大学教育について の商品レビュー
ミルがイギリスのセント・アンドルーズ大学の名誉学長就任する際の講演録である。なんと草稿に1年の準備期間を取ったという。彼は大学を出ているわけではないが、哲学者・経済学者という立場で、新聞や雑誌で公共知識人として意見を述べていて、多くの知識人に影響を与えた。 講演から150年が経...
ミルがイギリスのセント・アンドルーズ大学の名誉学長就任する際の講演録である。なんと草稿に1年の準備期間を取ったという。彼は大学を出ているわけではないが、哲学者・経済学者という立場で、新聞や雑誌で公共知識人として意見を述べていて、多くの知識人に影響を与えた。 講演から150年が経過した今でも大学における一般教養教育の重要さは変わらない。専門性を生かすにしても、その人が持っている知性と良心によって効果が決定されるというような指摘は、近年の答申で何度も目にしているだろう。また、一般教養教育は、個別に学んできたことを包括的に見る見方と関係づける仕方を教えることであり、体系化と哲学的研究を踏まえて、諸事実の発見と検証することがその極致である、ということも同様だろう。 ただ疑問も残った。教養の要素は、「知識と知的能力」と「良心と道徳的能力」が主なものだが、少し劣るが「美・芸術」もあるとしている。イギリス人が伝統的に美に関心がなかったからだそうだ。これは意外だった。美の解釈こそ教養の代名詞かと思っていたからだ。ミルは、英国人の商業主義からの美を無駄なものと解し、清教主義で神を敬う心以外は罪悪に陥る一種の罠と考えていたからといっている。ドイツ・フランス・イタリアと全く異なっているところがおもしろい。 さらに、大学段階では、道徳教育・宗教教育は、身の回りや家庭でなされるものとして、管轄外としている。キリスト教社会全体の中における大学だからこそこのようにいうことができるのだろう。 解説で訳者が大学改革のキーワードが商業主義によるものばかりで、それを自浄作用できるのは、教養教育といっている。市場化・競争原理が促進される中でも、常に教養教育を考えていきたい。 2012.5.13追記 高等教育論5/12補助教材として、「科学教育」の項までの抜き刷りを講読。
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今から一世紀半も前に行われた公共知識人J.S.ミルの学長就任講演。 教養人であったミルが、大学教育の果たすべき役目とその意義について、偏見なく理性的に解説してくれる。 当時の大学教育・教養教育に対する意識を垣間見ることができるという点においてまず非常に貴重で優れた講演であるとと...
今から一世紀半も前に行われた公共知識人J.S.ミルの学長就任講演。 教養人であったミルが、大学教育の果たすべき役目とその意義について、偏見なく理性的に解説してくれる。 当時の大学教育・教養教育に対する意識を垣間見ることができるという点においてまず非常に貴重で優れた講演であるとともに、現代の大学教育でも通用する示唆に富む提案を多数述べている。 ただ講演ということで仕方ないことではあるが、具体的な方法については詳しくないが、これから学問を始めようと志す学生はもとよりすべての文明人にとっての、人間の精神活動における俯瞰図を与える概説として有益なものであると感じた。 難解な修辞はなく文体も平易で論理的破綻もなく、教訓めいたことをつらつら述べる文章とは全く正反対の文章であり非常に読みやすかった。
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