いちばん長い夜に の商品レビュー
シリーズ3作目。 今回は震災を経験して、二人の関係が微妙に変わっていく。ハコの震災の体験はすごく描写が細やかでリアルだと感じたら、乃南さん自身の体験だと。 震災後の作品で震災を扱った本もいろいろ読んだけど、今回のこの作品が一番よかった。 二人が本当に前を向いて歩いていく姿が想像で...
シリーズ3作目。 今回は震災を経験して、二人の関係が微妙に変わっていく。ハコの震災の体験はすごく描写が細やかでリアルだと感じたら、乃南さん自身の体験だと。 震災後の作品で震災を扱った本もいろいろ読んだけど、今回のこの作品が一番よかった。 二人が本当に前を向いて歩いていく姿が想像できて最後の終わりもとてもよかった。
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ムショ帰りの芭子と綾香シリーズの3。 良いコンビだった二人に今作で少し変化が見られる。 綾香が自分の犯した罪に本当に向き合えたのは、震災を通して人の命の重さを知ったからかもしれない。 これがシリーズラストのようだが、二人が自分の道を前に進み始めて希望が持ててよかった。
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刑務所[あそこ]で知りあった、前科[マエ]持ちの二人・小森谷芭子と江口綾香のシリーズ、『いつか陽のあたる場所で』、『すれ違う背中を』に続く完結編。「ブックマーク」81号で紹介してくれた人がいて、あー、また次のが出てるんやと知った。 この完結編では、3月11日の震災をはさみ──...
刑務所[あそこ]で知りあった、前科[マエ]持ちの二人・小森谷芭子と江口綾香のシリーズ、『いつか陽のあたる場所で』、『すれ違う背中を』に続く完結編。「ブックマーク」81号で紹介してくれた人がいて、あー、また次のが出てるんやと知った。 この完結編では、3月11日の震災をはさみ──作者の乃南アサ自身が取材のため仙台にいたときに大震災に遭遇した経験が、綾香の出身地の仙台を訪ねてそこで震災に遭った芭子の話として書きこまれている(作者の取材が3月11日だったのは、もうほんとうにたまたまその日しかなかったのらしい)。 大学生のときに服役し、刑務所から出てきたときには身内と絶縁されていた芭子は、出所当初は世間の目に怯えながらひきこもって暮らしていた。ひとまわり年上の、結婚や出産の経験もある綾香にたすけられ教えられて、一つひとつ暮らしをたてていく技術や知恵を身につけ、仕事をみつけ、倹約して貯金もし、少しずつ将来のことを考えられるようになってきた。 そこに起こった大震災。芭子は、たまたま行きの新幹線で隣り合わせ、震災後に避難した仙台のホテルで偶然再会した南君と、タクシーを3台乗り継いで東京へ帰ってくることができた。 ▼不幸中の幸いだった。本当に運が良かったと思う。それなのに、どうにも後ろめたくて仕方がない。どうしても、自分だけが逃げてきたような気がするのだ。あの、ライフラインすべてが断ち切られてしまった、何の情報も入らなくなった土地に、大勢の人たちが残っているというのに、彼らを見捨てて自分だけが安全な場所に逃げてきた──そんな気分を拭い去ることが出来なかった。(p.270) 話しても他の人には分かってもらいにくい体験を共有した芭子と南君は接近する。彼を失いたくないという芭子の思いは強くなるが、同時に彼をだましている気持ちになっていく。「私は幸せになれない。なっちゃいけない。なろうと思ってもいけない」(p.285)と、出所した当初は念仏のように繰り返していた言葉が蘇る。言えるはずがない、自分が前科持ちで、ムショ帰りの女だなんて。 それでも、芭子はとうとう自分が前科持ちであることを弁護士の南君に洗いざらい喋ってしまった。自分はホストの彼のためにお金が欲しくて、あげくに昏睡強盗をして、7年服役していたのだと。 そんな芭子の変化を目の当たりにして、綾香もまた自分のこころに向きあう。夫からのひどいDVに遭っていた綾香は、生後まもない子どもに夫が手を上げたとき、子どもを守るために夫を殺してしまった。芭子が仙台へ向かったのは、綾香がそのとき手放してしまった子どもの行方を探したくてのことだった。 震災後、綾香は毎週のように休みの日にはパンを焼いて、自分の故郷でもある被災地へ運び続けていた。結局、勤めていたパン屋も辞めて、被災地の寺院や神社などに寝泊まりしながらほとんど無償で働き続けていた。いてもたってもいられない、と言って。 ほとんど被災地に泊まり込みの綾香は、月に一度か二度、東京へ戻り、芭子の家へ顔を出す。震災から1年経った3月11日に、南君が来ていた芭子の家で、綾香は、自分と芭子とは犯した罪が決定的に違うと言いだす。「人の生命を奪うっていうことは。他の、どんな罪とも」(p.356) 被災地へ行って、人間だから色んなことはしてただろうけれど、「だからって、あんな死に方をしなきゃいけないなんていうことはなかった」(p.357)とつくづく感じたのだと綾香は語った。 ▼「つまり私は──初めて後悔したっていうことです。そういう人たちを見て、死んでも死にきれない気持ちに違いない、赤ん坊からお年寄りまでの、あまりにもたくさんの仏さんを見てるうちに、ああ、何も殺すことはんかったんじゃないかって。私が逃げ出せばよかったんです。警察にでもどこにでも駆け込んで、周りに助けを求めて。生命だけは──奪っちゃいけなかったって」(pp.358-359) 生命を奪うことは本当に取り返しがつかないのだと綾香は言った。その言葉が本当に重い。「…同じ臭い飯を食った仲だけど、私と芭子ちゃんとは全然違う。私も、しでかしたことが、せめて芭子ちゃん程度だったら、人の生命まで奪ったわけでなかったらって、どれほど思ったか知れません」(p.362) 「あとがき」で、乃南アサがこの物語では「取り立てて大きなことの起こらない日常」を書いていきたいと思っていた、と書いている。罪を犯し、それがために多くのものを失い、人生を大きく狂わせてしまった芭子と綾香が、ささやかな日常を積み上げていき、新たに生きていく希望をもてる物語を。 ここまでたどりついた芭子と綾香の姿を見て、もういちど二人の物語を最初から読みたくなった。 (7/25了)
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小森谷芭子と江口綾香はマエ持ちでひっそり暮らしているが、それぞれ犬の衣装作りとパン職人をやって生計を立てている.東日本大震災がうまく取り込まれている短篇集だがどれも面白い.「その扉を開けて」での綾香が風評被害を簡単に口に出す業者へ厳しく対応するところが面白かった.芭子と南君の話も...
小森谷芭子と江口綾香はマエ持ちでひっそり暮らしているが、それぞれ犬の衣装作りとパン職人をやって生計を立てている.東日本大震災がうまく取り込まれている短篇集だがどれも面白い.「その扉を開けて」での綾香が風評被害を簡単に口に出す業者へ厳しく対応するところが面白かった.芭子と南君の話もほのぼのとして楽しめた.本書が完結篇の由だが、再開を期待している.
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『いつか陽のあたる場所で』、『すれ違う背中を』に続くシリーズ3作目。 前科持ちの女性2人の生活。 震災の話の部分は想像しただけでゾーッとした。 慣れない街で遭遇したら、どうしたらいいのか途方にくれてしまうはず。どこに何があるのかわからない。周りは知らない人ばかり……。 でも、なん...
『いつか陽のあたる場所で』、『すれ違う背中を』に続くシリーズ3作目。 前科持ちの女性2人の生活。 震災の話の部分は想像しただけでゾーッとした。 慣れない街で遭遇したら、どうしたらいいのか途方にくれてしまうはず。どこに何があるのかわからない。周りは知らない人ばかり……。 でも、なんとかするしかない。 芭子と綾香も自分の人生をしっかりと歩んでいっているのだから。
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TVドラマを観たので続編を読んでみたのですが、改めてドラマとは設定が違うんだって事に気付きました。何しろ「いつか陽のあたる場所で」を読んだのは6年も前のことで、2作目も読み逃しているし(笑。震災の話につなげる必要性は特に無かったんじゃないかなと思います。
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この本、末尾の作者自身の解説まで、じっくり読んで欲しい。そこまで含めて、作品になっている。こんな本は珍しい。 心を通わせていると思う仲でさえ隠さなくてはならない、深淵な暗い思い。それを正面から覗き込むように読まされた。 その後味の悪さが、潔さと泥臭さとして残った。 自分として...
この本、末尾の作者自身の解説まで、じっくり読んで欲しい。そこまで含めて、作品になっている。こんな本は珍しい。 心を通わせていると思う仲でさえ隠さなくてはならない、深淵な暗い思い。それを正面から覗き込むように読まされた。 その後味の悪さが、潔さと泥臭さとして残った。 自分としては、二人で普通の生活に溶け込んでいって欲しかった。でも、そうならなかったことに、自分が直面している問題に立ち向かうしかないのだ、という思いに繋がったと思う。
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前科持ちの芭子と綾香シリーズ第三弾にして、最終作。 前科持ち、というのを除けば、二人の女性の普通の日常が、美味しそうな食べ物と共に綴られて行く物語だ。 読んでいたら、あまりにものほほんとしていて、そんな事忘れてしまいそうなくらい。 「いつか陽のあたる場所で」から見ていると、芭子が...
前科持ちの芭子と綾香シリーズ第三弾にして、最終作。 前科持ち、というのを除けば、二人の女性の普通の日常が、美味しそうな食べ物と共に綴られて行く物語だ。 読んでいたら、あまりにものほほんとしていて、そんな事忘れてしまいそうなくらい。 「いつか陽のあたる場所で」から見ていると、芭子がどんどん前向きになっていて、仕事でも私生活でもスキルアップしているのがなんとも嬉しい。 でも、綾香さんは…。 罪を犯すということ、人の命を奪ってしまうということ。 それがどんなに重いことか。 もう取り返しはつかない。 どんな贖罪をしても許されることはない途方もない道。 陽のあたる場所、そんな所はあるのだろうか…そう思わずにはいられなかった。 あの時、彼女に逃げるという選択肢が思い浮かばなかったことが本当に悔しい。 そして、これまで地道に静かに過ごしてきた二人の運命ががらりと変わる事件が起こる。 それは、あの3.11。 芭子があの日に仙台から東京へと帰ってくる道のりは、乃南さんの実体験と知ってなるほど〜と思った。 それくらいリアルだった。 これで一旦は終わってしまった彼女たちの物語。 最初は、二人がずっと一緒にいて、芭子が描いていた青写真の夢が叶うといいなぁと、と思っていた。 それが陽のあたる場所なんだと思っていた。 でも、そうではなかった。 別々の道を歩み始めた二人。 少し寂しいけれど、それでよかったと思う。 またいつか、二人に会いたい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
前科がある過去を抱えて下町でひっそりと、でも力強く生きて行こうとする芭子と綾香のシリーズ完結編。 どうも2作目をすっとばして読んでしまった模様。 寄り添って暮らしてきた2人の生き様に行き違いが生まれ、意外な方向でのラストでした。 3.11が大きく2人の将来を変えてしまった。 そして、綾香の深い闇。 震災部分の描写は著者の実体験だったとのことにビックリ。 その体験があったからこそこういうラストだったのかな。 今回はドラマの配役を思い浮かべながら読みました。 泣いたなぁ~・・。このドラマ。
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二つの感想がまず浮かんだ。 一つは、罪を犯すって、何でもない日常を失うことに繋がってるんだってこと。 もう一つは、3.11が、こういう形で影響して、人生を変えるってこともあるのか、ってこと。 著者もあとがきで書いていたけど、このシリーズがこういう形で終わったのは意外だった。心に残...
二つの感想がまず浮かんだ。 一つは、罪を犯すって、何でもない日常を失うことに繋がってるんだってこと。 もう一つは、3.11が、こういう形で影響して、人生を変えるってこともあるのか、ってこと。 著者もあとがきで書いていたけど、このシリーズがこういう形で終わったのは意外だった。心に残る、終わり方。そして、まだまだ人生が続くことを感じさせる。生きていてこそ、というメッセージが強く感じられた。
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