熱い風 の商品レビュー
小池真理子って、もっと何かじっとりとしたものが言葉の裏にありそうな作家じゃなかったかしらんと思ってしまう。何だろう、このすかすかとした心持ちは? 決して言葉が少ないわけではないが、頁から掬い取れるものがあまりない。言葉の密度が小さいとでも言ったらよいのだろうか。 しばらく読みす...
小池真理子って、もっと何かじっとりとしたものが言葉の裏にありそうな作家じゃなかったかしらんと思ってしまう。何だろう、このすかすかとした心持ちは? 決して言葉が少ないわけではないが、頁から掬い取れるものがあまりない。言葉の密度が小さいとでも言ったらよいのだろうか。 しばらく読みすすむうちに、その印象は、主人公の気持ちの吐露の間に投げ込まれる情景描写に起因するものであることに気付いた。それがどんな色で、何という名前のものなのか、どのような感じのするものか、そういったことはきちんと描かれているのだが、それがそこまで描写される理由がよく解らないのだ。まるで、作家が手持ちのボイスレコーダに目に写るものを尽く描写して記録しているかのようである。しかし、それが主人公気持ちの揺れを表したりするのに必要なのかといえば、そうでもないように思うのだ。 「汗を手の甲でぬぐい、手荷物として機内に持ち込んでいた赤いこぶりのキャリーバッグを引きながら、再び歩き出した。」ここで、キャリーバッグがどうのこうのというのが、主人公の気持ちや、この先にあるだろうミステリーと繋がっているのか、と自分は考えながら読んでしまうのだが、それはその場の描写としての役目を終えると、使い捨ての言葉のように置き去りにされる。その感覚がすかすかとした心持に繋がる。 全体としてはミステリー風の話の展開であり、時間を行き来しながら進む話自体に添いながら読み進めていくのは困難ではない。所々にじっくりとした言葉だまりのようなものがあり、そこでは何かが少し動きだしそうな気配が起こる。しかし、それが間に投げ込まれる描写によってピタッと止められてしまう。何となくジャーナリスティックな文章を読んでいるような雰囲気となる。何かを読み落としてしまっているような、そんな気になる。
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