橋を渡る の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
吉田修一でSFを読む日がくるとは…! あまりの衝撃に、数年ぶりにブクログに感想を書きたくなった。 ということは、世間や自分の評価がどうあれ、感想を書きたくなるだけのパワーはある作品だったということで、それだけで新宿紀伊国屋で手に取った価値があったというものだろう。 春夏秋冬。 この作品はその4つの断章が丁寧に、けれどどこか投げっぱなしのまま描かれている。 起承転結でいえば、4つの「起承」が並び、エピローグで4つ分まるっとまとめて「結」が描かれる。 そんな感じ。 あれ、「転」は? そう、この作品で感想を書こうと思ったのがまさにここ。なんとこの作品、作中に「転」が存在しないのだ(笑) 「転」は、読み終わった後に、読者の想像の中で描かれる(と私は思った)。 登場人物が多くてややこしいから簡単にまとめると、 春:歩美と孝太郎→響(ここな) 夏:篤子と大志→凛(薫風) 秋:謙一郎と佐山教授→響と凛 冬:響と凛と謙一郎 エピローグ:それぞれの矢印が逆向きで邂逅 こんな感じで繋がってくる。 冬だけは春~秋の時系列と異なり、75年後の世界。 サイトと呼ばれる人工生命体(なんと言えばいいか、細胞から人工的に作られた人間のような存在)が存在し、建物が浮き、世界中に赤い砂漠が点在するようなロストワールド的SFの世界にいきなりぶっ込まれることになり、最初はポッカーン。 この冬の世界観云々はどうでもいい。 大事なのは、「冬で75年後を見た読者が、エピローグで75年前に戻って、春夏秋で描かれてきた75年前のそれぞれの物語と異なる春夏秋のラストを見せられる」こと! つまり、最後の最後で、これまで描かれた春夏秋冬が全部変わってくるんですよ!!! 冬は春夏秋の前提あっての冬。 その春夏秋が変われば自ずと冬も変わるわけです。 それは「気づき」であって、エピローグでは気付かせたまま、何も描かずに終わるの!!! はぁ?! 好き!(笑) 具体的にいえば、エピローグを読んで下記のように春夏秋が変わる(と思われる)。 春:歩美が信念に妥協しなければ秋山は売れず、ここなのような女性は産まれなかった(だろう)。響はここなに出会うこともなく、逃げ出すこともなかった(だろう)。 そして75年後の世界で響を助けた孝太郎は、75年後からきた響のおかけで、春の75年前に歩美に言えなかった助言をし、それによって歩美が妥協することをしなかった。 →秋山が認められることはなく、ここなは生まれずに済んだ(だろう) 夏:篤子が自殺しなければ、不正によって財をなしたもののクズ一族になり果て結果生まれた薫風も生まれず(またはいい男に育ち)、凛は逃げ出すこともなかった(だろう)。 75年後の世界で篤子の善意を信じ、生きてて欲しいと願った凛のおかげで、夏の75年前の篤子は自することなく、自分の善意を信じて夫の不正を告白することにした。 →会社が無駄に成長することなく、薫風は生まれずに済んだ(だろう) 秋:殺人は何があっても許されない。けれど佐山教授は自分の研究の結末と問題点を知れた。 →サイトは産まれなかった(かもしれない) そしてそれらの変化をエピローグで察し、そうなると当然変わってくる75年後の冬についてこう考えることができるのだ。 冬:上記の変化により、響も凛(つまりサイト)も存在せず、あるいは存在したとしてもよりよい環境で生きることになった──。 と。 ね? 「転」が読了後にあるというのはまさにこれなんです。 春夏秋冬(それまでの物語)の「転」が読んだ後にやってくるという、なんとも巧いというか、新しい作品でした。 トリッキーだし感動や教訓やそういうのはないけれど、久しぶりに新しい感覚の作品に出会えたなぁと午前6時に読了して朦朧とする頭で嬉しさを感じるのでした。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
場面転換がめまぐるしいし、国語的に疑問を感じる点が多くて、今までにない文章で読みづらかった。 真沙が唐突に登場してきて前のページを2回見返したが、それでも自然な登場部分見当たらなくもやもや。
Posted by
吉田修一「橋を渡る」https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163904252 … 以前読んだの忘れて図書館でまた借りちゃった。こうなるから記録つけてるのにその行為を忘れるのはもう病気の域だ。物語は序盤からは全く予想しない近未来SFで、最...
吉田修一「橋を渡る」https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163904252 … 以前読んだの忘れて図書館でまた借りちゃった。こうなるから記録つけてるのにその行為を忘れるのはもう病気の域だ。物語は序盤からは全く予想しない近未来SFで、最初の雰囲気のまま進んでくれたらよかったのに。だから読んだ記憶も抜けたのかと…(おわり
Posted by
1章〜3章までは、都議会野次問題とかマララさんとか雨傘革命とか2014年の実際に起きた出来事を絡めながら、(3章の最後を除き)特に大きな事件も起こらない3種類の日常の物語を淡々と描いてゆく。 特に大きなことは起こらないのに、惹かれて読まされてしまう筆力の高さはここでも抜群。 そし...
1章〜3章までは、都議会野次問題とかマララさんとか雨傘革命とか2014年の実際に起きた出来事を絡めながら、(3章の最後を除き)特に大きな事件も起こらない3種類の日常の物語を淡々と描いてゆく。 特に大きなことは起こらないのに、惹かれて読まされてしまう筆力の高さはここでも抜群。 そして、それでいながら、どこか不穏さを抱かせる、違和感の醸し出し方が実に巧い。 その不穏さは、何かの伏線であることは、容易に感じ取ることができる。 伏線は第4章で回収されるのだが、その回収の仕方がとにかくぶっ飛んでいる。 ネタバレになるのでこれ以上書けないが、あまりのぶっ飛び方に呆然となってしまった。 吉田修一は、どこに行こうとしているのだろうか? 前作『愛に乱暴』は昼メロみたいな作風だったが、この小説はなんと表現すればよいのだろう? リュック・ベッソンのB級映画みたいな、というか。 実験的な小説なのかもしれないが、とにかくチープなのだ。 そのチープさは意図したものなのか、それが限界だったのか。 なんとなく個人的には後者であるとしか感じられず、どっちかというと失望してしまった。
Posted by
「悪人」「怒り」などの作品が良かったので読んでみたら、肩透かしでした。急に近未来の話になられても。どうしたらよいのか。
Posted by
223これは二回読まないとあかんやつや。時空を超えると一気に系図や時系列があやしくなるよね。最期全部繋がってる?
Posted by
圧巻です。春夏秋冬とエピローグで構成されており、各々で取り上げられる人物のストーリーがエピローグですべて繋がります。冬のSF感は新境地といえ、ドキドキが止まりませんでした。伏線を回収するさまは、明日の光?に繋がります(^^)
Posted by
春夏秋の独立した物語が冬で繋がるという4部構成.春夏秋まではさすが吉田修一.何気ない日常の描写が素晴らしい.冬は賛否分かれる.意欲的なチャレンジであるが個人的には好きではない.でも春夏秋だけでも十分満喫できる.でもしばらくして再読したら印象変わるかも
Posted by
以外な展開…でした。はじめは主人公3人の日常の出来事をミステリー風に進んでいく。そして最終章は70年後の世界へ…彼らが選択したことが未来に影響を及ぼしていた。最後はもう一度主人公たちのところへ未来から「サイン」が過去に遡り 違う選択をさせる。まさかこんなにSFな展開になるとは 意...
以外な展開…でした。はじめは主人公3人の日常の出来事をミステリー風に進んでいく。そして最終章は70年後の世界へ…彼らが選択したことが未来に影響を及ぼしていた。最後はもう一度主人公たちのところへ未来から「サイン」が過去に遡り 違う選択をさせる。まさかこんなにSFな展開になるとは 意外だったし、面白かったかな
Posted by
某有名書店にてタイトルが隠されて販売されていたオススメ本。 「これを読まないと人生損する」とまで言われ、とても気になり購入、読了。 うーん、まあ読まなくても人生は全く損しないかな(笑) 吉田修一さんなら「悪人」、「横道世之介」等々もっと良い作品があるんじゃないかと。 あえてこの...
某有名書店にてタイトルが隠されて販売されていたオススメ本。 「これを読まないと人生損する」とまで言われ、とても気になり購入、読了。 うーん、まあ読まなくても人生は全く損しないかな(笑) 吉田修一さんなら「悪人」、「横道世之介」等々もっと良い作品があるんじゃないかと。 あえてこの本を選ぶ書店側の意図は分からなかった。 なんというか、全体的に話がまとまっていない印象を受けた。 3本のストーリーがあり、最後の未来編で回収するという構成だが、けっこうな数の伏線が放置状態。 各話で散りばめられていた課題はそのまま…風呂敷を広げるだけ広げ、暗い影を落とすだけ落としておいて、全く回収せずに雑に終わって行く感じ… けっこうに気持ち悪く、腑に落ちない感が否めなかった。 おそらく個別に物語を書き上げて、最後に後付けでつなぐ作業をしたのでは?という感じ。 あえて読む必要は無い本かと。 <印象に残った言葉> ・……そうじゃなくて、俺が言いたいのは、お前は正しいってことなんだよ。正しい奴は、たとえ自分が間違ったことをしても、それを正しいと思い込むんだよ。(P258 水谷) <内容(「BOOK」データベースより)> ビール会社の営業課長、明良。部下からも友人からも信頼される彼の家に、謎めいた贈り物が?都議会議員の夫と息子を愛する篤子。思いがけず夫や、ママ友の秘密を知ってしまう。TV局の報道ディレクター、謙一郎。香港の雨傘革命や生殖医療研究を取材する。結婚を控えたある日…2014年の東京で暮らす3人の悩み、ためらい。果たして、あの選択でよかったのか―
Posted by