説というのは、視点である「私」が知らないことを書かなくて良かったり、また「私」が語りたくないことは語られないという恣意性をはらむ。 見方によってはその恣意性をトリックとしたミステリとして読むこともできようが、形式に当て嵌めることでこの小説を理解ないし読解しようとする読者の身体の外側に、この小説の、なんというか「世界」みたいなものは不穏な靄の様をしてまとわりついている。我々は理解をしようと取り組むことの外側にあるものをめちゃくちゃ怖いと感じるし、「面白い」と感じてしまうようになっている。それこそが、「共感」「納得」より巨きな強度を持つ「感銘」という心の動きだ。ほらこうして私はまた、靄を捉えようと無謀な挑戦を試みようとしている。怖いね。
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普通にお話が続いていくのだけど、ラストに近づくに連れて「あれ?これは短編連作?」と疑問が湧いてくる。 普通なようで、普通ではない人たち。これが、今村ワールドなのかな。
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- ネタバレ
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後からジワるお話。 サラッと読んだら何も起こらない単調な話だったな、で終わるだろうが、少し時が経って、 “え?あれってなんだった?”がいくつもよぎる。 腕をかけて作ったカレーをなぜ長女には食べさせない? 弟の子どもの誕生報告でなんで席を外させる? とにかく長女はまるでいないかのように接する… あひるが亡くなったことを3歳児でもわかってるのに、長女にはごまかす。しかもそれを本人の前でサラッと言う。 真夜中に顔の白い男の子が食べるだけ食べて帰っていく、長女は庭のアヒルの口を確認する。。 医療系の資格も身が入らないまま、二階でひっそり勉強し続ける。 この長女こそなにかあるのでは?? 両親が実子にも近所の子達にもワガママさせ放題した末路を見よってこと?? 謎だらけで誰か説明して欲しい!笑
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めっちゃ派手なことは起こらないが、日常に潜む不気味さ、不穏さ。 何かを盲信したり、自分とは全く違う視点で見ている、話が通じなそうな人間の怖さ。 ザワザワしたまま終わる...... この今村夏子ワールドがくせになるのかもしれないなと「星の子」と本作を連続で読んで思った。
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何気ない日常のなか、何かが起こる予感を漂わせているがその何かは読者が想像出来ないのて不安な気持ちになる。 読み終えてしまうとどうということはないのだが、なぜか読んでいるうちは嫌な予感しかしない。 「おばあちゃんの家」「森の兄弟」は連作のようだがいずれも子供目線の話であり、なぜか自...
何気ない日常のなか、何かが起こる予感を漂わせているがその何かは読者が想像出来ないのて不安な気持ちになる。 読み終えてしまうとどうということはないのだが、なぜか読んでいるうちは嫌な予感しかしない。 「おばあちゃんの家」「森の兄弟」は連作のようだがいずれも子供目線の話であり、なぜか自分の子供の頃を思い出した。大人に従わざるを得ない年頃であり、その中でも優しくしてくれる大人になつく子どもの心境に浸かりながら読んだ。
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読み始めより「わたし」を不気味と思う。そして両親があひるを可愛がるのでもなく、死んでしまえば代替えを見繕う、そんな寂しさと狡猾さを見抜き大人を利用する子供達。主人公と両親の孤独を感じるがザラザラとした感触でしかない。 この小説の居心地の悪さは恐ろしい童話を読んでいるようだ。
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芥川賞候補となった「あひる」 あひるが…3代にわたって淡々としている事が、わたしや私の両親の寂しさを浮き立たせているようだ。弟家族が同居する事で3人の心のバランスはとれるようになるのだろうか? 「森の兄妹」のための「おばあちゃんの家」この順番で続けて読むことで完結するはなし。あひ...
芥川賞候補となった「あひる」 あひるが…3代にわたって淡々としている事が、わたしや私の両親の寂しさを浮き立たせているようだ。弟家族が同居する事で3人の心のバランスはとれるようになるのだろうか? 「森の兄妹」のための「おばあちゃんの家」この順番で続けて読むことで完結するはなし。あひるの家族と同様おばあちゃんとモリオとモリコの寂しい感じが根底にあって、束の間の些細な幸せがほっとさせてくれた。
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あひる あひるの「のりたま」。のりたまがいるから人が来る。 おばあちゃんの家 インキョにいるおばあちゃんが、元気になっていく。 森の兄妹 モリオとモリコ。近所のおばあちゃんが好き。 どの話も何を訴えたいのか、メッセージは分からなかった。 けど、なんだか、読みやすい。...
あひる あひるの「のりたま」。のりたまがいるから人が来る。 おばあちゃんの家 インキョにいるおばあちゃんが、元気になっていく。 森の兄妹 モリオとモリコ。近所のおばあちゃんが好き。 どの話も何を訴えたいのか、メッセージは分からなかった。 けど、なんだか、読みやすい。 そんな短編集でした。 あひるの「のりたま」ってなんだか、可愛い名前。 ちゃんと、子どもたちは、のりたまが変わっていたことに 気づいてたんだなぁーと最後に思ったよー。
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「あひる」「おばあちゃんの家」「森の兄妹」の3つの物語が収録されている1冊。 短編集はイマイチだと感じるものが多い中で、これは比較的好きな物語だった。 ほんの少しだけ何かが足りないような人がたくさん出てくる。 ひと時代昔にはこういう人はたくさんいたように思う。例えば自分の小学生...
「あひる」「おばあちゃんの家」「森の兄妹」の3つの物語が収録されている1冊。 短編集はイマイチだと感じるものが多い中で、これは比較的好きな物語だった。 ほんの少しだけ何かが足りないような人がたくさん出てくる。 ひと時代昔にはこういう人はたくさんいたように思う。例えば自分の小学生の頃、同じような子はどの学年にも必ずいた気がする。もしくは親戚の中に、もしくは自分の中にも…。 そんな懐かしさと一緒に、子どもの頃に感じた嫌悪感や罪悪感が次々とよみがえってくる。 不思議な既視感を伴う物語たちだった。
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