末裔 の商品レビュー
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富井省三。二年前に妻靖子に先立たれ現在ひとりぐらし。息子朔矢は結婚して家を出て行き、娘は行方知らず状態。ある日、一人住まいの家の鍵穴が憤然と消失してしまった。物語はここから始まる。かつて妻から多大なる恩義を受けたという見知らぬ男から紹介されたホテルでしばし過ごした後、鎌倉の伯父伯...
富井省三。二年前に妻靖子に先立たれ現在ひとりぐらし。息子朔矢は結婚して家を出て行き、娘は行方知らず状態。ある日、一人住まいの家の鍵穴が憤然と消失してしまった。物語はここから始まる。かつて妻から多大なる恩義を受けたという見知らぬ男から紹介されたホテルでしばし過ごした後、鎌倉の伯父伯母の家を尋ねることにした省三。そこで久しぶりにであったインコや、思い出した数々のできごとをきかっけに「富井家」の人々に思いをめぐらせ故郷の佐久へ行こうと考える。富井家の末裔である省三が家へあがることを拒絶されてから両親祖父祖母兄弟子供たちに思いをめぐらす日々が描かれる。作者の気分がもうひとつつかめなかったよ。
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久し振りの小説で,どうやって辻褄を合わせるのだろうとわくわくして読み始めた~省三は出世の見込みのない区役所職員だ。国語辞書の編纂者であった父が釣りの事故で死に,妻子と共に母と同居し始めたが,母は認知症が進んで施設に入り,妻は急な病でなくなって,息子は結婚と同時に家を出て,父親との息が詰まる生活に娘が別居し,一人だけの暮らしだ。ある日仕事を終えて家に帰ると鍵穴がなくなっていて家には入れず,息子は相談相手にならなかったので,新宿で呑み,終電を逃すと,声を掛けてくる男がいる。デリバリー専門の占い師だという乙は,ホテルを紹介し,未来も過去も見えると云う。かつて小学校の時に名古屋に一人で出掛けようとして,財布をなくした時に妻に助けて貰ったという。ホテルにいても危ないというので,鎌倉の伯父の家に来るとインコがまだ生きていた。しかも犬らしき姿を持つものが水をくれて喋り出す。家に入ることができずホテルも消えてしまい,鎌倉から世田谷に通い続ける内に父の東大時代を知る人とも知り合い,父と伯父のインテリ風の会話を思い出す。ある夜帰宅すると家に灯りが点いていて娘を発見し久し振りに話をすると,母が好きではなかったのだと意外なことが語られ,伯父の妻はあの花をどうにかしないといけないと忠告を受ける。30代後半の女性同僚からはアメリカに行ったきりで音信不通の8歳年下の弟と結婚することになったと告げられる。富井のルーツを探るために息子から車を借りて出掛けた佐久の社で乙の文字を見つけ出し何となく納得する。弟と電話で話をするとアメリカで日本文化を研究しているようで,近々帰国するから家で姉を加えて三人で会う約束が成り立つ。いよいよ家を片づけなければならない。隣家の庭でうるさい犬を蹴りつけて自宅の庭に入り,パンツの花をむしり取り,掃き出し窓を割ってゴミ屋敷化した家に入るのだ~58歳の冴えない男を主人公にして身の回りに起きる不思議な出来事を綴っていく手法だが,祖父や伯父・父のようなインテリではなさそうなのに,ちょっとインテリの片鱗も見える。乙という人物の素性は富井家に時々関係してくる人なのか。犬が喋り出すのは自分が犬にとっての七福神の一人だから。鍵穴が消えた謎は明かされず,力業で空ける必要が生じた。不思議は不思議で良いじゃない・という開き直りが嫌だ。作者の私生活が透けて見えないのが良いなあ,小説を書いた方が良いよと感じていたが,信州へのドライブで彼女の車の趣味が見えちゃったので残念。一年掛けて雑誌に連載したが,開始早々に広げてしまった大風呂敷の隅を数カ所畳んだけど,きちんと片づけることは出来なかった。パンツのような花の咲く木は,花を毟る必要はない
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ふと思い直して、自分はこれから心機一転のびのびやれる!という全能感にも似た爽快な気分になる時がある。この小説は、丁寧にその過程を描きながら見事に小説として表現してくれているように感じる。 最後のページの文書が素晴らしい。 “俺はみっともないが、気分がいいんだ。めちゃくちゃなんだ俺は。” という風に、非常に好ましく感じた作品ではあったのに、読み進めるのはいまいち苦労した。吸引力がないというか、漠然とした退屈感のようなものを感じてページを捲る手が進まないのだ。これはなぜなんだろう。 でも、良い作品でした。
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絲山秋子さんのファンタジー風な作風にびっくり。前半は「1Q84」を彷彿とさせる設定が続き、後半昭和の良きインテリ家族の挿話と家族小説としてのハッピーエンドと続く。
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文学の香りただよう秀作です。主人公、富井省三は区役所勤めの58歳。家に帰れなくなった生活となり、自分を省みることになった述懐がこの作品の幹を成している。も〜等身大の富井省三がリアルに意識でき、立ち現れてくるようで見事です。おやじとしての自覚は十分。自分のしょうがなさに悲哀も感じ、...
文学の香りただよう秀作です。主人公、富井省三は区役所勤めの58歳。家に帰れなくなった生活となり、自分を省みることになった述懐がこの作品の幹を成している。も〜等身大の富井省三がリアルに意識でき、立ち現れてくるようで見事です。おやじとしての自覚は十分。自分のしょうがなさに悲哀も感じ、自分を大きく見せようともしていない。実は私は世の中のオヤジ人種が大嫌いなのである。そんなうんざりするオヤジ批判をずばっと富井本人が語っているのがスカーッとして最高であった。けれど読んでいくうち、富井に情が移っていく。亡くなった奥さんへ向けて何度か書く手紙がすごく良い。そして書名「末裔」へと繋がっていく心の動きが清々しい。先祖へ遡るにつれ、心を解放していく様は爽快な気持ちになった。知識人たちの末裔は本当の教養が失われたのではないか?鎌倉での伯父の思い出を振り返る時、生きる糧や喜びや人生の楽しい良いところを自分も教えられたように思う。少しでも発見をたくさんして人生を終えたい。
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奇想天外で、ある意味ファンタジック。 家に入れなくなったことをきっかけに、主人公が自分のルーツを辿り、その過程で家族や同僚を再発見し、自分を再発見する物語。 逃亡くそたわけみたいなロードムービーではないけど、紀行文と言っていいかもしれない。 展開が読めないので、飽きずに一気に読め...
奇想天外で、ある意味ファンタジック。 家に入れなくなったことをきっかけに、主人公が自分のルーツを辿り、その過程で家族や同僚を再発見し、自分を再発見する物語。 逃亡くそたわけみたいなロードムービーではないけど、紀行文と言っていいかもしれない。 展開が読めないので、飽きずに一気に読めます。
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いとやまさんいつもそうだけど、 最後にむけてのすっきり感半端ない。 ちょっとファンタジーが混ざってて「海の仙人」のようなテイストもあり、 末裔というタイトルが引きずり出したパワーも感じた作品でした。 自分を中心に限りなく広がる祖先と未来の子供たちのイメージが鮮明にあたまに浮かん...
いとやまさんいつもそうだけど、 最後にむけてのすっきり感半端ない。 ちょっとファンタジーが混ざってて「海の仙人」のようなテイストもあり、 末裔というタイトルが引きずり出したパワーも感じた作品でした。 自分を中心に限りなく広がる祖先と未来の子供たちのイメージが鮮明にあたまに浮かんで、 気持ちよかった。 叔父さんの家にひとりひとり集まってくる様子も良かったし、 娘とのやりとりも良かった! 著者のなかで最も長い小説かもね。
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家に帰ったら鍵穴が消えていた!? 一戸建てなんだから、あたしなら家の裏のガラス窓を壊してでも中に入ろうとするだろうけれど、富井省三はそれをしない。どうやら「ゴミ屋敷」というやつらしいのだ。 息子に電話して会ってみると「ホテルに泊まれば」と素っ気ない。素直にホテルに行くでもなくプラ...
家に帰ったら鍵穴が消えていた!? 一戸建てなんだから、あたしなら家の裏のガラス窓を壊してでも中に入ろうとするだろうけれど、富井省三はそれをしない。どうやら「ゴミ屋敷」というやつらしいのだ。 息子に電話して会ってみると「ホテルに泊まれば」と素っ気ない。素直にホテルに行くでもなくプラプラそていると不思議な男と出会う。家にゴミをためているのだから、心にも思いをたくさん溜め込んでいたのだろう。それが少しずつ動き始めるところが面白いのかな。
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相変わらず心惹かれる作品を書く著者だ。 鍵穴がないようなことが起こりそうな気がしてくる。 身近にモデルになった人がいそうな作品。 タイトルに思いがこもっている。
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