吉原はこんな所でございました の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
吉原で育ち、のちに元引手茶屋の料亭の女将となった著者による、吉原の辿ってきた道を振り返る一冊だった。 大正12年、引手茶屋の女将の養女になったことで三歳から吉原に移り住んだようだ。終始話し口調で、やわらかい印象なので読みやすい。吉原遊郭に関わって働いているさまざまな人々と、江戸時代から続いてきた文化に愛情を持っているようだった。 興味深かったのは吉原の商売の仕組み。貸座敷と引手茶屋の水揚帳の管理なども意外だったし、警察に届けをだして花魁になる手続きがあることなども知らなかった。 一度遊郭に入ったら女は二度と出られないようなイメージがあったけれど、年季が終わって出ていき、馴染みの客と結婚する元花魁もその当時は多くいたようだ。お客は座敷や花魁を取っ替え引っ替えすることはタブーだったようだし、決めた人のもとに通い詰めて最終的に結婚することもあるというのは、疑似恋愛が本当の恋愛になった例なのだろう。 吉原は外の世界とは違う独自の振る舞い方があるという印象。 昭和61年までの記録なので、戦争中や戦後にどんなことがあったかについても書かれていて、思わず涙が出そうになった。慰安所関連の話や、生活が困窮して娼婦になったり街角に立たざるを得なかった女性たち。生き残っただけで奇跡のようだが、食べなければ生きていけないのだ。この収入で家族を養っていた女性もいたようだ。 「新日本女性に告ぐ」の話は、女という存在が男社会にとってどんなものかまざまざと見せつけられたようで、気持ちの持って行き場がなくなってしまった。戦争はすべてのものを奪ってしまう。 全体を通して商売の暗い部分は読者にあまり見せないようにしているのかなと思った。 遊郭というのは花魁だけではなくて関係する職業の人たち全員でつくりあげる夢の舞台で、それをお客さんたちに売っている場所なのだと感じる。 戦後は遊郭も赤線になり西洋化して、そういった情緒のようなものが消え去ったようだった。働く女性の自由意志が通るとはいえ主に困窮した女性たちがいることには変わりなく、不特定多数を相手に仕事内容はむしろ大変になっているかもしれないことがまた悲しい。 実際に暮らしていた人の話が読めるのは大変貴重だと感じた。
Posted by
吉原の引手茶屋『松葉屋』の女将の回想記。太平洋戦争の前から、売春防止法施行後までが描かれている。近代吉原についての本は珍しいので、面白く読めた。
Posted by
著者は吉原の引手茶屋「松葉屋」の養女となり、のちに女将になった。その視点から描く吉原。 芸者や幇間、そのほか江戸から続く文化を継承する土地の重要性を感じた。ただ、それを吉原以外に作れなかったものか、今からでも何かできないかと考えた。 東京大空襲時やその後、戦後の吉原についても知ら...
著者は吉原の引手茶屋「松葉屋」の養女となり、のちに女将になった。その視点から描く吉原。 芸者や幇間、そのほか江戸から続く文化を継承する土地の重要性を感じた。ただ、それを吉原以外に作れなかったものか、今からでも何かできないかと考えた。 東京大空襲時やその後、戦後の吉原についても知らないことが多かった。
Posted by
ちょびちょび、だらだらと、読み続け読了。 大正9年に生まれ、平成17年に85歳で亡くなった福田利子さんという、吉原の料亭「松葉屋」の女将をしていた方が、ご自身の経験や周りの色々な方の昔語りを元に、江戸時代~売春防止法までの吉原の姿をまとめて綴った本。話口調で読みやすい。 松葉屋...
ちょびちょび、だらだらと、読み続け読了。 大正9年に生まれ、平成17年に85歳で亡くなった福田利子さんという、吉原の料亭「松葉屋」の女将をしていた方が、ご自身の経験や周りの色々な方の昔語りを元に、江戸時代~売春防止法までの吉原の姿をまとめて綴った本。話口調で読みやすい。 松葉屋というのは吉原システムでいうと「引手茶屋」、つまり殿方が花魁のいる貸座敷に行く前に、芸者や幇間を呼んで遊ぶ、お茶屋さんをしていた店で、この本の著者はそこのオーナーの娘として育ち、戦後に女将を継いだ方。子どもの頃から吉原ではたらく人々の暮らしを見てきた。 ・江戸時代から続いた吉原の仕組みの解説 ・親兄弟のために懸命にはたらく花魁たちの健気さ、遣り手婆や妓夫太郎の優しさ ・幇間、芸者の芸やもてなしの見事さ ・いらっしゃるお客様の粋な遊び方 など、好意的に語られる。歌舞伎や落語を味わうにはこういう雰囲気の理解は欠かせない、だろう。 そして ・公娼制度廃止 ・売春防止法成立 などを経て様変わりする吉原。 戦後民主主義の世の中で、吉原も花魁も「売春」という大枠に括られて「悪」にされたけれど、そう簡単に善悪で断じきれる問題ではないのだなあ…。 阿木翁助さんの解説より抜粋↓ 「徳川時代に吉原が公認された理由、それから現代になって、戦時中、軍の慰安婦としての吉原女性の徴発、敗戦後アメリカ兵のための進駐軍慰安所の設立。それらの記述のどれをとっても、のがれ得ない人類の大きな問題を感ぜずにはいられない。」 そうこの、進駐軍慰安所のための女性募集なんかは衝撃的で、このときは国が募集したわけなのに、同じ口が今度は売春だから吉原もだめって言うのだから、時勢とか善悪とか正義とか道徳とか常識とか政府の言うこととか…というのは、移ろいゆくものだなあ。 外から善だの悪だの言うのは簡単だけど、実際にその中で懸命に生きていた女性たちがいた。そのことを、悪にされたり、なかったことにされたくない、そういう著者のお母ちゃん的な気持ちがこの本を生んだのかなと思いました。
Posted by
すんごい面白かった! 一気に読んでしまった。 戦前は引手茶屋、その後は料亭として吉原で営業していた『松葉屋』を切り盛りしていた女将さんの昔話と、歴史解説と、考察。 子供の頃から吉原で育った女将さんならではの話だ。 個人名も出し、とても詳しく丁寧な語り口で、読みやすい。吉原内の地...
すんごい面白かった! 一気に読んでしまった。 戦前は引手茶屋、その後は料亭として吉原で営業していた『松葉屋』を切り盛りしていた女将さんの昔話と、歴史解説と、考察。 子供の頃から吉原で育った女将さんならではの話だ。 個人名も出し、とても詳しく丁寧な語り口で、読みやすい。吉原内の地図や、幇間などの写真が少し載っているのも嬉しい。 吉原最後の日の描写がとても沁みた。 先日読んだ吉原花魁日記とはまたちがい、店を経営する側として吉原に生活した者の視点で語られる。 「吉原って、いいものよ。」という感じのスタンスだ。 ここには、私が思い描いて求める吉原があった。 気骨があり、風情があり、情緒があり、色気があり、粋があり、華がある。 この人が生きている間に、松葉屋を訪ねてみたかった。吉原が元気だった頃を知っている人はもういないのだろうなぁ…。 松葉屋の跡は今、マンションになっている。 何でもかんでもマンションにすりゃあいいってもんじゃないのに。 吉原散歩に行かなきゃなぁ。 地図作りたい。
Posted by
言葉が柔らかくて読み易い。 実際に吉原で仕事場を構えていた人が買いてるだけにリアル。 昭和の時代まで吉原が続いていたとは知らなかった。 吉原といえば酷い場所なのだと思っていたけど、制度等しっかりされていて、人攫いで吉原に連れてこられた…なんて事もないのかな?と思った。 ただ昭和...
言葉が柔らかくて読み易い。 実際に吉原で仕事場を構えていた人が買いてるだけにリアル。 昭和の時代まで吉原が続いていたとは知らなかった。 吉原といえば酷い場所なのだと思っていたけど、制度等しっかりされていて、人攫いで吉原に連れてこられた…なんて事もないのかな?と思った。 ただ昭和初期の話だろうし、それ以前も同じように契約書が存在していたのかは分からない。 戦争で時代が移ろいでいく様や、それにより変わっていく姓に対する状況等、辛い事が多くて悲しくなる。
Posted by
森光子『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』『春駒日記』を読んだ後に、併せてこちらも読了。明治、大正、昭和の初めは、貧しい農家の娘たちが親に身売りされ、ほんとうに大変な境遇に置かれていたのだということがわかる。戦争中には、そういう女性たちが大勢従軍慰安婦として大陸に渡っていったことも記...
森光子『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』『春駒日記』を読んだ後に、併せてこちらも読了。明治、大正、昭和の初めは、貧しい農家の娘たちが親に身売りされ、ほんとうに大変な境遇に置かれていたのだということがわかる。戦争中には、そういう女性たちが大勢従軍慰安婦として大陸に渡っていったことも記されている。男尊女卑の深い深い深淵を覗く気分だった。
Posted by
先日読んだ「「ふるあめりかに袖はぬらさじ」なんて、 この本を読んでから読めば良かった!と思える一冊でした。 たとえば「幇間(ほうかん)」とか「遣手(やりて)」とか、小説で出てきて わからずに、辞書とかネットで調べても、イマイチなんのことだか わからなかったんです。 そのあたりが...
先日読んだ「「ふるあめりかに袖はぬらさじ」なんて、 この本を読んでから読めば良かった!と思える一冊でした。 たとえば「幇間(ほうかん)」とか「遣手(やりて)」とか、小説で出てきて わからずに、辞書とかネットで調べても、イマイチなんのことだか わからなかったんです。 そのあたりがこの本ではどういう役割を果たして、 どのような気性だったのか、ということまでが、 説明と文章から読み取ることができました。 また妓夫太郎の説明を読んで、 「とろサーモン久保田は現代の妓夫太郎か」 なんてことを思ったり。 徳川時代から300年、国の制度下に置かれたこの場所は、 確かに今の性産業とは異彩を放っています。 売春防止法施行後の、現代的な街に吉原が変わる中、 300年の伝統を守っていく松葉屋。 この本が書かれたのが1986年。 30年近く経った今、ここで描かれた粋な姐さんたちが どうなさっているのか、気になるところであります。 これを読んだあと、「驟雨」とか「赤線跡を歩く」を読み返すと、面白さが増すんだろうと思います。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
吉原遊郭の終わりごろが良く書かれてて、吉原終了の歴史を知ることが出来る。 吉原遊郭内だけではなく、昭和初期と言う時代や生活環境なども書かれていて、昔を知る事が出来る。 筆者が実際に吉原内で働いていた方で、お茶屋の女将をされてた方だけあって、吉原の実情を正確に伝えてくえれているんだろうと思う。 ただ、少し残念だったのは書き手がお茶屋さんだっただけに、吉原全体の事や昭和初期の時代の全体的な事は良く書かれていると思うのだが… 出来れば、もう少し花魁(遊女)の事に触れてもらいたかった。
Posted by
経営者の視点から吉原の歴史や内情が語られていておもしろい。愛情の上に全てが好意的に語られているので筆者本人以外の気持ちに関してはあまりアテにはならないかもしれないが、吉原の終わりの変遷は自身の体験に基づくものなのでとてもリアルに感じられる。また、ことば遣いが独特で、とても近代的。
Posted by
- 1
- 2