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ハーモニー の商品レビュー

4

174件のお客様レビュー

  1. 5つ

    47

  2. 4つ

    69

  3. 3つ

    32

  4. 2つ

    6

  5. 1つ

    1

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2023/01/05
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

【結末のネタバレあり】 巻末インタビューで著者が「敗北宣言」と述べているように、結論部分については、正直物足りなさが残るラストとなった。 個人的に一番気になったのが、ミァハという人物が、本当にこのような結論にいたるのだろうかという疑問である。 ストーリーではミァハは、生まれつき「意識」を持たない民族だったと明かされる。 そのため、全人類がミァハの民族のようになるだけと考えれば納得はできるのであろう。 しかし本当にそうと言えるのだろうか。 父のヌァザは、「社会と完璧なハーモニーを描くように価値体系が設定されている」と述べている。 つまり多様性の失われた、ひとつに価値観が統一された上での、意識の喪失ということになる。 このようなプログラムをミァハは肯定するのだろうか? 例えば、ミァハの一族がこの都市に住むか?と問われたとする。 はたして、全ての一族がここに住むことを選択するだろうか。 中には合理的な思考を経て、住まないという選択をする者が出る可能性も否めないはずだ。 人々から「迷い」を取り除いても、正解はひとつではないのだから。 他の例で考えると、無我の境地に達し、悟りを開いた僧侶たちが、この世界に訪れたとして、仏界(浄土)に辿り着いたと感じるのだろうか。 その場合も、ただロボットのようにプログラミングされた人々が暮らす都市を見て、憐れみとともに静かに通り過ぎるだけではないかと私は思う。 意識を失うということは、生き続ける意味も失うともいえるはずだ。 本来であれば(価値体系の設計がなければ)、食事を摂る意志を無くしそのまま餓死するものが現れる可能性だってあるのだ。 (WatcMeに感知されるだけだろうが) そのような観点から、この結末はミァハがたどり着くべき結論ではなかったような気がしてならない。 インターポールのヴァシロフは死の間際にこう言う「こいつが痛みってヤツなんだな。WatcMeとメディケアめ、人間の体にこんな感覚があるなんて、よく隠しおおせたもんだ。腹の立つ話だとは思えんかね。」 このような発想を持つ集団が、このような結末を望むのだろうか。 恐らく、もし著者に時間があれば、もっと時間をかけて結論を探すことができたのであろう。 しかし残念ながら著者に時間は残されていなかった。 著者による「敗北宣言」という言葉を聞くと、どうしても他の結末というものを考えてみたくなってしまう。 大変身勝手なこととは思いながらも、僭越ながら異なる結末というものを私なりに考えてみた。 以下が私個人としての結論案である。 ---------------------------------------------------------- ミァハは、自ら書いたプログラムにある細工を施していた。 プログラムが歌い出した瞬間、全ての人類に選択肢が示される。 社会とひとつになれば、全ての苦しみや恐怖から解放されます。 あなたは、あなたという意識を捨て、生命主義社会とひとつになって、生き続けていくことを承認しますか? Yes/No 生府の老人たちや、螺旋監察官たちは、想定していなかった事態に一瞬戸惑いはしたが、迷いなくYesを選択した。 (ウーヴェのようなものたちを除いて) 今回の事態に怖れを抱いていた者を中心に、医療社会に生きる多くの人類も、同様の選択をした。 そして、Noを選択した人類には、ミァハからのメッセージが示された。 「さあ生きて自由にハーモニーを奏でよう」 その後の社会では、紛争もまだ続いている、自殺だってその存在を消してはいない。 しかし、『空気』と呼ばれていたものは、もうそこには存在しない。 この社会では、お酒を飲んでいる者を見ても、誰も見向きもしない。 もちろん、司法は存在している。 殺人を犯せば罪に問われるように、飲酒が違法な地域や年齢では罪を償わされることになる。 しかし、空気という形で人々から自由を奪うことは、できなくなってしまった。 偏狭な生命主義者も、それを他者に押し付けるために必要な「意識」を失ってしまったのだから。

Posted byブクログ

2022/05/14

2008年頃に予測して描いたものと聞き驚いた。 戦争と細菌、ウィルス、正にその通りの世の中 コロナとロシアによるウクライナ侵攻 大災禍が現実にならないことを望みます。 作者の伊藤計劃さんが亡くなられていることを解説で知り、さらに驚き 他の作品も読みたい。

Posted byブクログ

2021/07/28

虐殺器官に続き読了。2作ともそうなるべくして迎えた結末という印象で、ミァハが再登場してからの流れは正直なところ予想通りすぎる部分はあったものの、「細かなディテールをどんどん積み上げて世界観を構築する」手法が自分にとっては新鮮に楽しむことができた。ハーモニーという単語にこれだけ美し...

虐殺器官に続き読了。2作ともそうなるべくして迎えた結末という印象で、ミァハが再登場してからの流れは正直なところ予想通りすぎる部分はあったものの、「細かなディテールをどんどん積み上げて世界観を構築する」手法が自分にとっては新鮮に楽しむことができた。ハーモニーという単語にこれだけ美しさとおぞましさを付与したのがすごい。「わたし」が消滅した世界を想像してぞっとする反面、何もかもが面倒になった時に自分もWatchMeを入れてその一員に加われたら楽なんだろうなとも思う。

Posted byブクログ

2021/05/17
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ディストピア〜。 序盤は色んなパロディが出てきて、 ハルヒじゃん、とか、ナウシカ!とか、たった一つの冴えたやり方ってどんな話だったっけ?とか思いながらサクサク読んでたけど、途中からそんなの気にならなくなるくらいのめり込んだので、実はもっと色々小ネタが盛り込まれてたのかもしれない。 虐殺器官のあとの世界の話で、私は虐殺器官より好きだったかなー。読後、頭がボーッとした

Posted byブクログ

2021/02/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

伊藤計劃だから難解かな、と身構えたけど、実はそんなことなくて、むしろ読み口は軽くてするする読める。なんせ物語は怒涛のように展開するし、途中途中で挟まれるHTMLのようなプログラム言語が、不思議な世界観を生み出してて没頭できる。 この小説の舞台は、「大災厄」と呼ばれた核戦争後、健康で幸せな世界の構築のために、人間を大事なリソースとして徹底的に管理している世界。管理されたプログラムに従うことに疑念がなく、プログラムに従わない人、つまり同じ価値観を共有しない人を、やわらかく、でも真綿で首を絞めるように追い詰めていく世界。表面的には、人が傷つくことを極端に忌避する世界。 主人公のトァンは13年前、そんな世界から逃れるため、友人であるミァハ、キアンと共に自殺をはかるが、カリスマ的な友人ミァハだけが亡くなってしまう。大人となった今は、その世界の管理側にまわっているが、ある時、世界中で一斉に何人もが自らの命を断つ、という事件が起こり、トァンもその場に居合す。その原因を探るべく探索を始めるが、そこには、自分の父親が開発した大きなプログラムの存在があった。また亡くなったはずのミァハの存在も見え隠れし…という物語。 これは架空の世界であるけど、もうすぐそこに展開するであろう、近い未来の話ではないか、と思える。特にこのコロナで、一気に近づいてきた感がある。自粛警察、マスク警察、健康を守るという大義名分があれば、躊躇わず人を攻撃する人たちを、私たちは現実世界でたくさん見てしまった。だから、この小説の結末はとても恐ろしい。そして哀しい。 ハーモニー、調和、それは美しいけれど、究極の調和は、何をもたらすか?自分が自分でありたい、と思うことと、自分があるために生じる葛藤や諍いがもたらす苦しみと、どう折り合いをつけるか?きっと多くの宗教も、この狭間で苦しむ人の救済を目指したものだろう。では、この小説の答えは…。 実は、文章中に挟まれるHTML様のプログラム言語には深い意味が隠されている。最後にその謎が解けたとき、ゾクゾクした。私たちの今いる世界も、この結末に進むだろうか、と。

Posted byブクログ

2021/01/27

ディストピア小説を読みたくて、読んでみた。 ディストピア小説を読んでる時特有のモヤモヤしたような、胡散臭さのようやものはなく、 スタイリッシュな感じがした。 htmlならぬetml のタグ表記は、面白いし最後まで読んでいると意味があり、 なるほどと思えた。

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2021/01/08

誰もが幸福になる為、また平和な世界を築き上げて行くためにに自分の意思を失いそこに向かっていくことが果たして幸せと呼べるのか。大災禍の後の生府台頭により人々を細かく管理しレールを敷きそれぞれの役割を割り当てる。幸福とは何かを考える機会にもなったし人生のゴールとは何か考えさせられた。...

誰もが幸福になる為、また平和な世界を築き上げて行くためにに自分の意思を失いそこに向かっていくことが果たして幸せと呼べるのか。大災禍の後の生府台頭により人々を細かく管理しレールを敷きそれぞれの役割を割り当てる。幸福とは何かを考える機会にもなったし人生のゴールとは何か考えさせられた。テクノロジーの発展著しい世界であり又、このコロナ禍に読むことで今後の世界の在り方の可能性の一つとして本書のような時代が来るかもしれないと思わされた。

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2020/04/28

幸せとは何なのか インフラが整い、基本的に衣食住に事欠かなくなった現在において、意識はなぜ存在するのか トゥルーマンショーのような世界で、周りの役者(AI)が主人公の幸福度を上げるためだけに振る舞えばそれでいいのか そうなった場合の人間の存在意義とは何なのか そもそも人間に存在...

幸せとは何なのか インフラが整い、基本的に衣食住に事欠かなくなった現在において、意識はなぜ存在するのか トゥルーマンショーのような世界で、周りの役者(AI)が主人公の幸福度を上げるためだけに振る舞えばそれでいいのか そうなった場合の人間の存在意義とは何なのか そもそも人間に存在意義があると考えること自体が奢りなのか

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2021/01/13

前作「虐殺器官」に比べてライトノベル色の強いイメージで敬遠していたが、とんだ見当違いだった。今作も凄惨なのに静謐、とことんハードボイルドな女性主人公もCOOL。生前に病床で執筆された作品とのことで、著者の死生観は巻末インタビュー以上に色濃く反映されている印象。つくづく早逝が惜しま...

前作「虐殺器官」に比べてライトノベル色の強いイメージで敬遠していたが、とんだ見当違いだった。今作も凄惨なのに静謐、とことんハードボイルドな女性主人公もCOOL。生前に病床で執筆された作品とのことで、著者の死生観は巻末インタビュー以上に色濃く反映されている印象。つくづく早逝が惜しまれる。人間が【意思】を持つ以上、感情的な軋轢は回避出来ないが、意思の消失を以てして【幸福】は訪れるのか?ただ【調和】を維持する歯車として【生存】するだけの味気ない人生は想像するだけで酷く虚しい。装丁はシンプルな旧文庫版が好きです。

Posted byブクログ

2019/10/20

まさかまさかのディストピア小説。こういう結末に至るとは前半からは予想できませんでした。いわるゆ「百合小説」と呼ばれる分野の傑作と称されています。これまでご縁のなかった方は一度チャレンジしてみては。

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