一揆の原理 の商品レビュー
歴史学に覆いかぶさっていたバイアスを払いのけるために書かれた本であり、言ってみれば蜘蛛の巣に対する竹箒のような本である。 古代の呪術的な信仰は本気で信じられていたのかどうかについての考察や、鍬や鋤で戦うイメージはあくまで農民としての階級を受け入れたうえでの交渉であるとか、こうい...
歴史学に覆いかぶさっていたバイアスを払いのけるために書かれた本であり、言ってみれば蜘蛛の巣に対する竹箒のような本である。 古代の呪術的な信仰は本気で信じられていたのかどうかについての考察や、鍬や鋤で戦うイメージはあくまで農民としての階級を受け入れたうえでの交渉であるとか、こういった当時の人々の考え方の背景が見えるのは面白い。 その意味での目の振り向け方はそれなりに価値があるものの、運動論としての射程もそれほどあると言えないし、一揆の論としても、正直食い足りない。あまりよそ見せずに頑張って欲しい。 ちょっと本文の内容になるが、宛先のあるものが一揆の核になる契約関係を示すとして、それならばそれを踏まえてもう一度、一味神水の儀式から位置付け直す必要がある。 一揆は政治的パフォーマンスにほかならないが、民衆の被統治感覚に根ざしてもいる。今回の本の作りが「原理」では仕方ないといえここからさらに改めて種別の変遷があるのならそれを整理して提示してほしいところだ。
Posted by
ポスト社会史の一揆研究。 従来の階級闘争史観を批判し、少し前の社会史の呪術的視点を批判し、等身大の一揆像を追求したあたらしい一揆研究(の一般向け教養書)。特に後半部で交換型の一揆に触れつつ、危機的な状況のなかで新たな「縁」の構築として契約を重視した中世人のマンタリテに言及している...
ポスト社会史の一揆研究。 従来の階級闘争史観を批判し、少し前の社会史の呪術的視点を批判し、等身大の一揆像を追求したあたらしい一揆研究(の一般向け教養書)。特に後半部で交換型の一揆に触れつつ、危機的な状況のなかで新たな「縁」の構築として契約を重視した中世人のマンタリテに言及しているのはよかった。
Posted by
徳政一揆は、土倉・酒屋といった京都の金融業者(というより高利貸し)を襲撃している。借用証書を強引に奪いかえすという行為も散見される。このため「古い研究」では、「悪徳高利貸しに苦しめられた民衆の怒りが爆発し、徳政一揆を起こした」と考えられてきた。論文調で書くと、「貨幣経済の農村への...
徳政一揆は、土倉・酒屋といった京都の金融業者(というより高利貸し)を襲撃している。借用証書を強引に奪いかえすという行為も散見される。このため「古い研究」では、「悪徳高利貸しに苦しめられた民衆の怒りが爆発し、徳政一揆を起こした」と考えられてきた。論文調で書くと、「貨幣経済の農村への浸透を契機とした都市高利貸資本の農村侵食」ということになる。なんのことやら意味がわからない読者も多いと思うが、このような分かったような分からないような説明でごまかしてきたのが、かつての戦後歴史学であった。p103 この記述にガツンとやられた。受験勉強以来長らく「貨幣経済の農村への浸透を契機とした都市高利貸資本の農村侵食」という説明の1800年分で日本史を分かった気になっていた。しかし、そう言った難解な概念で歴史を説明しようとすることは、単に読者を煙に巻いているだけなのかもしれない。著者はそのような概念による歴史理解を破壊していく。初め著者の語り口を「ふざけている」と考えていたが、むしろ議論を煙に巻かず批判を受け入れるという誠実な姿勢なのかもしれない。 ちなみに、そもそも土倉の主な取引先は武家や公家といった大口の取引先であり、著者によれば中世の一揆とは、むしろ飢饉で食糧に困った人々が有徳人に「無理矢理金を出させる」ことだという。
Posted by
- 1
- 2