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雪と珊瑚と の商品レビュー

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245件のお客様レビュー

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2021/09/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

シングルマザーの珊瑚、21歳。 親に育児放棄された過去を持つ彼女が、周囲の人に支えられながらカフェをオープンさせる話だ。 梨木香歩の作品はストーリーを追うことを主眼としていない。 私はいつも、行間と自分が対話しながら読んでいるけれど、それもまた正しい読み方なのかはわからないが。 しかし、それにしても、この作品はさすがに。 まず、くららのような人に出会えるのが奇跡。 保育士の資格は持っていないけれど、生きるためのさまざまな知識を持ち、海外経験も豊富で、一軒家に住み、無農薬野菜を栽培している甥を持つ人が、「預かり料は払えるようになったらでいいわ」なんて、夢ですか? 生活のために子どもを預けなければならないのは事実だが、子どもを預けるということには、もうひとつ意味があると私は思っている。 ”雪に、自分以外の信頼できる大人がいる、というのは大切なことのように思えた。” 一つの出会いが次の出会いを生み、一つの行いが次の行動を呼ぶ。 21歳で、シングルマザーで、頼れる親族はなく、貯金もなく、国民健康保険すら未加入で、でも、カフェを開く。 実際にはこんなにトントン拍子に行くはずはない。 ”どんな絶望的な状況からでも、人には潜在的に復興しようと立ち上がる力がある。その試みは、いつか、必ずなされる。でも、それを、現実的な足場から確実なものにしていくのは温かい飲み物や食べ物――スープでもお茶でも、たとえ一杯のさ湯でも。 (中略) でも、こうやって他者から温かい何かを手渡してもらう――それがたとえさ湯であっても――そのことには、生きていく力に結びつく何かがある。それは確かなことだ。” ひとりで立って歩くために支えてもらうことは、恥ずかしいことではないんだよ。 私はそう読みました。 奥付を見ると2012年4月発行。 うん。なるほどね。 施し。憐れみ。無力感。プライド。 そういう心の向きや持ち様と、どう折り合いをつけていくか。 いや、つけることでどう生きていくのか。 くららのようなスーパーおばあちゃんは身近にいなくとも、見渡せばだれの周囲にもきっと、手を差し伸べてくれる人や差し出される手を待っている人がいると思う。 豊かに生きるかどうかは、自分次第だ。 差し伸べられた手を使って立ち上がって、次の人に手を差し伸べることができるなら、それはとても有意義なことなのではないだろうか。 周囲の手や社会のシステムに支えられてここまで来た私は、次の人を支える立場にならねばならぬ。 ああ、子守したい~。(おかずケーキは作れません)

Posted byブクログ

2021/08/31

シングルマザーのプライドと意地が描かれている。ちゃんと施す側と施される側、自分のなかの葛藤が表現されてたから嫌味なく読むことができた。

Posted byブクログ

2021/07/28

梨木香歩の書く文章は美しく、作者自身生きる上で散らばっている細やかな光に気付ける人なんだろうと思うのですが、作品の中に色々な要素が複合していてもう少しシンプルでも良いのかな……という気もする。あっさりした導入に対して内容が散らばってるというのは「からくりからくさ」を読んだ時にも同...

梨木香歩の書く文章は美しく、作者自身生きる上で散らばっている細やかな光に気付ける人なんだろうと思うのですが、作品の中に色々な要素が複合していてもう少しシンプルでも良いのかな……という気もする。あっさりした導入に対して内容が散らばってるというのは「からくりからくさ」を読んだ時にも同じことを思った記憶。手紙のくだりは正直酷いなあと思う、例え的を射た内容でも相手が反論できない状況で悪意をぶつけるのは卑怯ですよ。そんな人間から学ぶことなど無いし自分を顧みる必要なんてない、と思ってしまう……。

Posted byブクログ

2021/07/14

「赤ちゃん、お預かりします。」 自分の子供を人に預けるというのは、どれほど不安なことか、子供がまだいない私でもある程度の想像はできる。でも珊瑚は預けなくてはならない。働くために、そして雪と二人で生きていくために。 美知恵さんからの手紙は、読んでいるだけでもすごく傷ついた。人から...

「赤ちゃん、お預かりします。」 自分の子供を人に預けるというのは、どれほど不安なことか、子供がまだいない私でもある程度の想像はできる。でも珊瑚は預けなくてはならない。働くために、そして雪と二人で生きていくために。 美知恵さんからの手紙は、読んでいるだけでもすごく傷ついた。人からの憎悪というものは、なんというか、醜くそして鋭い。 でも、くららさんの存在と、優しくてあったかくて真っ直ぐな言葉が、珊瑚をそして私を救ってくれる、強くしてくれる。 物語が進んでいくごとに珊瑚もそしてもちろん雪もどんどん成長していく。最後のページの雪が可愛くて幸せな気持ちになった。

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2021/05/16

こんなにも穏やかでだけど丁寧な細やかな描写を描ける人っているんだって驚いた。誰も傷つけない誰も傷つかないお話だった。

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2020/12/04

「珊瑚は今年、二十一歳になった。二十歳の時に結婚して、一年そこそこで離婚した。赤ん坊の雪は、ようやくお座りができるようになったばかりだ。」読者の皆様はこの文を読んでどう感じるのだろうか? これはタイトル見開きの文章書き出しのページに書かれているこの物語、主人公・珊瑚の状況説明であ...

「珊瑚は今年、二十一歳になった。二十歳の時に結婚して、一年そこそこで離婚した。赤ん坊の雪は、ようやくお座りができるようになったばかりだ。」読者の皆様はこの文を読んでどう感じるのだろうか? これはタイトル見開きの文章書き出しのページに書かれているこの物語、主人公・珊瑚の状況説明である。 この始まりで、大変そうな生活を、想像するも、こんなうまく道が開ていくものだろうかと、小説ならではだなぁと思う。 20歳で結婚し、わずか1年で離婚した山野珊瑚は、21歳のシングルマザー。生まれたばかりの娘・雪を預ける場所も、働く環境もなく、途方に暮れていたところ「赤ちゃん、お預かりします。」の小さな貼り紙を見つける。その貼り紙により出会った女性・藪内くららから「食」の大切さと、「前進」する勇気を教えられる。 本作は、起業成功レポートであり、シングルマザー子育て奮闘記であり、料理レシピ録でもある。そして対人ストレス解消録でもある。 貯金も底が見えはじめ、子供を育てるために働かなくてはならない。しかし、公立の保育園も個人経営の託児所にも空きがなく、途方に暮れていた時に見つけた貼り紙「赤ちゃん、お預かりします。」 母子家庭で男親からの援助もない状態で、子供を育てていく精神的、肉体的苦労。子供の夜泣きに苦しみながらも我が子を育てる使命感が、自分が経験した苦い、辛い母との関係を断ち切るためのように思えてならなかった。あるいは、私は母とは違うと否定を、証明するためのようにも感じてしまう一方、そうではないと願いたい気持ちがある。 そうではないと願いたい気持ちは珊瑚を支える女神のようなくららの存在。彼女の存在が珊瑚にとって母のような存在に映り、珊瑚が経験した子供時代の過酷な生活の連鎖を断ち切っているように感じる。 珊瑚にとって、くららは、母であり、アドバイザー的な存在であったのではないだろうか。自分の母とは、全く異なる人種のくららに母を重ねることはないだろうが、くららを通して知り得た人として生きる力、人間関係構築が珊瑚の人生に大きく影響している。 珊瑚がカフェ経営の夢に奔走するが、その中でも、周りのサポートに支えられて、変わっていく珊瑚の心の成長と、雪の身体的な成長が重なる。 「私はあなたが嫌いです。最初から嫌いでした。」といった手紙をよこした元バイト仲間の美知恵の手紙。くららや由岐のようにいい人ばかりではなく、人の気分を害する類の人って、やっぱりどこにでもいるのだなぁと、思った。小説の中に登場するくらいなので、もしかしたら実生活では、意外ともっと多いかもしれない。この美知恵の手紙が結果的には、珊瑚の心の整理にも繋がることになるのだが、それが強い人間と弱い人間の差のように思えた。 読みやすく、また、食が体や心を育むのが感じられ生きていく勇気を与えてくれる心地の良い作品であった。

Posted byブクログ

2020/11/23

珊瑚の人生は世間一般でいう順調で穏やかな日々では無いかも知れない。 けれども幸せで無い訳ではないのだ。 この物語は主人公、珊瑚の考え方や気持ちが劇的に変化することは無いのだけれど雪と店の成長と共に確実に日々の明度は上がっていく。 頑固にこうでなければと拘ることを手放す寛容さが珊瑚...

珊瑚の人生は世間一般でいう順調で穏やかな日々では無いかも知れない。 けれども幸せで無い訳ではないのだ。 この物語は主人公、珊瑚の考え方や気持ちが劇的に変化することは無いのだけれど雪と店の成長と共に確実に日々の明度は上がっていく。 頑固にこうでなければと拘ることを手放す寛容さが珊瑚のように幸せを引き寄せる秘訣となるのだろうか。

Posted byブクログ

2020/11/19

物語としては、出来すぎているような、夢物語のようだけど、珊瑚もくららも周りの人々も、一人一人のキャラクターが鮮やかでとても生き生きしていて、物語の中に引き込まれる。とても楽しい読書。

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2020/11/10

シングルマザーの珊瑚が娘・雪を抱えて、周りの人間に助けられながら惣菜カフェを開店し、日々の生活を営む。 淡々とした文章の中、くららさんの透明で柔らかい空気が物語に温かさを与えている。あぁ、こういう言い方もあるのかと、彼女の感性が素敵だと思った。 梨木さんの描くおばあさんは、いずれ...

シングルマザーの珊瑚が娘・雪を抱えて、周りの人間に助けられながら惣菜カフェを開店し、日々の生活を営む。 淡々とした文章の中、くららさんの透明で柔らかい空気が物語に温かさを与えている。あぁ、こういう言い方もあるのかと、彼女の感性が素敵だと思った。 梨木さんの描くおばあさんは、いずれもそういう空気で「西の魔女が死んだ」のお祖母さんを思い出す。 涙する描写はあるが、自分や雪の事でさえも、あまり心を動かしている様には見えない珊瑚。 でもネグレクトを受け、一人で生き抜く必要があると、少しの事では心が揺らがなくなるのだろうか。 それが何に対しても無感動に見えて、物語の主人公なのに浮いているように見えた。 雪の夜泣きが酷く疲れ果て、口を抑え部屋に置き去りにしてしまった珊瑚。虐待だと感じた、けれど疲れ果てて自分を責める気力がない。泣きながら初めて自分の名前を読んだ雪をいじらしくも憎らしいと思ってしまった、母親ならば誰でも経験する苦々しい感覚。 ようやく人間らしく、母親らしく戦っている姿に見えた。そして、自分に重ね合わせて読んでしまった。 今日大きな声で怒鳴ってしまった息子へ謝っても足りないから、いっぱい抱き締めたくなった。

Posted byブクログ

2020/03/08

暗い話しかなと思ったがそんなことはなく、周りの人に支えられながら生きるため、自分も人も心地よい居場所をつくるために奮闘する話しだった。

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