巨鯨の海 の商品レビュー
古式捕鯨発祥の地といわれる太地。 危険な鯨漁師として生きる人々の生活を切り取って描いた短編集。 イルカの追い込み漁が物議を醸していたので、前から気になっていたこの作品を読んでみた。 何の産業もない太地の漁村が鯨漁で発展し、そこに住む人たちはみんなが何かしら鯨漁に携わっている。...
古式捕鯨発祥の地といわれる太地。 危険な鯨漁師として生きる人々の生活を切り取って描いた短編集。 イルカの追い込み漁が物議を醸していたので、前から気になっていたこの作品を読んでみた。 何の産業もない太地の漁村が鯨漁で発展し、そこに住む人たちはみんなが何かしら鯨漁に携わっている。 自分たちの生活の糧となる鯨を畏敬の思いを込めて「夷(えびす)様」と呼ぶ。 生き物の命を奪う様子は残酷にも思えるけど、息絶えていく鯨に向けて念仏を唱え、毎年供養の法要を行うなど、「命をいただく」ことはけっして残虐な殺戮ではないことが描かれている。 たしかに、文明が進んで食べ物が豊富な飽食の時代の現代で鯨やイルカを捕って食べることを「野蛮だ」という人たちの気持ちもわかる。 ただ、この作品を読んで、鯨漁師であることに誇りを持ち、先祖代々掟と技を受け継いできた人々の思いを垣間見た今、鯨漁の歴史まで否定してほしくないと思った。
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2015.02.旅刃刺の仁吉が音松を成長させる話,体の弱い母を助けるために太地の掟を破ってしまう末吉の話,耳の聞こえない与一達子供が鯨取りを見に行き遭難してしまう話,血を見ないと耐えられない性分で尼殺しに走ってしまう晋吉の話,鯨漁が耐えられなかった太蔵が成長して立派な刃刺になる話,親子鯨を取りに行き多くの人達が遭難して命を落としてしまう話の短編6話.すべて鯨漁の生業とする土地である太地に関する話.短編集だがなかなか面白かった.
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知らなかった太地の捕鯨の歴史、伝統を知ることが出来た。また捕鯨の様子が詳細で文章力があり迫力があった。その中で繰り広げられる様々な物語、短編であるのにそれぞれ内容の濃いストーリーであった。
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紀伊半島にある太地(たいじ)と言う村を舞台にした、捕鯨の物語。表紙に惹かれたのですが、内容は予想以上の面白さでした。 「捕鯨」は、色々と騒がれていますが、よく「○○百年続く伝統的な捕鯨で・・・」とニュースで聞いて、人力しか無い時代に、どうやって鯨を捕ったのか?を疑問でした。...
紀伊半島にある太地(たいじ)と言う村を舞台にした、捕鯨の物語。表紙に惹かれたのですが、内容は予想以上の面白さでした。 「捕鯨」は、色々と騒がれていますが、よく「○○百年続く伝統的な捕鯨で・・・」とニュースで聞いて、人力しか無い時代に、どうやって鯨を捕ったのか?を疑問でした。この本に書かれている「組織捕鯨」 もちろん現実なのでしょうが、信じられないですね。手漕ぎの船で鯨を捕っていたとは・・・ 江戸時代の初期から、明治12年頃までを、時系列に並べ当時の太地を克明に描写しており、記録映像を見ているような感じ。荒々しく、厳しい規律と暖かい家族愛。常に生死の境界で「捕鯨」を糧として生きる人たち。あっさり、引き込まれました。 著者の伊藤潤さんって、どこかで聞いた気が・・・と思ったら、この前よんだ「天地雷動」の著者でした。 伊藤さんの歴史小説、もっと読みたい。素直にそう思いました。
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現在の和歌山県太地が舞台の、捕鯨をテーマとする小説6編収録。最後の話は明治に入ってからの大規模な遭難事故をテーマとしている。太地は映画「Cove」によってイルカ・スナメリ漁を邪魔するために欧米の反捕鯨団体が押し寄せる場所となってしまっているが、江戸時代に何百年に渡って捕鯨によって...
現在の和歌山県太地が舞台の、捕鯨をテーマとする小説6編収録。最後の話は明治に入ってからの大規模な遭難事故をテーマとしている。太地は映画「Cove」によってイルカ・スナメリ漁を邪魔するために欧米の反捕鯨団体が押し寄せる場所となってしまっているが、江戸時代に何百年に渡って捕鯨によって栄えた土地。土地の男たち全員が何らかの形で捕鯨にたずさわって生きている土地のドラマ。過剰な修飾なく情景や登場人物の心象をドライに説明する筆力がすごい。
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伊東潤さんの本はこれ以前にも直木賞候補になっていたけれど、伊東潤という作家を知らなかった。 新聞等で彼の名前を目にすることもあったけれど、歴史小説作家ということで完全にノーマークでした。 この本もタイトル、装丁ともに、全く感じるものがなかった…(失礼なことを言っていますね…、ごめ...
伊東潤さんの本はこれ以前にも直木賞候補になっていたけれど、伊東潤という作家を知らなかった。 新聞等で彼の名前を目にすることもあったけれど、歴史小説作家ということで完全にノーマークでした。 この本もタイトル、装丁ともに、全く感じるものがなかった…(失礼なことを言っていますね…、ごめんなさい!) そんな私がこの本を手にしたきっかけは、日経新聞(国際版)の『プロムナード』に掲載されている伊東潤さんのエッセイを読んだこと。 そこで「巨鯨の海」が第1回高校生直木賞を受賞したことを知りました。 高校生直木賞は、第149回、150回直木賞候補12作品の中から、麻布高(東京)・盛岡四高(岩手)・磐田南高(静岡)・筑紫女学園高(福岡)の4校で行われた予選を通過した6作品の中から、各校2名の代表が議論し、決定したもの。 予選を通過した6作品は、【巨鯨の海】・【王になろうとした男】(伊東潤著)、【ジヴェルニーの食卓】(原田マハ著)、【望郷】(湊かなえ著)、【恋歌】(朝井まかて著)、【あとかた】(千早茜著)。 著者である伊東さん自身が「自分の作品は歴史小説ということもあって、五十代以上じゃないと楽しめないと思ってきた。」 「昭和の小説の臭いを濃厚に漂わせた大人向けの作品が高校生に評価されるとは思ってもみなかった」と。 フランスで最も権威のある文学賞「ゴングール賞」を高校生に選ばせたらどうなる?という発想から生まれた「高校生ゴングール賞」 フランスではテレビで生放送されるぐらいの人気だとか。 高校生直木賞はその「高校生ゴングール賞」を参考にして開催された。 そんなことを知ると、この高校生直木賞受賞作を読んでみたくなるというもの~(笑) で、読んでみたら、面白い!! 舞台は江戸中期から明治にかけての和歌山県太地。 捕鯨によって生きている村。 鯨をしとめるために生まれた組織捕鯨。 それは捕鯨で生きる人々の命を守るためである一方、どんなときにも揺るがない掟をも生み出した。 その掟の下、命をかけて鯨と向き合う男たち。 そんな村に寄せる時代の波… 伊東潤さんの他の作品も読んでみたい!!
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久しぶりにしっかり読める小説を読んだ気がします。短編と言えないほどそれぞれの物語が濃く、それぞれ読後感が残ります。ダイナミックな捕鯨の様子、目の前の海面から鯨が飛び出してきそうな迫力、とても読み応えがあります。
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『国を蹴った男』伊東潤氏の作品。 太地町の鯨漁をを中心とした短編集。 旅刃刺の仁吉 恨み鯨 物言わぬ海 比丘尼殺し 訣別の時 弥惣平の鐘 捕鯨禁止運動が盛んになり、当時の事を描いた作品を読むのは非常に興味深い。 かなり危険を伴うものであったとは容易に想像がつくが、和歌山にこん...
『国を蹴った男』伊東潤氏の作品。 太地町の鯨漁をを中心とした短編集。 旅刃刺の仁吉 恨み鯨 物言わぬ海 比丘尼殺し 訣別の時 弥惣平の鐘 捕鯨禁止運動が盛んになり、当時の事を描いた作品を読むのは非常に興味深い。 かなり危険を伴うものであったとは容易に想像がつくが、和歌山にこんなにもいろんな鯨が来ていたのかと言う驚きが大きい。 鎖国時代の更に閉鎖社会の話でもあり、理解が難しいものもたくさんありましたが、近な時代があったのだという勉強になりました。
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先日『王になろうとした男』を読んだが、あちらの合戦シーンよりも、むしろこちらの鯨との格闘シーンの方が迫力があったかも。 命がけの古式捕鯨をとらえて、外部からあーだこーだと言うことはできないなと思う。
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江戸時代命を賭けて挑む男の中の男、組織集団鯨組を描く圧巻の歴史時代短編小説。舞台は紀伊半島突端の地太地。刃差、水主等組織集団の各々の役割と人間模様そして太地の掟が丁寧かつダイナミックに描かれる。そしてなによりも圧巻の鯨との戦闘シーン。知と知の攻防。手に汗握る臨場感。短編とは思えな...
江戸時代命を賭けて挑む男の中の男、組織集団鯨組を描く圧巻の歴史時代短編小説。舞台は紀伊半島突端の地太地。刃差、水主等組織集団の各々の役割と人間模様そして太地の掟が丁寧かつダイナミックに描かれる。そしてなによりも圧巻の鯨との戦闘シーン。知と知の攻防。手に汗握る臨場感。短編とは思えない、中身の濃さとふかーい余韻。
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