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名もなき人たちのテーブル の商品レビュー

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35件のお客様レビュー

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2024/08/01

素敵なシンプルな装丁に惹かれて手に取った。潔く青い。全然知らない著者の本。スリランカがまだセイロンと呼ばれていた時代、1950年代に、スリランカから英国へ渡る船に乗っていた移民の子供たちの、数週間の船旅を描いた作品。回顧録のような書き方。 一人称ではないのに、子供たちの日記を覗...

素敵なシンプルな装丁に惹かれて手に取った。潔く青い。全然知らない著者の本。スリランカがまだセイロンと呼ばれていた時代、1950年代に、スリランカから英国へ渡る船に乗っていた移民の子供たちの、数週間の船旅を描いた作品。回顧録のような書き方。 一人称ではないのに、子供たちの日記を覗き見ているような気分になるのは、子供たちの目を通して認識された現実しか描写されていないせい。つまり、我々大人の読者からしたら実はとんでもないことが起きているとわかるようなことも、子供の目はその重大さや意味合いを理解しないままサラッと通り過ぎてゆく、その感じがそのまま小説になっている。 合間合間に、それを描写している大人の著者のコメントも入るのがまたユニークで癖になる。渋い含蓄が子どもの日記にちょいちょい挟まれているような面白さがある。 そして本の中盤くらいに、主人公が渡英し船から降りたあとの移民としての生活の一端が描かれ、この作品は実は移民の人生の難しさを描いたものでもあるんだ、とわかる構造も興味深い。船旅中に仲良くなっていた子どもたちのその後は、船の上での様子とは違う。新しい環境に溶け込んだ者、溶け込めなかった者。切ない。 時折挟まれていた、スリランカのお茶や食べ物を主人公たちが懐かしむ描写は、じつは英国に入る前の船の上での間しか登場しない。のどかで感傷的だった子供時代の最後=船の上と、英国上陸後の少し寒々とした時代=子供時代の終焉、そしてそれらを振り返っているビターテイストな現在=大人、という対比が浮かび上がる。

Posted byブクログ

2024/06/16

1954年、セイロン(スリランカ)からイギリスに渡る大型客船に乗った11歳の少年マイケル。 3週間の船旅の間に出会う個性的な人、様々な出来事が少年の目を通して解釈され、そしてそれを数十年後の自身の回顧録という形式で語られる。 物語はとても短い60もの断章にわかれて語られ、前半は...

1954年、セイロン(スリランカ)からイギリスに渡る大型客船に乗った11歳の少年マイケル。 3週間の船旅の間に出会う個性的な人、様々な出来事が少年の目を通して解釈され、そしてそれを数十年後の自身の回顧録という形式で語られる。 物語はとても短い60もの断章にわかれて語られ、前半はマイケルと船で出会った同年代の悪友たちのいたずらの数々、船で出会う人々とのささいなやりとりが中心となる。 11歳の少年たちが好き勝手走り回るなかで色々なものにぶつかり、その結果生じた反応を成長の糧として学んでいく。 前半はそんな感じで、印象としてはただの「少年達の3週間の夏休み」。 オンダーチェの詩的な視点で語られるものの、それほど面白いという印象は受けない。 ただ、この若干退屈な印象が、中盤以降「語り手の現在」が織り込まれながら語られるようになると大きく変わる。 この3週間の体験が語り手のマイケルを含め、多くの人たちにとって「原体験」となっていることが明らかになっていくにつれ、物語に厚みが出てくる。 船旅の後半では、些細とは言えないような事件がいくつか起こる。 ただ、11歳の少年にはそれがどれくらい大変なことなのか、理解できない。事象は事象として記憶にとどめられる。 子供の頃にはただの体験、ただの思い出だったものが、時を経て想起するとそこには不思議なことに意味が加わっている。 これは時限爆弾みたいなもので、大人になって意味が理解できるようになったときに初めて心に大きく作用したりする。 オンダーチェはこの心の機序を、物語の後半で実に効果的に持ち込んでくる。 下船したあとの人生に、この船旅の経験が織り込まれた人々。 もう二度と会わないかもしれないけれども、人生の一部に同じ経験が織り込まれた人々。 全体で見れば全く異なる人生なのに、その細部をよく見ると同じ色の糸が混ざっている。 それはとても暖かいことであり、そして切ないことでもある。 最初退屈だなと思った60のバラバラの断章が一つの人生につながる。 最後にオンダーチェの詩的な文章で装飾された美しい人生が現れてくる。 素晴らしい物語でした。

Posted byブクログ

2024/02/18

ざっくりと言うと、ちびっ子が船で長旅して、それを大人になって回想しているだけなんだけども!しかもなんか地味に遊び回ってるだけな気もすると思いきや意外やイベントも盛りだくさんで涙あり笑いあり殺人もありとしっとりと語ると見せかけて波乱万丈なんである。いや語り口に騙されたということが今...

ざっくりと言うと、ちびっ子が船で長旅して、それを大人になって回想しているだけなんだけども!しかもなんか地味に遊び回ってるだけな気もすると思いきや意外やイベントも盛りだくさんで涙あり笑いあり殺人もありとしっとりと語ると見せかけて波乱万丈なんである。いや語り口に騙されたということが今になってみると分かるこれはまさかのどんでん返しと言うかギャップ萌えかもしれぬよ。 というわけでなんか不思議な面白さが不思議ちゃん好きなオッサンどもにもモテモテ。

Posted byブクログ

2023/08/22
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 夏の読書を”Summer Reading”と称したムーブメントを見かける中で、個人的には夏はデカめの海外小説を読みたい気持ちがあり本著を読んだ。『戦下の淡き光』も読んだマイケル・オンダーチェ。詳しい中身を知らずに読んだけど、メインの話は子どもたちが夏の間に客船でスリランカ→イギリスへ旅する話ではからずも夏ドンピシャ。そしてオンダーチェ節炸裂で哀愁ある小説でオモシロかった。  主人公は11歳の少年で、母が待つイギリスへ客船で移動するあいだに船上で起こるさまざまな出来事が描かれている。興味深いのは全部で59章ものチャプターが用意されていて語り口がかなり断片的なところ。船旅のエッセイのようにも読めるし海外ドラマを見ているときの感覚に近いところがあった。子ども同士の友情、甘酸っぱい恋、よくわからない大人との交流、はたまた悪事に手を染めてしまったり。少年が経験する「一夏の何か」が凝縮されており自分の子どもの頃と重ね合わせて楽しんだ。タイトルが示すように名もなき人との何気ない時間の積み重ねが人生を形成していく。本著を読むとそれがよく分かる。直接的に言及しているラインを以下引用。 *面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなのだ。陳腐なお世辞で結びついた主賓席では、永遠の価値を持つようなことはたいして起こらない。すでに力を持つ人々は、自分でつくったお決まりのわだちに沿って歩みつづけるだけなのだ。* *僕たちは、ささやかだが大事なことを理解した。じかに関わらずに通りすぎていく、興味深い他人たちのおかげで、人生は豊かに広がっていくのだ。*  子どもの頃のエピソードの合間に、登場人物が大人になってからのエピソードが挟まれていてる。この大人篇のビターさがとても好きだった。特に子どもの頃は場当たり的な対応が多いのとは対照的に、大人の話は選択の積み重ねが見えてくるから。この構成こそが小説全体の味わいを増していると思う。『戦下の淡き光』も同様だったけど、サスペンス要素をしっかり用意してエンタメ的に楽しませつつも人生の深淵にも物語としてタッチする。この満足度は並の作家では得られない。鮮やかなコバルトブルーの装丁の美しさも含め最高の夏の読書だった。

Posted byブクログ

2023/07/31

11歳のマイナ、スリランカきらイギリスまでの船旅 面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなのだ

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2023/06/07

第二次世界大戦の終戦から約10年後。家の事情で今のスリランカからイギリスへ向かう少年の、船上での出来事・思い出とその後の人生が、交差して描かれている。 本編とは全く関係ないのだけれど、「アジア人」という言葉が何度か使われていて、それが個人的にすごく印象に残った。 日本から中東ま...

第二次世界大戦の終戦から約10年後。家の事情で今のスリランカからイギリスへ向かう少年の、船上での出来事・思い出とその後の人生が、交差して描かれている。 本編とは全く関係ないのだけれど、「アジア人」という言葉が何度か使われていて、それが個人的にすごく印象に残った。 日本から中東までの広い地域を「アジア」と括るのは大括りにすぎるのではないかとずっと思っている。肌の色や外見、言語、宗教など全く異なり、重なる部分も少ないのに、「アジア」と一括りにされることに違和感がある(し、西洋以外に対する差別意識も感じてしまう)。 私もアジア人だけれど、この小説の主人公である彼とは文化的・地理的・歴史的な背景が全然違うので、同じ括りで呼ばれることに不思議な感覚を持った。 東南アジア系、インド系などルーツをはっきり書くことの方が差別になるのだろうか? 欧米のドラマなどで、イギリスの昔の貴族を黒人の俳優が演じていることなどがある。歴史的事実として、当時の貴族階級は白人しかいなかったはずなのに、そこを歪曲されると違和感がある。確かに歴史的事実を重んじると黒人の俳優たちは出演できない、または、役柄が限られてしまうのは差別なのかもしれないけれど… とにかく、「アジア人」というよりもう少し具体的に主人公の背景を知りたかったなと思った。文化的な背景は個人の人格形成にも影響すると思うので、彼がどんな人なのか想像するためにも。

Posted byブクログ

2023/01/04

文学ラジオ空飛び猫たち第90回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/fMtEUJIXhwb すべての大人になってしまった人たちに読んでもらいたい。心が揺さぶられると思う。 大人になるってどういうことだったんだろうと考えさせられる一冊。 ...

文学ラジオ空飛び猫たち第90回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/fMtEUJIXhwb すべての大人になってしまった人たちに読んでもらいたい。心が揺さぶられると思う。 大人になるってどういうことだったんだろうと考えさせられる一冊。 大切な一瞬を持ち続けるとはこういうことなんだと思う。

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2022/12/08

11歳の少年、マイケルが母の待つイギリスへ向かう船旅の中で出会った人々との物語。子ども時代の3週間ってなんと密度が濃く、発見の毎日なんだろう。彼はそこで同年代の友人や、様々な身分の大人たちと出会う。こういう友情は少年という生き物特有のものな気がして、少し羨ましく感じる。映画スタン...

11歳の少年、マイケルが母の待つイギリスへ向かう船旅の中で出会った人々との物語。子ども時代の3週間ってなんと密度が濃く、発見の毎日なんだろう。彼はそこで同年代の友人や、様々な身分の大人たちと出会う。こういう友情は少年という生き物特有のものな気がして、少し羨ましく感じる。映画スタンド・バイ・ミーを思い出した。そういえば、あの映画を観た時も泣いたっけ。私は大人になって思い出す子ども時代の風景に弱いのだ。もう会えなくなってしまった人たち、確かにそこにあった風景。

Posted byブクログ

2022/07/03

静かに少しずつ読みたい本。少年時代の二週間の船旅はこんなにも大冒険なんだなと思いました。抑えた筆致が物語をしみじみと味わい深いものにしています。ふとした時に読み返して、船旅気分を味わいたくなります。

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2022/02/16

スリランカからイギリスまでの21日間の船旅は、少年にとって初めての冒険で、それは大人になってもなお色褪せない。 オンダーチェの自伝的小説。 思い出は時を経てより輝きを増し、その後の人生の糧となるのかも。 マジStand By Me.

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