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暗渠の宿 の商品レビュー

3.8

95件のお客様レビュー

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2011/08/15

また西村賢太を読んでいる。 内容的には毎回ほぼ同じ(今回は風俗嬢に入れ込んでだまされる「私」を描いたデビュー作と、恋人と初めての同棲生活を描いた野間文芸新人賞受賞作の二本立て)なので、書くこと(感想)もなくなってくるのだが、まるで中毒のように読みふけっている。 別に西村賢太氏の私...

また西村賢太を読んでいる。 内容的には毎回ほぼ同じ(今回は風俗嬢に入れ込んでだまされる「私」を描いたデビュー作と、恋人と初めての同棲生活を描いた野間文芸新人賞受賞作の二本立て)なので、書くこと(感想)もなくなってくるのだが、まるで中毒のように読みふけっている。 別に西村賢太氏の私生活を盗み見たいわけではない。 やはりなんともいえぬ芳醇な読書体験をしたいがゆえの選択であり、他に気になる作家もいるのだが、何か物足らず、ついつい西村氏の未読の書を探しては、深夜遅くまで読みふける毎日である。 不健康である。 でも、とりあえず今までに刊行されている全作品を読み終わるまで、他の作家の著作には移行できない我が勢いである。

Posted byブクログ

2011/08/01

この本は、1人の男(=作者自身)の私生活を描いたものであり、何の変哲もない物語・・・と言えなくもない。ハリウッド映画や最近の探偵小説などに毒されたわたしは「何か大きな展開がこの後に待っているのか!?」「どういったオチが待っているのだろう」などとついつい期待しながら読んだものだが、...

この本は、1人の男(=作者自身)の私生活を描いたものであり、何の変哲もない物語・・・と言えなくもない。ハリウッド映画や最近の探偵小説などに毒されたわたしは「何か大きな展開がこの後に待っているのか!?」「どういったオチが待っているのだろう」などとついつい期待しながら読んだものだが、その期待はいい意味で裏切られた。いい意味で・・・というのは、最後まで本が惹きつける力を失わなかったという点につきる。 うまく表現できないのだが、この小説にはネットリとした・・・なんていうか蛇にからみつかれたかのような拘束力がある。1つには私小説ということもあり、内容が非常に身近に感じられる人間くささのある話だからだろう。そしてもう1つには、(平凡な言葉しか思い浮かばず恐縮だが)描写が非常に上手だからだと思う。なんというか・・・ふと気がつくと、小説の中で描かれるシーン1つ1つが、自分の頭の中に克明に浮かんでいるのだ。表現力が素晴らしい。「小説家であれば表現力があるのは当然」とご指摘を受けるだろうが、何というか、この著者の文章には昔の人(三島由紀夫や太宰治など)といった人達と同じにおいを感じるのだ。 文章に重みがある。一見、何の変哲もない”とある男”の私生活の話でありながら、その男の底なし沼のような心理の深淵を覗くような感覚が・・・リアルに伝わってくる。 (詳細は、こちら↓) http://ryosuke-katsumata.blogspot.com/2011/05/blog-post_23.html

Posted byブクログ

2011/07/31
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芥川賞の受賞金は「風俗に遣う」。中卒・逮捕歴あり・呑んだくれの私小説作家、西村賢太。久しぶりにはまる作家に遭遇できました。有難き幸せ。 芥川賞受賞作よりもこちらのほうが書評が良かったので読んでみました。 以下、『けがれなき酒のへど』より 「一枚の礼状葉書をしたためるよりも簡単にことのすむ類の女ではなく、普通のかたちでの、ありきたりな相思相愛の恋人が欲しかったのである。」 「それでいて思う程の酔いが来ないので淋しくてたまらず、やっぱり私は恋人が欲しくなる。あの相思相愛の何とも云えぬ、うれしくてあたたかいものを今一度だけでいいから得てみたい。」 たとえどんなに無機的な生活が上手くいっても、こころから繋がる人がいない人生では呑んだくれる毎日なのだろう、と痛感させれられる。そしてそんな理想を夢見る者には、一時的な幸福は得られても永遠の幸福は来ない。悩み続ける毎日を全うするしかないのか。そういう人種にうまれてしまったのだから、ろくでもない生活と文学におぼれるしかない

Posted byブクログ

2011/07/29

ソープ嬢に入れあげ店に通いつめたあげく、まんまと、というか案の定、有り金ぜんぶを巻き上げられて逃げられる。そんなみっともなくなさけなく、でもありふれた喪失。なんとか店外デートにこぎつけようと、ありあまる性欲は抑えてサービスを受けずにただ女の子と時間を共有する「わたし」だが、下心ゆ...

ソープ嬢に入れあげ店に通いつめたあげく、まんまと、というか案の定、有り金ぜんぶを巻き上げられて逃げられる。そんなみっともなくなさけなく、でもありふれた喪失。なんとか店外デートにこぎつけようと、ありあまる性欲は抑えてサービスを受けずにただ女の子と時間を共有する「わたし」だが、下心ゆえのやせ我慢が裏目に出て彼女はどんどん図々しくなり接客もおざなりになる。それでもその女を得たい「わたし」は、請われるまま菓子や弁当を貢ぎ続け、人畜無害なお人好しを装う。そしてそろそろくるかというところでやはり繰り出されるソープ嬢のベタな借金話し。こんな風俗あるあるみたいな、どうでもいいどうしようもないくだらないけちくさいエピソードが、これほどおもしろおかしなエンターテインメントになるなんて、この本に収録された著者のデビュー作「けがれなき酒のへど」を読むまで夢にも思わなかった。表題作「暗渠の宿」も、一言でいえば「DV男の逆ギレ」であり、デビュー作同様、卑屈で小心者で学も金もなく、当然モテるわけもない、しかし、その実ド厚かましい醜男が主人公の、ひじょうにばかばかしく卑小で滑稽な物語だけれど、これがやたらと痛快で、するりと引き込まれてつるりと読めてしまう。また、恋人に対する非道な振る舞いや口さがない罵倒、彼女の容姿についての身も蓋もない形容など、あまりにひどいのだけれど、ひどすぎて思わずわらってしまう。著者の分身である主人公は、どちらの短編でもセクハラ&モラハラ三昧のとんでもないミソジニスト。なのに、それらの描写がなんら不快感をもたらさず、それどころかかえって爆笑をうむ不思議。果てはこのろくでなしに愛おしさまで感じてしまうのだから、うれしいようなそうでもないような。

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2011/08/03
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特に男性が共感&高評価する作品なのだろうなあという感想。文体がいまの時代と絡み合わなくて読みづらかった。こんなに薄い本なのに読み終わるまで時間かかった。でも不思議と、読後に笑えた私小説だった。

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2011/05/24

他に「けがれなき酒のへど」を集録。 私小説を読んでいると人の長文のブログを読んでいる気分になるがどんどんひきこまれて行く文体。 相変わらず絶望的な内容だが、文体は美しくシンプルで、すっかり西村賢太のファンになった。

Posted byブクログ

2011/05/24
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いや、いいねこの人。 女性からみればサイテーの男なんだろうけど、 男からみると憎めないやつです。 いまどき珍しい、無頼派自滅型作家です。 生まれる時代を間違ってしまったかもしれない。 でも、文学に対してはピュアな人だと思います。 内容も私小説ですが、面白いし、文章も読みやすいです。

Posted byブクログ

2011/05/23

ふふ。最低。 片方まだ読んでないので想像だけど多分芥川賞貰った2作品で比べればこちらのが面白いんじゃないかと思う。 何故なら最低な人間を眺めるのは読書に限らずとても面白いからです。 優れている優れていないの話ではなくて。

Posted byブクログ

2011/05/16
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

常に貧窮し、口汚く、暴力的で、しかしそのじつ小心者。身勝手で、女には裏切られてばかりいる。破滅的な悲喜劇。しかもこれが私小説ってんだから、まあすげえや。

Posted byブクログ

2011/05/05

文藝春秋に掲載されていた『苦役列車』に続いて2冊目の西村賢太作品体験。野間文芸新人賞受賞作の『暗渠の宿』に、事実上の出世作である『けがれなき酒のへど』を同時収録した、お得感が漂う一冊。 どちらが良かったかと言うと、勿論これはどちらも及第点を挙げられるクオリティーを内包していてホ...

文藝春秋に掲載されていた『苦役列車』に続いて2冊目の西村賢太作品体験。野間文芸新人賞受賞作の『暗渠の宿』に、事実上の出世作である『けがれなき酒のへど』を同時収録した、お得感が漂う一冊。 どちらが良かったかと言うと、勿論これはどちらも及第点を挙げられるクオリティーを内包していてホッとしたのだが、僕は表題作より、『けがれなき~』の方に軍配を上げたいと思う。表題作も、巧みに繰り返し使われるレトリックであるとか、短い中にうまく張り巡らされた伏線であるとか、評価点は多い。が、読後の爽やかさ(そういうものが氏の作品にあるとして)の少なさや、前半の家探しのくだりの冗長さ(長ったらしいという訳ではないが、作品が短いがゆえに、この部分の長さが厭に目立つ)を鑑みると、僕としては出世作の方を贔屓にしたくなるのだ。 ただ、おそらく今後もこの作家のもっともメジャーな作品となるであろう『苦役列車』と比べると、文章の読み易さ、内容へのとっつき易さという点ではこの本収録の二作はやや劣るかもしれない。 『けがれなき~』は、ストーリーとしては、小説はおろか現実社会上でもありきたりと思われる話だが、そこではすでに氏の小説家としての力量が発揮されているというのだろうか、読者に続きを知りたいと思わせる魅力がある。最後の藤澤清造の下りは蛇足に思えるかもしれないが、この部分はしてやられた『私』を浄化させる重要な役割を担っており、また、『私』こと西村氏がいかに藤澤清造に魅了されているかを示す重要なエピソードの一つといえる。 『暗渠の宿』は後半のガラスケースのくだりが面白い。これまた氏がどれほど藤澤清造に依拠しているかを示しているのだが、ことこの作品での序列が『藤澤清造>私>女』というふうになっているのだということに気付くと、ふと思いがけぬおかしみを感じてしまう。 また、この作品では回収されていない伏線も存在している。これは普通の小説ではあってはならぬことだろう。一つの小説はその世界内で完結しなければならないからだ。しかしこの作品においてはそれが許さているのは、やはり私小説の強みによるところだろう。 これは『苦役列車』にも言えたことだが、氏の文章は一文一文がどちらかと言えばかなり長いため、読み易いかと言えばそうではない。しかし、そこには一部の読者を魅了する何かが必ず存在している。

Posted byブクログ