大氷原の嵐 の商品レビュー
シャクルトンの冒険物語(「エンデュアランス号漂流」参照)を読んだ事のある方なら、この話には惹きつけられるものがあるだろう。実際、この話にもシャクルトンの名前が何度か出てくるので、イネスがシャクルトンとエンデュアランス号の実話をベースにこの話を構想したのはほぼ間違いない。だが、単...
シャクルトンの冒険物語(「エンデュアランス号漂流」参照)を読んだ事のある方なら、この話には惹きつけられるものがあるだろう。実際、この話にもシャクルトンの名前が何度か出てくるので、イネスがシャクルトンとエンデュアランス号の実話をベースにこの話を構想したのはほぼ間違いない。だが、単にノンフィクションをなぞったのではなく、小説らしい謎解き風味の味付けとなっている。「エンデュアランス号漂流」を読んだ時に「事実は小説よりも奇なり」と思ったものだが、ならば、イネスのこの話は「ノンフィクションのようなフィクション」である。 プロローグは非常に説明文的である。ある悲劇的な事件の報がもたらされ、最初は些細な事件だったのが、次第に大事になっていく様を短いページで効果的に伝えている。説明文的であるがゆえに、一層先が気になる。 本文に入り、事件を紹介する役がクレイグ・ダンカンという一人の男に振られた当初、クレイグは説明役をまかされた単なる脇役の一人のように思える。彼は、実に些細なことで現状から逃げ出した、いわば敗者であったからだ(イネスの小説にはこういう人物が多いようだ)。 ところが、状況に流されているうちに困難な状況に陥り、そこで彼はかつて軽巡洋艦の艦長であった頃の自分を取り戻し、不幸な男達のリーダーとして大自然を相手に戦う男になる。次から次へ襲いかかる自然の驚異、彼を敵視する者達の存在。希望も何も無い、死を待つだけの日々・・・。 ネタバレをせずに説明するのは難しいので、読んでもらいたいと思う。シャクルトンの冒険物語にドキドキした方なら、多分気に入ってもらえると思う。今まで読んだイネスの本は4冊に過ぎないが、その中ではこの作品を一番に押したい。
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