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怪異と身体の民俗学 の商品レビュー

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2022/06/01

こりゃまたすごいタイトルだなあ。サブタイトルの「異界から出産と子育てを問い直す」が、本質を表している。 妊婦が母子ともに死亡してしまった場合、腹を裂いて胎児を取り出し、別々に埋葬する風習があるという。この風習自体にも地域のバリエーションがある。妊娠したまま死ぬのは罪深いとか...

こりゃまたすごいタイトルだなあ。サブタイトルの「異界から出産と子育てを問い直す」が、本質を表している。 妊婦が母子ともに死亡してしまった場合、腹を裂いて胎児を取り出し、別々に埋葬する風習があるという。この風習自体にも地域のバリエーションがある。妊娠したまま死ぬのは罪深いとか、荷を背負わせないとか、胎児がお腹にいるまま葬られたのでは、死んでも死にきれず幽霊となったり、妖怪となったりとか。そういうわけで、胎児分離を行う。20世紀になってもこうした風習は残っていたようで、しかしさすがに近代法とはバッティングしてしまう。それなりに軋轢や事件もあったようだ。そりゃそうだ。 抱っことおんぶの違い。おんぶは作業用の運搬方式である。実は世界的に抱っこはあるが、おんぶは一部の地域だけ。おんぶにはただの運搬以外の意味もあって、死者を背負ったり、かけおちでおんぶをしたり、というのも様式だった。 現代では、おんぶが激減している。子どもを背負ったまま農作業、というようなケースは少なくなったし、自動車の運転も出来ないし、そもそもベビーカーやら抱っこ紐やらがあるし。さて、どうしておんぶの話が出てくるかというと、背中というのは狙われやすい箇所だから、だ。 第七章は「妖怪・怪異に狙われやすい日本人の身体部位」という、これまたすごいタイトル。 そして八章は、おんぶと関連する背中の話。背中というのは、陽と陰なら陰、ハレとケならケ、表と裏なら裏。魂が抜けちゃったり、狸や狐が憑いたりするのも背中から。抱けば様子は確認できるが、背中の様子は確認できない。背中というのは異界への回路なのだ。 最終章では、現代の妖怪が登場してくる。民俗学を学ぶ現代の学生が生み出した妖怪や、プリキュアの敵キャラクター。妖怪が世相を映すものだとすると、学生のそれも、テレビで出てくるさまざまな妖怪も、みなかわいい。怪異というよりは、むしろ仲間である。本章はこんな言葉で終わる。 「妖怪と密接な関係にあった暴力が、身近な他者へと直接向けられるようになった現代社会そのものの、裏返しなのかもしれない。」 面白い着眼点で、考えてもいなかった世界に連れて行ってくれる本だった。

Posted byブクログ