明治断頭台 の商品レビュー
明治に復活した、役人の不正を糾す役目の弾正台。大巡察としてその任に当たる香月と川路が遭遇する数々の奇妙な事件を解決するのは、金髪碧眼のフランス人巫女・エスメラルダによる降霊術だった。レトロな雰囲気の中で斬新な謎が繰り広げられる連作ミステリです。 時代ものという雰囲気が強く、実在す...
明治に復活した、役人の不正を糾す役目の弾正台。大巡察としてその任に当たる香月と川路が遭遇する数々の奇妙な事件を解決するのは、金髪碧眼のフランス人巫女・エスメラルダによる降霊術だった。レトロな雰囲気の中で斬新な謎が繰り広げられる連作ミステリです。 時代ものという雰囲気が強く、実在するさまざまな人物が登場する歴史小説としても読めるのかと思ったら。謎解きシーンが降霊術って! なかなかにぶっとんだ設定なのですが、それが案外違和感もなく面白いのが凄いです。死者の魂に語らせる解決編はまさしく圧巻。派手なトリックも圧巻。そしてすべての事件を通じての仕掛けにもまた度肝を抜かれます。異色だけれど、ミステリとしてはしっかり本格でした。 やはり「怪談築地ホテル館」のトリックのインパクトが一番かな。恐ろしいような、ちょっと笑ってしまうようなトリックでした。「遠眼鏡足切絵図」は、実在のあの人が登場したあたりで真相の一部には気づくことができたものの、それでもこちらもインパクト大。どれもこれも凄まじいです。
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自分内の山田風太郎ブームでこれに手を出す。 作者本人のお気に入りだったとか。 舞台は明治のごくはじめ、維新から間も無く、まだ社会がしっちゃかめっちゃかだったころ。 薩長土肥が支配する政府の腐敗も進む頃。 それらをなんとかするべく、邏卒(警察)を整えつつある、のちの大警視・川路利良をサブ主人公にして、架空の人物で美形青年・香月経四郎(史実の佐賀藩士・江藤新平の愛弟子である香月経五郎の兄という設定)が、捕物をする連作。 古来の弾正台を復活させ、水干姿で魔を斬る香月と、政府にパイプを持ち真面目実直な川路のコンビ。 フランスから断頭台を持ち帰り、ついでに首切り一家サンソン家の娘、エスメラルダも連れ帰る香月。 エスメラルダがイタコをして、香月とともに解決をみせる不思議な形式。 (最近、泰三子先生のハコヅメではないほうの漫画「ダンどーん」でもイケてる主人公だった川路がここでも活躍。飛ぶが如くの冒頭でみんなの心に焼きついたオモシロ人物。川路好きだ。) 弾正台と断頭台の言葉遊び。 川路と香月、どちらが多く、市井のトラブルを推理解決できるか、とお題が登場し、連作で解決していく。 ここから始まる香月と川路のワクワク捕物勝負! …かと思いきや。 ええええーーー、終幕まで読んで仰天。 これはすごい。確かにすごい。 えっ、本当にこれ、このまま行くの?と何度も思った。 ◯◯たちが1人ずつ退場する様は、まるで90年代のアニメ、セーラームーンの無印の最終盤のセーラー戦士、死す…!の回を彷彿とさせる。 やーーーーばい。これはヤバい。 エスメラルダも気の毒だけど、縫さん可哀想すぎるよ。 駆け抜けて駆け抜けるラストに言葉も無かったです。押忍。 明治になったから、と言って、何が変わるわけでもない。 江戸は江戸だし、山田浅右衛門が小伝馬町で斬首して小塚原に骸を捨てる。 何より人の心はそう簡単には変わらない。 明治の、のちの西南戦争にむけて、いろんな人物の運命の糸がより合う示唆も劇的でいい。 幕末の動乱、その後の混乱もずっと続いていたんだなあと思う。 いろんな人物がちらほらと顔を出す本作、遊び心も満載で面白い。 明治に詳しい人なら、もっともっと楽しめただろうな。高橋お伝、二葉亭四迷、内村鑑三ほかにもたくさん出た中で、準レギュラーぽく活躍した岸田吟香が面白かったです。岸田劉生の父で、さまざまな事業を興した立志伝中の人らしい。 ところで、エスメラルダのセリフ、全面カタカナはやはり読みづらい。 大事な推理ものの披露シーンなのだから、漢字+カタカナがよかったなー。
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明治を舞台に弾正台の役人である香月経四郎と川路利良が虚実混交で繰り広げられる連作短編ミステリ。各章がそれぞれ謎の提示→巫女による解決、と言う構造を取っていますが、ラストに各章其々をミステリとする構造です。 犯人は探偵役の香月の自作自演(エスメラルダを巫女として仕立てた)、と言うオチなのですが、当時は新鮮だったんだろうな、と。 それと、いわゆる"ハウダニット"を固定化させると言う手法も使われています。この人のミステリは矢張りイロイロ盛り込まれていて意欲的。 木田元さんと言う人が書いた解説が良かったです。理想主義(香月、江藤、西郷路線)と現実主義(大久保、川路路線)の対立。新政府は前者を採択し、本書は後者の儚い抵抗であった、と言う物語基軸です。
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『死刑執行人サンソン』を読んで、本書を読み返したくなった。文春文庫版をようやく発掘してひもとく。 星5つでもよいのだが、山風の明治ものは傑作がひしめいているので、『幻燈辻馬車』や『地の果ての獄』に比べて星4つにとどめておく。 サンソン家の末裔の美女が巫女姿で口寄せをする。ライトノベルを先取りしたような趣向に唸ってしまう。 もともと推理作家として出発した山風の、特にミステリ色の濃い連作小説。ノックスの十戒を持ち出すまでもなく超自然的な謎解きは禁じ手なれど、全体を貫くトリックが最後の最後で暴かれる。まさに大団円。
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歴史上の有名人が多く出てきて、尚且つそれが不自然で無いような登場に感心しきり。本当にすごい。 最後、エスメラルダを逃がすために死闘を繰り広げる邏卒たちのかっこよさ!に対して香月経四郎はいくら時間稼ぎの必要もあったとは言え、お縫さんの前で「好きだった」といいながら自らギロチンにかかるなんてひどくない?お縫さんに一生物のトラウマ植え付けてまで自分のことを忘れさせまいとする男の純情とでも言うつもりなのか?
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明治の初期に4年ばかりあった弾正台という組織が舞台。水干姿の主人公香月経四郎と川路利良が謎を追い、巫女姿のフランス人エスメラルダが憑依の口寄せで事件をする連作推理の開花もの。明治政府の暗部を糾弾し、意表をつく壮絶な最終章で、さすが山田風太郎と唸ってしまいます。ただ、他の開化もの傑...
明治の初期に4年ばかりあった弾正台という組織が舞台。水干姿の主人公香月経四郎と川路利良が謎を追い、巫女姿のフランス人エスメラルダが憑依の口寄せで事件をする連作推理の開花もの。明治政府の暗部を糾弾し、意表をつく壮絶な最終章で、さすが山田風太郎と唸ってしまいます。ただ、他の開化もの傑作群と比べると、主要人物の人間描写に浅さがあります。
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本当に素晴らしい。本当の本格とはこれなんだな、と納得させられた。短編連作の形式をとってはいるが、これは長編本格推理小説。どこかのんきな邏卒たちと、エスメラルダの口を借りて明かされるカタカナ謎解き短編のテンポの良さにすっかり騙されてしまった読者としては、最終章の展開に凄みと寒気を感...
本当に素晴らしい。本当の本格とはこれなんだな、と納得させられた。短編連作の形式をとってはいるが、これは長編本格推理小説。どこかのんきな邏卒たちと、エスメラルダの口を借りて明かされるカタカナ謎解き短編のテンポの良さにすっかり騙されてしまった読者としては、最終章の展開に凄みと寒気を感じると同時に度肝を抜かれた。 歴史上に実在した登場人物たちを虚実入り交じりながら登場させるテクニックも一流なら、それまでの世界観を暗転させるテクニックもやはり一流。そしてテーマがこれまた重厚。 前に読んだ「太陽黒点」といいこれといい、今まで山田風太郎を読んでこなかったことを激しく後悔する傑作である。
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文句なく面白く、夜更かし必然。 明治初年、警察組織が手探り状態の東京。 さしづめ警視庁キャリア組エリートたる香月経四郎と、同胞の川路利良が、怪事件を解決するミステリー。 香月の謎解き役となるフランス美女の巫女、へっぽこ五人組の巡査ふぜい、そのほか福沢諭吉や内村鑑三など史実の逸材が続々登場。 最初の事件のトリックはこんなんありかい!と笑ってしまった。やや時代劇風の毎回降霊で解決のパターンに飽きてくるが、読み飽きない一冊。 最終章の結末に唖然。 香月とフランス革命のロベスピエールとが重なった。
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役人の不正を取り締まる弾正台、ギロチン、妖しげな金髪美女、小悪党な邏卒、相棒にしてライバルの川路など魅力的なキャラクター、キーワードを明治初期の混乱に彩った作者自身が認める時代ミステリーの傑作。 文字通り驚天動地のラストに刮目。
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異国の美女エスメラルダを探偵役に据え、香月と川路、愉快な羅卒たちが織りなす明治時代を舞台にした連作ミステリです。 幕末が倒れ、新時代の幕開けかと思いきや、体制は未だ整っておらず、混沌とした世界が鮮やかに書かれています。 そんな時代を背景に起きる事件は、どれも奇天烈なものばかり。そ...
異国の美女エスメラルダを探偵役に据え、香月と川路、愉快な羅卒たちが織りなす明治時代を舞台にした連作ミステリです。 幕末が倒れ、新時代の幕開けかと思いきや、体制は未だ整っておらず、混沌とした世界が鮮やかに書かれています。 そんな時代を背景に起きる事件は、どれも奇天烈なものばかり。それを一種の物憑き状態となった異国人巫女のエスメラルダが解き明かします。 披露されるトリックはどれも単純なものですが、それを支える舞台、伏線が非常に良くできています。中でも「怪談築地ホテル館」は大胆なバカミス風のトリックが味わえます。 そして本書の特筆すべきところは、事件を颯爽と解き明かしていった末に迎える、最終章にあります。 個々の解決したかに思われた事件が、伏線として機能し、1つの物語が浮かび上がってくるのです。 ここで明かされるとある人物の思惑は、山風だからこそ書き得た、この時代だから成立する、凄まじいものになっています。 やはり天才か、山田風太郎!
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