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NR の商品レビュー

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2013/12/30

一駅も一生(ひとよ)も同じ時として光る栞を胸に抱きぬ 約束をやぶってごめん惨惨とやさしい雨が降る場所にいる 万緑の笹ざわめいてああどうか燃えてください燃えてください 月光に血管微かに透かしおり冷たき窓辺の白い半女半鳥(ギンダリ)  すみやかに感情などは折り畳み折り畳んだのち受話器...

一駅も一生(ひとよ)も同じ時として光る栞を胸に抱きぬ 約束をやぶってごめん惨惨とやさしい雨が降る場所にいる 万緑の笹ざわめいてああどうか燃えてください燃えてください 月光に血管微かに透かしおり冷たき窓辺の白い半女半鳥(ギンダリ)  すみやかに感情などは折り畳み折り畳んだのち受話器を取りぬ 歳月が彫りし容貌(かお)なり地下鉄の車窓にぼうと映るわたくし おさなごの内にも燃える音があり心電図グラフ連なりてゆく さみしさは(ぽん、ぽ、ぽぽぽん)ランダムに押すスタンプのようであり(ぽん) シュレッダーざむざむ刻むひとひら(ドキュメント)を例えるならば彼らの舌だ 山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード しきしきとセロリの茎を食みながら等しく老いるわれら二人は 街角にHotto Mottoが増えていきお帰りなさい僕の怪物 誰がために働くわれかしろしろと冷える陶器に乳ながしおり ぎんいろの棚にミネラルウォーターの透明な森深閑とあり 旧姓のシャチハタの朱濃くうつり天道さんと呼ばれし日々よ 15首選。絞るのが難しい。学生時代から就職、結婚、母になるまでの歌。身に積まされる歌もあり、共感する歌もあり。「 短歌という表現様式は、記憶を補強するメディアであると常々考えている。 」から始まるあとがきも秀逸。 短歌とは心で撮る写真のようなものだと私は思っていて、考えさせられた。 「山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード」 山間部および都市部という言葉から、ぱっと盆地のような景色が浮かぶ。山間部の透明の雨というから、濃緑、冷たいが澄んだ空気、水の音。 下の句は一転して、ホワイトボード、社内風景である。ノーリターンなのは誰なのか、ともかく静かで人の減った午後なのだろう。雨とあいまって少しさみしい、しかし雨の気配が色濃くなる歌である。NR(ノーリターン)は歌集タイトルにもなっている。歌集では学生時代から就職、結婚、出産、さまざまなステージが切り取られている。決して戻りはしない、進んでいく、NRということだろうか。 「歳月が彫りし容貌(かお)なり地下鉄の車窓にぼうと映るわたくし」地下鉄の窓に映る「わたくしの容貌」は「歳月が彫りし」かおだった。そしてまた地下鉄に乗り進んでいくのである。 「一駅も一生(ひとよ)も同じ時として光る栞を胸に抱きぬ」 この歌もまた、駅がモチーフとして使われている。「一駅も一生も同じ時として」というのは、いまこの駅に立つ一瞬も、通りすぎるステージとしての今、通りすぎてきた時期もすべて同じ重さで、ととらえた。「光る栞」は大切な思い出か記憶か、またはその記憶を補強したうたか。 栞という言葉で全てが本に綴じられていく、途中駅も、線路も、一生も。きらめく栞のイメージが美しい。そして、その栞の1つ、あるいは一駅がまさにこのNRなのであろう。代表歌として引かれるのにふさわしい歌だと思った。

Posted byブクログ

2013/12/28

天道なおの第1歌集。就活の学生時代の終り頃⇒就職⇒恋愛⇒結婚⇒出産⇒子育てと会社生活の両立⇒離職のそれぞれの過程を歌に詠んでいる。表題のNRは、ノー・リターンの略。通読すれば、彼女の四半生のドラマのようでもある。歌は一部に英語のアルファベットが混じったりはするものの(それとても現...

天道なおの第1歌集。就活の学生時代の終り頃⇒就職⇒恋愛⇒結婚⇒出産⇒子育てと会社生活の両立⇒離職のそれぞれの過程を歌に詠んでいる。表題のNRは、ノー・リターンの略。通読すれば、彼女の四半生のドラマのようでもある。歌は一部に英語のアルファベットが混じったりはするものの(それとても現代短歌では、もはやごく普通のことだが)、言葉も表現も平明である。自らの感情を直情的に歌い上げるのではなく、一歩引いたところから眺めるもう1人の自己がいるかのような歌いぶり。そのように常に理知的で冷静なのだが歌全体には抒情が漲る。また、歌のリズムの軽快さもいい。一首を挙げるなら「さみしさは(ぽん、ぽ、ぽぽぽん)ランダムに押すスタンプのようであり(ぽん)」。  注「ぽ」はpoです。

Posted byブクログ