宮廷社会 の商品レビュー
独特の社会類型(エリアスの語法でいえば「図柄Figuration」)としての「宮廷社会」を明らかにする研究。まず、当時の貴族の邸宅の構造と宮廷の構造が、拡大された家という点で共通していることが指摘される。そして宮廷貴族は近代的市民の価値観にそぐわない生活規範を有していたことが、彼...
独特の社会類型(エリアスの語法でいえば「図柄Figuration」)としての「宮廷社会」を明らかにする研究。まず、当時の貴族の邸宅の構造と宮廷の構造が、拡大された家という点で共通していることが指摘される。そして宮廷貴族は近代的市民の価値観にそぐわない生活規範を有していたことが、彼らの経済生活の観点から指摘される。そして国王ルイ14世の儀礼から、いわゆる絶対君主といえども宮廷貴族との相互依存関係の中に編み込まれており、そのような構造を通して宮廷貴族を馴致していたことが示される。このような構造の中にいる国王はカリスマ的な支配者ではなく、非支配者各層の対抗関係をうまくコントロールして均衡を図る支配構造を維持する支配者であった。第7章以降ではこのような支配関係がどのように成立したかが、特にフランソワ1世、アンリ4世の時期、そしてフロンドの時期に焦点を合わせて分析される。そこでは、伝統的な帯剣貴族が徐々に社会的勢力を失い、宮廷に集合せざるを得なくなっていった過程が描かれる。そして第8章ではこのような宮廷社会の成立に対する一つの反応として、「田舎生活」を賛美する貴族的ロマン主義が成立したことが示される。主としてルイ14世の治世に焦点を合わせた分析ではあるが、随所にプロイセンなどとの相違点について触れた箇所もあり、17・18世紀の絶対主義諸国家の社会構造を比較するにあたっても有益な視点を提供してくれるだろう。エリアスが度々強調する歴史学における理論的視座の欠如という問題は、今日全般的に妥当するかと言われれば疑問であるが、本書で示されたような大きな枠組と個別事例の偏差を考えることは、宮廷社会という図柄の修正のためにも個別事例のより適切な解釈のためにも、必要だと思われる。本書『宮廷社会』でも、依拠している研究や史料はランケの『フランス史』であったりサン=シモン公の回想録であったりするので、他の史料からもどのようの社会的図柄を読み取ることができるかどうかという検証は必要だろう。
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