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完全な人間を目指さなくてもよい理由 の商品レビュー

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2021/05/15

NHKのハーバード白熱教室ですっかり有名になった『これからの「正義」の話をしよう』のサンデル教授が生命倫理について論じたものである。 本書のメインテーマは遺伝子操作によって自分自身もしくは産まれくる子供の能力改善を行うことについての倫理的判断である。この倫理判断は、バイオテクノ...

NHKのハーバード白熱教室ですっかり有名になった『これからの「正義」の話をしよう』のサンデル教授が生命倫理について論じたものである。 本書のメインテーマは遺伝子操作によって自分自身もしくは産まれくる子供の能力改善を行うことについての倫理的判断である。この倫理判断は、バイオテクノロジーの進歩によって、現実的になりつつある問題として捉えられている。 この倫理的問題を議論するために、第2章ではスポーツ選手のエンハンスメント一般の道徳的判断について検討を加えている。治療やトレーニングとドーピングの境界は実のところ曖昧である。彼らの責任において行うエンハンスメントの道徳的にはどう評価されるべきなのか。この辺りの議論は興味深い。 本書に出てきていない具体的な例もいくつか挙げることができる。例えば、元巨人の桑田も受けたジョーブ博士のトミー・ジョン手術はどうなのか。トミー・ジョンの後球速が上がったピッチャーも多い。また、バルサのメッシの成長ホルモン異常治療はどうなのだろう。 こういった頭の準備をした上で、結論として遺伝子操作により子供の能力設計に介入ことに対して著者が強固に反対する根拠として提示するものは意外なものである。遺伝子操作の可能性が「生の被贈与性」を壊してしまうことが本質的に問題であるとしている。これまで成立していた「生の被贈与性」の概念が損なわれてしまうことにより、これまでの社会連帯の喪失や、無制限な責任の増殖が懸念されるという。 「人々が自らの才能や幸運の偶然性に思いを致すところから生まれる現実の連帯も蝕まれていくだろう」 「遺伝子操作を許容することは、親に対して適切な性質を選択することにについて責任を負うことになる。」(p.92) この結論に対して想定される批判についても言及している。著者の主張は相応に妥当性を持つものと思われるが、その軽重については実際に読んでみて考えることを楽しんで欲しいところである。 また一方、著者は幹細胞研究は治療を目的として進められるべきだとしている。胚が生命であり、その研究が生命を殺めることになるという倫理上の批判は、採用されるべきではないとしている。そこで得られた技術の利用を社会的に律する倫理と道徳が必要となるということなのだろう。 --- 個人的な意見としては、突然変異と自然淘汰という生物進化の基本ルールへの介入に対してより慎重になるべきだという観点で遺伝子操作の濫用には反対したい。この基本ルールは微妙なバランスの上に成立しているのではないかと思われ、ヒト遺伝子操作の意味するところは何であるのかを見極める必要があるのではと考えている。 いずれにせよバイオテクノロジーの進化は、生命倫理にせよ、技術にせよ、法制度にせよ、オープンな議論が必要な分野である。そのことを考えるのに一つの道標にはなる本だと思う。

Posted byブクログ

2021/01/05

私のようなものに献本ありがとうございます。正確でよみやすい訳。 しかしまあ第5章の議論がうまくいっているとはとても思えない。っていうかひどい議論だわね。

Posted byブクログ