悲しみのマリア(下) の商品レビュー
あぁ、悲しいよ。確かに悲しいのさ。主人公のマリアではなく、上下巻 を読み通した私が悲しいんだ。 生まれたのは革命のロシアから逃れる列車の中。辿り着いた中国・ ハルピンでは両親とも弟とも離れ離れになり、女子修道院に預け られた。 ロシア帝国海軍の父が昵懇にしていた日本軍人の取り...
あぁ、悲しいよ。確かに悲しいのさ。主人公のマリアではなく、上下巻 を読み通した私が悲しいんだ。 生まれたのは革命のロシアから逃れる列車の中。辿り着いた中国・ ハルピンでは両親とも弟とも離れ離れになり、女子修道院に預け られた。 ロシア帝国海軍の父が昵懇にしていた日本軍人の取り計らいで 日本へ亡命し、会津若松で少女期を送る。日本語がまったく出来な かったのに尋常高等小学校へ放り込まれ、結核に罹患した友人の 死をきっかけに医師の道を志す。 女性が医師になることに偏見があった日本。ましてマリアはロシア人。 先の大戦中には異国人と言うだけで差別と偏見に晒された。 それでも幾多の困難を乗り越えて医師となり、自分の病院を持ち、 その病院で突如持ち上がった労働争議に巻き込まれる。 医師としての活動に身を入れるほどに、自分の子どもたちに対して は疎かになり、長女も長男もマリアの元を離れてしまう。 こうして本書の出来事だけを羅列するとドラマ化されないのが不思議 なほどの波乱の人生なのだ。 それなのに、やっぱり浅いのだ。下巻になればもう少しどうにかなる のでは…と期待したのだが、全体を通して上っ面を撫でただけのよう な印象しか残らなかった。 著者は眼病の難病と言われるベーチェット病を患った際に、本書の 主人公マリアのモデルとなった武谷ピニロピ医師と出会った。 そこで彼女の軌跡を知り、感動を覚えて作品としたのだろうが 書き手の気持ちが空回りしているようだ。 思い入れが強ければ強いほど、観察眼が鈍るのかもしれない。だが、 小林多喜二の母の人生を描いた三浦綾子『母』のように、その壮絶な 人生を鮮やかに描き出した作品もあるんだけどな。 今回、先入観を排除して読もうと思ったので事前に武谷ピニロピ医師 については調べなかった。ご存命でいらっしゃるようだ。90代後半で 今でも病院の理事長を務めていらっしゃる。 もったいないなぁ。これだけの分量のある作品なのに、著者が重点を 置くところと、読み手である私が知りたいと思うことがまったくシンクロ しなかった。 改めて評伝で読みたい人物だ。
Posted by
革命から逃れて、会津にやってきたロシア人の少女。 清瀬で病院を開いた、実在の女医さんの物語。 私の祖母と同年代の彼女の大奮闘ぶりに感激。
Posted by
- 1