巨鯨の海 の商品レビュー
昔から日本の捕鯨に興味があった。鯨を殺すのは可哀想というけど、それをいうなら牛だって可哀想だ。 捕鯨の様子や人間ドラマで、グイグイ読ませる。
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太地に生きる者たちの、「逞しさ」という言葉だけでは片付けられない。掟には決して背けない、その狭い社会で自分の存在を保持するための「厳しさ」。ゾッとします。
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江戸時代、鯨を捕るのに鯨に飛び乗り、大太刀を鯨に突き刺しとどめを刺していたとか。浮世絵や歌舞伎での誇張した世界と思ってましたが、実に勇敢で勇壮な世界があったとは驚き。
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表紙の絵は国芳の作品。鯨の背に宮本武蔵が乗ってとどめを刺そうとしている場面。とても迫力があるし、実際の絵も3枚繋ぎで大きいので画像で見るよりはるかに勇壮で印象に残る。でも、当たり前だが実際の鯨漁は一人で出来るものではない。 この小説は鯨漁を生業とする村を舞台にしたアンソロジ...
表紙の絵は国芳の作品。鯨の背に宮本武蔵が乗ってとどめを刺そうとしている場面。とても迫力があるし、実際の絵も3枚繋ぎで大きいので画像で見るよりはるかに勇壮で印象に残る。でも、当たり前だが実際の鯨漁は一人で出来るものではない。 この小説は鯨漁を生業とする村を舞台にしたアンソロジーで、主人公は刃刺(鯨にとどめを刺す花形)に憧れる少年の話や、その花形である刃刺がある犯罪に手を染めているという話、鯨を追い過ぎたために危険な潮流に乗ってしまい、遭難する漂流譚などなど。 鯨漁の方法や、道具や役割に関する特殊な情報が多すぎて、最初は戸惑ったが、慣れてくると物語の世界に没入できて、とても面白かった。なにしろ知らないことだらけだから新鮮だった。 命を懸けた危険な漁のために禁忌や厳しい掟がある。仲間意識の強い村社会の良さもあれば、一度掟にそむいただけでも村から追い出されるという生きづらさもある。鯨とともに生き、鯨とともに死ぬ。殺生はあくまで自分たちの命を繋げるためだけという生命への畏敬の念をしっかりと抱きながら漁をしている。 船から投げ出されて波にのまれる場合もあるし、鯨の泳ぎで生じた渦に引き込まれたり、鰭でたたかれて死ぬ場合もある。人も命懸けだが、鯨も命懸けだ。その死闘の描写が荒々しく真に迫っている。 今の調査捕鯨の場合は、でっかい船の先に付いた大砲みたいにでっかい銛で撃ち殺す感じだから、命の危険は感じないだろうし、鯨の生命に対しても、畏敬の念なんか抱けないじゃないだろうかと思う。 ほとんど感想しか書いていないが、直木賞候補にもなったし、今年度の山田風太郎賞も受賞しているので、こんなレポより選評を読んでいただいた方が参考になると思うので、興味を持った方はそちらを読んでください。
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勤務している書店グループで、なぜか?今年の一位に投票された文芸書ってことで、10%オフの社割で購入してみました。物語の冒頭は取っつきにくいと思いましたが、人間と鯨との闘いの描写は秀逸。情景が鮮やかに浮かびました。結末は衝撃的でした。万人が支持する作品ではないかもしれませんが、個人...
勤務している書店グループで、なぜか?今年の一位に投票された文芸書ってことで、10%オフの社割で購入してみました。物語の冒頭は取っつきにくいと思いましたが、人間と鯨との闘いの描写は秀逸。情景が鮮やかに浮かびました。結末は衝撃的でした。万人が支持する作品ではないかもしれませんが、個人的にはオススメしたい一作です。
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和歌山県の太地古式捕鯨を描いた短篇集。 6話の短編はそれぞれ独立していて連作短編ではないのが今どきの短篇集としてはかえって新鮮な一冊。 太地の古式捕鯨は、船一艘一艘にそれぞれ役目が有りそのチームワークで鯨に挑む命がけの猟法。 捕鯨から解体までの職種の一つを取り上げ一冊読むと太地古...
和歌山県の太地古式捕鯨を描いた短篇集。 6話の短編はそれぞれ独立していて連作短編ではないのが今どきの短篇集としてはかえって新鮮な一冊。 太地の古式捕鯨は、船一艘一艘にそれぞれ役目が有りそのチームワークで鯨に挑む命がけの猟法。 捕鯨から解体までの職種の一つを取り上げ一冊読むと太地古式捕鯨の全貌を描く。 「大背美流れ」を描いた最終話は衝撃的だが、冒頭とは予想外の展開をする「決別の時」が良かった。
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和歌山 太地の勇魚漁とに生きた人たちの物語。江戸時代から明治までの短編集。勇魚が中心においてあるが、勇魚だけの物語ではなく、勇魚を中心に生きた太地の人々の物語。 現地に住み込み取材したCWニコルの勇魚の迫力とは別の視点を持っているとは思うが、勇魚に船から放り出された船子に「軽い潜...
和歌山 太地の勇魚漁とに生きた人たちの物語。江戸時代から明治までの短編集。勇魚が中心においてあるが、勇魚だけの物語ではなく、勇魚を中心に生きた太地の人々の物語。 現地に住み込み取材したCWニコルの勇魚の迫力とは別の視点を持っているとは思うが、勇魚に船から放り出された船子に「軽い潜水病である」と書かれると、ニコル氏ならそんな表現はなかっただろうなと、軽い失望感。 水面から一度潜水するだけで、潜水病になるって、どんだけ~とダイバーならだれでも思うはず。そういうところ、がっかりしちゃうのよね。 全体的は面白い物語なのに、しらけちゃったので...
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ほんの僅かな失敗ひとつで命を奪われてしまうような世界で生きていくことの厳しさ、海深く引きずり込まれる恐怖と息苦しさ。読んでいるとそんなものの息づかいが頭の中を巡る。そういえばサーフィンをしていた頃、離岸流で沖へと流されていった時の恐怖が蘇ってっしまった。そしてあたかも自分が船に乗り大海原を彷徨っているような孤独感に襲われてしまう。鯨漁の栄枯盛衰というもう一つの物語がストーリーを通して語られています。読み応えのある良い作品でした。
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【ザ・コーヴ】という映画で太地が話題になりましたけど、近代捕鯨が始まる以前にはこうした「古式捕鯨」と呼ばれる伝統的な漁があったんですね。純粋に興味深く読めました。 皆さんが指摘するように、捕鯨シーンの力強さや、鯨と共に生きる人々の生き生きとした様子が丁寧に描かれているのはもちろんなんですが、自分の経験と照らし合わせるとこういうのって今もあるんですよね。海外では。 例えば、スリランカなんかではマグロ漁が盛んですけど、役割分担がかなりしっかりしている。沖合での様子は分からないですが、マグロを積んだ船が戻ってくると、そこに自然と人が集まって、手際よく解体→梱包→発送をしていたりして、これは結構この小説に描かれている役割分担に近い気がします。スリランカ人にもきっと同じように掟やルールに葛藤している人たちがいるんでしょうね。 連作集になっていますが、貫かれたテーマは若者の葛藤と成長だと思うんです。太地の厳しい掟に一定の距離感を持った若者が、それに疑問を抱きながら困難に直面し、やがてそれを克服・受容する姿を描いている。物語的には僕の好物であるアイデンティティの受容モノであって、先にも書きましたが、捕鯨シーンの力強さと若者の心が揺れ動く繊細な筆致は直木賞候補にふさわしいと思いました。というか、これが受賞でなくて「ホテル・ローヤル」ってのはちょっと信じられませんが…。「訣別の時」は読んでて切なすぎます。いくら人生を受け入れると言っても、ここまでしなきゃいけないのか…と。 ちょっと、残念だったのは物語が基本的に太地で生きる男性にしか向かっていなかったことでしょうか。それはそれで一貫してありなのですが、この掟の厳しい女性や物語にチラッと登場する住職などにも焦点を当てても面白そうだなと思いました。
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第149回直木賞ノミネート作品です。 巨大な鯨をしとめるために、各自の役割分担で鯨に立ち向かう「組織捕鯨」を確立して、繁栄する紀伊半島の漁村、「太地」が舞台でした。 ●旅刀刺の仁吉 ●恨み鯨 ●物言わぬ海 ●比丘尼殺し ●訣別の時 ●弥惣平の鐘 「太地」で鯨摂...
第149回直木賞ノミネート作品です。 巨大な鯨をしとめるために、各自の役割分担で鯨に立ち向かう「組織捕鯨」を確立して、繁栄する紀伊半島の漁村、「太地」が舞台でした。 ●旅刀刺の仁吉 ●恨み鯨 ●物言わぬ海 ●比丘尼殺し ●訣別の時 ●弥惣平の鐘 「太地」で鯨摂りで働く人々の6つのエピソード。 一話に一人ずつ、ヒーローがいます。 どの話もヒーローたちが「太地」の漁師として生きていくため、厳しい掟や習慣にとまどいながら、成長していく過程が描かれていました。 日本では、有史以前から捕鯨が行われてきており、捕鯨の規制が強まった現在でも、調査捕鯨を中心とした捕鯨をしているほどです。 鯨で生計をたてる漁村は、鯨を「戎様」とよび、大切に敬いその魂をなぐさめる儀式も摂り行っていました。 一致団結して鯨を獲る漁法では、死と隣合わせの危険があるため、 犯してはならない厳しい掟もありました。 漁村で生きる人々の、 古くからの慣習と掟が作品のすみずみまで漂っています。 方言で書かれている漁師言葉も 作品にズシッとした重みを加えていました。 そういえば、 少し前に読んだ『ジョン万次郎』の話も捕鯨がでてきました。 捕鯨・・・勇壮な海の狩だったのですね。 今では、見ることはできないし、 鯨肉すら食べるのも、困難になっています。 この作品のように、鯨がやって来て 大量に狩りをした時代があったなんて信じられません。 こんなにも厳しい掟を守って、村が繁栄していたことも、 昔の人はすごかった、という気がしました。
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