科学哲学入門 の商品レビュー
科学哲学入門と銘打っているが既存の科学哲学における議論の紹介にとどまらず、それらに対する批判や著者自身の主張がかなり前面に押し出されている意欲的な書であった。しかしそれゆえに、全く科学哲学を知らない人にはあまり薦められない内容となっており何とも中途半端な印象を受けた。 第一部は...
科学哲学入門と銘打っているが既存の科学哲学における議論の紹介にとどまらず、それらに対する批判や著者自身の主張がかなり前面に押し出されている意欲的な書であった。しかしそれゆえに、全く科学哲学を知らない人にはあまり薦められない内容となっており何とも中途半端な印象を受けた。 第一部は1920年頃に展開された論理実証主義からポパーやクーンといった科学哲学を語る上では欠かすことの出来ない重要人物の主張までを紹介する。ここではそれぞれの主張の内容というよりも思想の変遷が重視されており、紹介の仕方も駆け足であって内容は確認する程度であるため、予めある程度知識がないと理解できないのではないかと感じた。単純にこの間の議論の内容を知りたいのであれば他の入門書をあたった方が良いかもしれない。 第二部では、一部での議論を前提としてその克服を企図して、特に社会構成主義に対する批判として、著者自身の主張が展開される。しかし、著者の見解は、『現代唯名論の構築―歴史の哲学への応用 (現代哲学への招待)』や『共同性の現代哲学』において詳述されているようなので、社会構成主義に興味がなく、著者の意見を知りたい方はそちらをあたった方が良いかもしれない。 本書から受けた印象では、著者の世界観は素朴な科学中心主義、あるいは科学信仰に過ぎないように感じた。世界そのものを認識の対象とするのは自然科学だけであるという表明が、そのことを率直に表しているように思う。あらゆる言明が世界に対する解釈であり、部分に過ぎないと言ってしまってどのような不都合があるのであろうか。また、著者は世界を根源的な構成要素の集合として観念し、それに対してある融合体を見いだすことが言語による解釈であり、自然科学だけをその根源的要素を示す言語を有するという主張する。しかし、世界をそのような根源的要素に分割できるということ自体が自然科学に伴う一つの信仰に過ぎない。結果として、著者は社会構成主義を科学哲学に対する本質的な批判であるという認識を持つことが出来ておらず、その批判も成功しているとは言えない。単純に、世界は存在すると言えば社会構成主義は退けることが出来るのであり、自然科学を信奉するから自然科学を研究していると言った方がよほど説得的なのではないか。
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