9人の隣人たちの声 の商品レビュー
中国文学を読みたくてそういう検索をして見つけた本だったけど、この本に関しては、そういう括りは誤りだと気づいた。この本はあくまで「隣人」の作品を編集したものである。だからなのか、作品中には中国の時代背景や社会情勢などの解説が、あえて一切省かれている。中国小説という先入観は不要、端か...
中国文学を読みたくてそういう検索をして見つけた本だったけど、この本に関しては、そういう括りは誤りだと気づいた。この本はあくまで「隣人」の作品を編集したものである。だからなのか、作品中には中国の時代背景や社会情勢などの解説が、あえて一切省かれている。中国小説という先入観は不要、端から捨てて読めということだろうか。 1編目の「この数年僕はずっと旅している」と2編目の「幻覚」は、文体やストーリーがまるで洗いたてのシャツのように乾いていて、一文一文が心地よい。 特に「幻覚」は1982年生まれの女性作家、周嘉寧の作品で、冒頭に掲載された作者の写真は、小動物のようなルックスでこちらに微笑みかけている。その作者が「彼は身体の向きを変えて近づいてくると、喉の奥でくぐもった音をたて、ためらいもなく、私の衣服に指を伸ばし、ブラジャーのホックをはずした。」と書いているのを読むとき、私たちが中国という語句から想起しがちな政治からは完全に隔絶される。 その描写は読者に、ベッドに作者自身とも言える女性が裸で横たわり、その背中の素肌に今まさに手を触れる瞬間であるかのような、焼けるような熱さを帯びさせる力を十二分に持っている。小説とは読者の想像力を自由に飛躍させてくれるもの。国家の違いを超越した、こういう読み方も許されていいはず。 しかし私の心に一番残ったのは「尹(イン)親方の泥人形」(葛亮)だ。 中国の市井で生きる朴訥で不器用な親方。そのどこにでもいるような親方が、抑揚をあえて抑えた淡い色彩を重ねるような描き方によって、世間の波や不条理に翻弄され、時には戦い、そして傷つき、喜びはあるものの、その数倍の哀しみに飲みこまれるしかない姿が映し出される。そして読み進めるにつれて、天国への階段(Led Zeppelin)を聞くような、次第に厚みを増した壮大なシンフォニーとして迫ってくる。中国の歴史や社会の特殊性を背景にしているものの、人生の悲哀の普遍的な描写にまで高められた作品は、日本人である私の胸にも染み込んできた。 9編もあれば、退屈であまり面白いと感じなかった作品も正直言ってある。でもそれは、中国文学だから面白くないのではない。中国だから、中国人だから、社会主義国家だから…そういう一辺倒な判断基準は意味がないって改めてわかった。中国の小説でもいいものはいい。逆に日本にもクダラナイ小説は一杯ある。当たり前の話。 (2013/3/26)
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中国の9人の作家による短編集。個人的には「この数年僕はずっと旅している」と「尹親方の泥人形」が面白かった。
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