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ヒトラーとナチ・ドイツ の商品レビュー

4.2

46件のお客様レビュー

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2016/04/20

ホロコーストを引き起こした根底には3つの考え方があった。極端なレイシズム(人種主義)、優生思想、反ユダヤ主義だった。それらは相互に重なり合い、関連していた。レイシズムとは人間を生物学的特徴や遺伝的特性によっていくつもの種に区分し、それら種の間に生来的な優劣の差があるとする考え方で...

ホロコーストを引き起こした根底には3つの考え方があった。極端なレイシズム(人種主義)、優生思想、反ユダヤ主義だった。それらは相互に重なり合い、関連していた。レイシズムとは人間を生物学的特徴や遺伝的特性によっていくつもの種に区分し、それら種の間に生来的な優劣の差があるとする考え方で、そうした偏見に基づく観念、言説、行動、政策などを意味する。ある個人や集団が自己とは異なる文化的・宗教的背景、親t内的特徴を持つ者に敵愾心や恐怖感(ゼノフォビア)を抱いたり、異質な民族集団を自己中心的な尺度で見下したりする態度(エスノセントリズム)は、時代と地域を超える普遍的な現象である。これに対してレイシズムは押収列強の海外進出と歩調を合わせて生成し、19世紀後半に登場した進化論や人類遺伝学から知的養分を得て発展し、20世紀に世界各地に広まった排除と統合の施行原理だ。レイシズムが大きく発展したのは19世紀後半のことだ。そのころのヨーロッパでは急激な産業化、世俗化、都市化、人口の爆発的増加、大衆ナショナリズムの台頭などによって既存の社会構造と伝統的な価値体系が崩れ、人々の不安を掻き立てた 。キリスト教世界に連綿と引き継がれてきた反ユダヤの教えも、ホロコーストにつながる1つの要素となった。だかrあヒトラーの反ユダヤ主義には宗教的な動機はなく、人種的な反ユダヤ主義だったといわれる。ヨーロッパのユダヤ人は、ユダヤ教徒であるがゆえに長らくキリスト教徒の迫害と差別に晒され、ゲットーでの居住を強いられるなど、多数は社会から隔離された生活を送って来た。ユダヤ人の会報を撤回せよと論陣を張った人々が宗教の違いの代わりにレイシズムの施行原理を議論に持ち込んだ。「ユダヤ人は宗派集団ではなく人種だ」「ユダヤ人は改宗してもユダヤ人だ」と主張した。彼らはその主張を「反セム主義」という造語を用いて展開した。ユダヤ人との人種の違いを強調する者にとって、ユダヤ人のキリスト教への回収は人種の違いをごまかすための手段にほかならず、キリスト教徒との結婚はアーリア人種を混交によって対価させようとする危険なユダヤ人のたくらみだとされた。改宗も同化も許されない社会で「ユダヤ人問題」を解決したければ、ユダヤ人を国外へ追放するしかないと彼らは考えた 。

Posted byブクログ

2015/11/05

 第1章から第5章まで、ヒトラーが政治家となり、ナチ党首となってから、ヴァイマル共和国のヒンデンブルク大統領によって首相に任命され、その後どのようにして議会制を崩壊させてナチ党が唯一の政党となったか、そして「安定した時代だった」とドイツ国民によって評されるナチ体制下の政治はどのよ...

 第1章から第5章まで、ヒトラーが政治家となり、ナチ党首となってから、ヴァイマル共和国のヒンデンブルク大統領によって首相に任命され、その後どのようにして議会制を崩壊させてナチ党が唯一の政党となったか、そして「安定した時代だった」とドイツ国民によって評されるナチ体制下の政治はどのようなものだったのかが解説されている。第6章、第7章はユダヤ人政策、ホロコーストに至るまでの話が、最新の研究成果をもとに論じられている。  新書としては300ページを超えており、年表や数多くの参考文献も載っているなど、一般向けながらもそれなりに本格的なもの。例えば、「ホロコーストはこのヴァンゼー会議で決定されたとしばしばいわれるが、それは正しくな」(p.326)く、「四一年の晩夏から初冬のどこかの時点で、ヒトラーは、ヒムラー、ハイドリヒに対して、すでに現実のものとなったユダヤ人政策の転換、すなわちホロコーストの始まりに承認を与え、これを加速させた」(p.322)など、当時のヒトラーを中心とした動きが仔細に述べられている。  ところで、「ホロコースト」という言葉は、アメリカでヒットしたテレビドラマから広まったらしいが、「旧約聖書の『神への供物』の含意があることから、イスラエルでは好まれず、ヘブライ語で破局・破滅を意味する『ショアー』が用いられている」(p.254)というのは知らなかった。他にも意外、というか知らなかったことが多くて、ヒトラーが首相になった時には、その直前の国会選挙で「得票数をかなり減らし、党勢がすでに下降局面に入った」(p.114)という事実は知らなかった。勢いに乗っている途上、という訳ではなかったらしい。しかもその「一番の原因は、ヒトラーのカリスマ性の限界」(p.116)というのも意外だ。この段階で、もうカリスマがカリスマであり続けることの難しさを露呈していたということは知らなかった。そしてヒトラーを首相に含めたリストを作成したのは、ナチ党などの賛成で内閣不信任とされたパーペンという人物だったらしい。その目的が3点、p.131に示されているが、ヴァイマル憲法からの揺り戻し、というかかなり右傾化をよしとする風潮が政府側にあった、ということが分かる。そして、ヒトラーの政治弾圧に「なぜ人びとは反発しなかったのか」(pp.168-72)という部分で、要するに日和見主義の人々がどちらかの極に引きずられていく、という集団心理の構図が見える気がする。そして時が進み、ユダヤ人への弾圧に対して「なぜドイツの国民から抗議の声があがらなかったのか」、「共犯者となった国民」(pp.289-93)の部分では、多数派さえよければ何でも、という多数決の弊害を描いている。あとは、ナチ党内部の権力構造があまりに複雑になり過ぎている上に、「ヒトラーの命令は、会食の席や二人だけの立ち話で伝えられることが多かった。側近たちは与えられた裁量の範囲で、ヒトラーの歓心と寵愛、より大きな権限を得ようと、『総統の望み』を慮っていっそう過激な行動をとるようになっていった。」(pp.306-7)という部分は、組織上の問題点、というか敢えてそうなるような「システム無きシステム」のようなものが構築されていた、ということなんだろうか。  社会的や政治的な出来事から、そこに生きた人々の意図を読み解いていくことのできる、興味深い本だった。(15/11/05)

Posted byブクログ

2015/10/20

ヒトラーがいかにナチ党を結党し、国民の人気を博し、形式上は合法に独裁を進めていったかを説明する。 時系列を追いながら、共産党を潰し、議会と国会を無力化し、国民の人気を得る政策を断行していったかを、詳しく、かつ適当なレベルで説明され、とてもわかり易かった。 同時に、なぜ国民は止め...

ヒトラーがいかにナチ党を結党し、国民の人気を博し、形式上は合法に独裁を進めていったかを説明する。 時系列を追いながら、共産党を潰し、議会と国会を無力化し、国民の人気を得る政策を断行していったかを、詳しく、かつ適当なレベルで説明され、とてもわかり易かった。 同時に、なぜ国民は止めなかったのか、大統領との関係はどうったのかなど、折々に浮かぶ疑問にも明快に答えていた。 ホロコーストやユダヤ人迫害にも紙面を割き、ヒトラーの意識にある「アーリア人至上主義」、「ユダヤ人敵対視」がいかにして具現化していったかも恐ろしいほどに実感してしまった。 ヒトラーが民主的に選ばれたとか、世論の後押しもあったといった、よく聞かれる説がどんなものかを知れてとても興味深かった。 特にユダヤ人迫害を横目に、自分たちの利益や、長期的な展望を踏まえた時に短期的な犠牲はやむなし、と考えたドイツ市民の姿勢は考えさせられるものがあった。

Posted byブクログ

2015/08/30

事前の知識がなくても、ヒトラーについて、また第二次世界大戦終戦までのドイツの情勢を理解することができる良書

Posted byブクログ

2015/08/12

“なぜ文明国ドイツにヒトラー独裁政権が誕生したのか? ヒトラーの実像からホロコーストの真実までを描く決定版!” とうのが帯の惹句。 色々と知らないことも多かったので勉強になりました。とくに何だか印象の薄かったヒンデンブルク大統領の立ち位置とか、ナチ党が危機に瀕したときの対応と...

“なぜ文明国ドイツにヒトラー独裁政権が誕生したのか? ヒトラーの実像からホロコーストの真実までを描く決定版!” とうのが帯の惹句。 色々と知らないことも多かったので勉強になりました。とくに何だか印象の薄かったヒンデンブルク大統領の立ち位置とか、ナチ党が危機に瀕したときの対応とか、ヒトラー政権下での雇用対策・公共事業政策とか……。アウトバーンってヒトラーが考えたんじゃなかったんですね。^^;;; 開戦後の過程で反ユダヤ主義思想、優生思想がどのようにホロコーストへと発展していったのかについては、とくに第6章・第7章を割いて詳述されています。 もちろん、新書一冊で帯の惹句に挙げられていることがすべてわかるとは最初から期待していませんので、ないものねだりは措くことにしましょう。

Posted byブクログ

2015/07/28

ヒトラー政権についての概説書。 本分野には既に多数の研究の蓄積があるが、帯の「最新研究をふまえ」という一文に惹かれて購入。 ところが、目から鱗、という指摘は殆ど見られなかった。 本書は話題の幅と深さの選択を誤った印象がある。 新書サイズで、ヒトラーの生立ち、ナチスの台頭、政権獲...

ヒトラー政権についての概説書。 本分野には既に多数の研究の蓄積があるが、帯の「最新研究をふまえ」という一文に惹かれて購入。 ところが、目から鱗、という指摘は殆ど見られなかった。 本書は話題の幅と深さの選択を誤った印象がある。 新書サイズで、ヒトラーの生立ち、ナチスの台頭、政権獲得、体制確立、ナチ政権の内政・外交、そして人種主義政策とホロコースト・・・ と、それだけで何冊も本が書けるような話題の幅である。 それを入門書らしくズバズバと簡潔に書くのではなく、ある程度詳細にあたりながら・・・・、でも新書の紙幅に制限されながら・・・・、と深さの点では実に中途半端な印象がある。 また冒頭指摘した点だが、(まだ勉強の浅い身分なので恥を覚悟で言うが)本書は最新研究を踏まえている点をウリにしているものの、正直50年前に書かれ「古典的名著」とされている書物群と、そう大幅に違う見解は述べられていない。 本書「はじめに」に記述があるように、近年「歴史の細部」が詳細に分かるようになってきたのだそうだが、その通りで、過去の研究と細部の異同がある程度の印象だった。 もちろん、「今まで読んだ本と違うぞ」と思うような発見も中にはあったが、350ページもの本を読んだ割には、物足りなさがある。 ヒトラー、ナチスについて学んでいく際の最初の一冊にしてはちょっと深くて狭いし、既にある程度読んだ人には広すぎて浅い。 帯に短し襷に長し。 個人的にはこれを読む時間を取るなら、本書の章立てになっているそれぞれのテーマについて書かれた(定評ある)概説書を一冊ずつ読んでいく時間を取った方がいいように思う。

Posted byブクログ