おめでとう の商品レビュー
今日から4月ですね。 卒業の季節は過ぎましたが、入学、就職、結婚などされる方もいらっしゃるかと思います。 この詩集は、詩人の小池昌代さんの編んだアンソロジーで帯には「どんな高価な宝石(ジュエリー)よりも、どんな素敵な花束(ブーケ)よりも、あなたを美しく輝かせるのは、一篇の詩(こと...
今日から4月ですね。 卒業の季節は過ぎましたが、入学、就職、結婚などされる方もいらっしゃるかと思います。 この詩集は、詩人の小池昌代さんの編んだアンソロジーで帯には「どんな高価な宝石(ジュエリー)よりも、どんな素敵な花束(ブーケ)よりも、あなたを美しく輝かせるのは、一篇の詩(ことば)です」と書かれています。 今年は、新型コロナの影響で入学式も簡素だったり、結婚式を取りやめた方も多いかと思います。 せっかくの「おめでとう」の日をいつもの年より寂しく感じられていると思います。 この詩集の一番最後の小池昌代さんの「言葉」という詩が今年の「おめでとう」の気分にぴったりではないかと思いました。 私事で恐縮ですが、私、昨日の朝開店前のドラッグストアのマスクの販売の列に遅く行って、並ぼうとしたら、誰かに「姉ちゃん!41個しかねえから、人数数えてから並べよ!」と言われたので、律義に「イチ、ニイ」と数えていたら、駐車場の縁石につまづいて全身で転倒してしまいました。軽い打撲のみで、大した怪我はなかったけれど、マスクも買えませんでした。 その時、この詩がリフレインしていました。 「言葉」-あとがきにかえて 小池昌代 目をふせて 見るものといえば地面ばかりだった冬 裸木の立つ緑道を行き来しては 駅前の小さな店で 限りなく薄いこの世のとんかつを食べた ある夕方 見ず知らずの女に すれ違いざま 声をかけられる おめでとう ーそのひとは 小柄で年老いていて ほつれのある粗末な黒いオーバーを着ていた 聞き間違いなんかじゃないオリゴ糖の仲間なんかじゃない おめでとう 今日 わたしは 台所の排水口にかぶせるゴミ袋をめぐって 決して譲らない人 と激しい口喧嘩をした 今日 わたしは まだ憎み足りない何人もの人のことを考え 許せない自分に 小さくため息をついた 仕事はあるかと思えばいきなりなくなり 春が来る そのたびにわたしたちの感受性は複雑によじれ おめでとう 風のなかの 花粉やPM2.5や放射能に神経を尖らせながら 子供にはマスクを わたしはむきだしの口で 今日も地面を見ながら歩く ー黒い小さなそのひとの 朝晩はきっとラジオ体操で鍛えていそうな ひきしまった二本のふくらはぎ おめでとう もはや振り返っても 裸の林は裸木ばかり もう どこにも人の姿はないが 時折 太陽の陽が きら と差し込んでは 冬を生き抜いた木々の 物言わぬ幹を あたためている それを事件と誰も呼ばない 気づかないくらいのかすかな変容が わたしのなかで 始まっていた 他の詩は圧倒的に結婚をうたった詩が多いのですが、その中で、私は「結婚について」ハリール・ジブラーン、「婚約」辻征夫、「祝婚歌」吉野弘、「春の夜のしなさだめ」永瀬清子、「秋」リルケ、がいいと思いました。 すでにご結婚されて何年も経っていらっしゃる方もしみじみされるかと思います。 全ての詩に解説と、作者の略歴がついています。
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図書館本なので、今は手元にないのが残念。 どこかで入手しようと思います。 ほぼ初めての詩集なのですが、最近になって「詩」や児童書の短い文章に、心が打ち砕かれることがよくあります。 年を取ったということでしょうか。この詩集がきっかけだったのかもしれません。 おすすめしたい。
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自分一人ではなかなかどんな詩を読んだら良いか分からないので、アンソロジーは助かります。おめでとうのシーンなので、力強かったり、感情の絶頂だったり、うれしい雰囲気の共有だったりします。作品ごとの解説や詩人の経歴を読んで、自分の読後感が修正されることもありました。ラジオデイズの小池昌...
自分一人ではなかなかどんな詩を読んだら良いか分からないので、アンソロジーは助かります。おめでとうのシーンなので、力強かったり、感情の絶頂だったり、うれしい雰囲気の共有だったりします。作品ごとの解説や詩人の経歴を読んで、自分の読後感が修正されることもありました。ラジオデイズの小池昌代さんゲストの回をあわせて見ています。
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詩人は静かに身を潜ませ、自分が全身で反応したことをたった一つの、それしか無い言葉で表現し全世界と対峙している人を言うのだ。表題「おめでとう」の通り、結婚や出産や定年退職など、ああ生きていて、巡り会えてよかった、という詩が集められている。一筋縄でいかぬのばかりだけれど、それが何だ...
詩人は静かに身を潜ませ、自分が全身で反応したことをたった一つの、それしか無い言葉で表現し全世界と対峙している人を言うのだ。表題「おめでとう」の通り、結婚や出産や定年退職など、ああ生きていて、巡り会えてよかった、という詩が集められている。一筋縄でいかぬのばかりだけれど、それが何だか安心で、自分も対峙させてもらえるような気分にはなる。言葉は魔法、魔法とは言葉のことか、とやっぱり思う。
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