アジア太平洋と新しい地域主義の展開 の商品レビュー
第5章中兼氏の論稿は中国の本質をシンプルに言及しており印象に残った。 …中国が今後…もっと重要なことは経済規模ではなく、技術、文化、教育といった面で中国が人々をひきつける力を持てるか[p150]
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『アジア太平洋の重層的な地域制度とAPEC』菊池努、『グローバリゼーションとアジア太平洋』山本吉宜、『アジア太平洋地域主義の特質』大庭三枝、『アジア太平洋諸国経済の相互依存関係と電子機器産業』熊倉正修、『不可欠なパートナー、両義的なモデルとしての中国』バリー・ノートン、『ASEA...
『アジア太平洋の重層的な地域制度とAPEC』菊池努、『グローバリゼーションとアジア太平洋』山本吉宜、『アジア太平洋地域主義の特質』大庭三枝、『アジア太平洋諸国経済の相互依存関係と電子機器産業』熊倉正修、『不可欠なパートナー、両義的なモデルとしての中国』バリー・ノートン、『ASEANの変容と広域秩序形成』山影進、『オーストラリアの「アジア太平洋共同体」構想』福嶋輝彦、『太平洋投書諸国と環太平洋』小柏葉子、『韓国の地域外交とアジア太平洋』李鐘元、『アジア太平洋地域統合への展望―台湾の視点からー』呉栄義、『中国のアジア地域外交―上海協力機構を中心に―』毛里和子、『アジア太平洋とロシア』河東哲夫、『アジア太平洋地域と中南米―メキシコ、チリ、ペルーの視点を中心に』細野昭雄、『アメリカはアジアに回帰するか?』T.J.ペンペル、『日本外交におけるアジア太平洋』田中明彦という構成。 環太平洋協力構想を発表した故大平首相の西端100年を記念して渡辺昭夫、毛里和子、山影進といったアジア太平洋地域を研究対象とする著名な学者が集まり編集した本著。2010年に発刊されたこともありオバマや民主党政権まで視野に入れてアジア太平洋協力について検証されており、この手の一章20ページ程度の小論文集としては非常に読み応えがある。経済相互依存関係の進展により一体性の低いといわれるアジアにおいても地域統合が進んでいるという一般的な議論には再考の余地があるとする熊倉や新たな大国モデルとしての中国を説いたノートン、しばしば脅威としての中国の象徴とされてしまうSCOについて検証した毛里など、個々の論文としても面白いものが多い。 ASEAN以外にまとまった機構をもたないアジア太平洋の地域主義においては、アメリカの問題、ナショナリズムの問題、意思決定方式の問題、アジア太平洋なのか、東アジアなのか北東アジアなのかという問題など、さまざまな課題が山積みになっている。日本もAPECの例を見ればわかるように形成過程においては一歩間違えるだけで地域的機構を台無しにしてしまうだけのポテンシャルを持っているにも関わらず地域主義に対する姿勢が一貫せず、今後は錯綜する各国の意思や利益をより体系的に考えていく必要がある。地域主義はより広範な利益や平和を実現する積極的な意味と既存の秩序の代替案としての消極的な意味を合わせもっており、経済的利益やアメリカとの関係、中国の位置などを考えるとさまざまな場で議論されていくべきものであり本著はそれを個人個人が考えていくためのツールを提供してくれる。
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