1,800円以上の注文で送料無料

小津安二郎名作映画集10+10(07) の商品レビュー

4

1件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    1

  3. 3つ

    0

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2012/08/09

「晩春」(1949)、「秋日和」(1960)に続く本作「秋刀魚の味」(1962)は、いわば父子/母子の片親世帯からの「嫁出し」物語。  結婚適齢期が来た娘は、親といっしょに暮らし続けたいと思っており、縁談にも乗り気でない。そこで「晩春」「秋日和」では、親が再婚するということにして...

「晩春」(1949)、「秋日和」(1960)に続く本作「秋刀魚の味」(1962)は、いわば父子/母子の片親世帯からの「嫁出し」物語。  結婚適齢期が来た娘は、親といっしょに暮らし続けたいと思っており、縁談にも乗り気でない。そこで「晩春」「秋日和」では、親が再婚するということにして(結局しない)、何とかして娘を嫁に出す。  三編をたてつづけに見たが、このテーマをストレートに描いた傑作はやはりモノクロの「晩春」だと思った。笑顔が画面によく映える原節子が、ここでは意外に表情豊かに演じているし、父と娘それぞれの切なさがよくにじみ出ていて、感動的な作品になっていた。  一方「秋日和」はむしろコミカルな作品で、大筋は「晩春」に似ていても、いたずら者の壮年3人が暗躍し、実に溌剌とした新女優・岡田茉莉子が輝いている。  では本作「秋刀魚の味」はどうかというと、実は前作2つにあまり似ていない。小津安二郎の遺作となった本作は、どこかつきぬけた「寂しさ」があって救われない。  今回は娘が父に対し(少なくとも表面的には)あまり優しくないし、結婚しないと言っていた彼女が失恋を経た後の、お見合いから結婚を決意するプロセスが完全に黙殺されてしまっている。  したがって本作の本題は、「娘の嫁入り」(だけ)ではないようだ。  軍歌とかゴルフクラブとか、完全に枝葉末節と言えるエピソードが充実しており、笠智衆演ずる父親の身辺をめぐる、一種の私小説のような体裁になっている。そして、一貫して家族の離散・変遷を追ってきた小津映画は、ここではもはや家族は解体するほかなく、初老の男はひたすら孤独を深めるほかはないといった地点にまで到達してしまった。  小津映画は最近よく見ているが、映像や間の取り方などの芸術性のほかにも、日本の戦前から戦後にかけての世相の変化が丁寧に描かれていて民俗的に興味深いのと、台詞とか実はかなり非現実的なペースであるにもかかわらず、硬直した家屋内の風景と相まってなにやらリアルな人間像が迫ってくる不思議さが、魅力である。  この「嫁出し」三部作では、各作品の主人公の娘が、世相を反映し、一気に「現代の女性」に近づいてくるようでめざましかった。本作の娘(岩下志麻)はツンツンしているし、どうも父親/家族にはさほどの執着はなかったようなのだ。 「秋日和」で溌剌と輝いていた小娘・岡田茉莉子は、本作では主人公一家の長男の配偶者になっている。相変わらず溌剌とした若さではあるが、ゴルフクラブ=高価な趣味をめぐって夫を責める彼女の姿は、かなり口うるさくてイヤミであり、まるで私の妻のようではないか。しかし私の妻には、もちろん岡田茉莉子のような可愛さは全くなくて、単に口が悪くて自己中心的な、頭の悪いふてぶてしい女なのだが・・・。

Posted byブクログ