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食べることも愛することも、耕すことから始まる の商品レビュー

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2012/12/11

ハーバードを卒業し、ニューヨークでライターとして活躍していた著者が、取材で知り合った有機農業を生業とするパートナーと恋に落ち、二人で農場を開いた回想録。 タイトルもなんだか狙いっぽいし、ふーん、という感じで何気なく図書館から借りてきた本書。正直、インテリを鼻にかけてこれ見よがし...

ハーバードを卒業し、ニューヨークでライターとして活躍していた著者が、取材で知り合った有機農業を生業とするパートナーと恋に落ち、二人で農場を開いた回想録。 タイトルもなんだか狙いっぽいし、ふーん、という感じで何気なく図書館から借りてきた本書。正直、インテリを鼻にかけてこれ見よがしに、農業やってる自分を美化でもしてるんじゃないの?なんていう意地の悪い先入観たっぷりで読み始めたのだが。 まず、著者の語りの素晴らしさにノックアウト。 描き出される情景は美しく、草木や動物たちの生命の躍動がにおい立つような文章。それを見事に引き出した翻訳も読みやすく、また、かなり「変わっている」パートナー、マークとの、ロマンチックなような、泥臭いような(現に泥まみれだったのだとは思うが)、ハラハラするようなロマンス(とも言えないような)も目が離せず、そして農場で繰り広げられるあれやこれやのハプニングに、時のたつのも忘れてぐいぐい読み進めてしまった。 荒れ放題の古い農場を、たった二人で理想の農場に変えるために奮闘するその姿は、驚きや尊敬を通り越してあきれるほど。 けれど、二人とも恐ろしく真剣に、作物や生き物に、命あるものに向き合っている。 当然、家畜として飼っている牛や豚は、食材として利用されるため、または、生かしておいては家畜としての役割をはたさないとき「つぶされる」。たとえそれが、子牛であっても長く一緒に働いた牛であっても、ためらわず命を奪う。それが農業で暮らしを立てることであるし、人が命の糧を得るためには避けては通れない道なのである。 そのかわり、屠畜という一番目をそらしたくなる過程は、初めから終わりまですべてをしっかりとやり遂げ、食べられる部分は決して無駄にはしない。たとえ豚の血液であっても。そして必要以上に感傷的になることなく、まっすぐに向き合い感謝し、自分の仕事を全うする。 自分の持てる時間と知恵と体力のすべてを注ぎ込んで、農場の作物、生き物たちに全身でぶつかっていく。 農業に平和で静かな時などひと時もないという著者だが、命に直接触れ、自然と折り合いをつけながら、生き物の息遣いを聞きながら暮らすことの素晴らしさに、心底惚れ込んでいるようである。 産みたての卵の温かさ、懸命に働く農耕馬の体から立ち上る湯気、生まれたばかりの子牛が立ち上がるのをじっと見守る母牛のまなざし、黄金色に輝くようなしぼりたての乳、たわわに実りつやつやと光るトマト、ふっくらと膨らんだいんげんの莢、困っているのを見かねて何くれとなく世話を焼いてくれる隣人、友人たち。 なにもかも、綺麗ごとばかりではないけれども、汗水たらして働いて、その苦労が形になって現れた時、そしてそれをおしいただくとき、生命の輝きを目の当たりにするとき、これ以上ない幸福を感じるのだろう。 そんな著者の思いが、農業など全く経験のない私にもひしひしと伝わってくる素晴らしい作品であった。 追記。 パートナーのマークが自家製の材料で作ってくれる料理の数々が、どれもこれもめちゃくちゃおいしそう。なにしろ、有機農法のできたてとれたてを即調理するのだから、おいしくないはずがない。食べてみたい~。

Posted byブクログ