ボン書店の幻 の商品レビュー
2022.5.29市立図書館 TLでみかけたおすすめに興味を持ち、予約を入れて借りた。 単行本は1992年9月、白地社。2008年の文庫化にあたり、出版後十年を経てからの新たな出会い・進展などを記した20ページ余の「文庫版のための少し長いあとがき」が付け加えられた。 モダニズム...
2022.5.29市立図書館 TLでみかけたおすすめに興味を持ち、予約を入れて借りた。 単行本は1992年9月、白地社。2008年の文庫化にあたり、出版後十年を経てからの新たな出会い・進展などを記した20ページ余の「文庫版のための少し長いあとがき」が付け加えられた。 モダニズムの時代に風花のように舞って消えていったちいさな出版社を探す物語だった。書店というよりとてもちいさな編集所兼印刷所のような形で、たったひとりで、ほとんど命がけと言っていいぐらいすべてを捧げて、自分なりにこだわった本を作り続けた人物、鳥羽茂を追う。 作ったもの(著者名と作品)は残っても、それを世に出すべく企画して印刷して製本して売った人のことはこうまで忘れられてしまうのだな...という著者(古書店主)の疑問にはっとさせられ、刊行した本や雑誌の奥付や署名記事に情報を求め、わずかな痕跡をたどって関係者に手紙を出したり訪ねたりしながら、その人生を想像して肉付けしていく著者の執念にこちらもすっかりまきこまれてしまった。 1992年の刊行は、謎が多いままながらも、手を尽くして一段落したということでまとめたのだろうけれど、刊行されたことからさらに縁者に話がつながって、著者のおもいに天の魂が応えたかのようなみごとな幕切れで著者の長い旅も終わりを迎えた。本にして世に問うということの意義がこれほどに感じられる出来事はそうないのではないだろうか。 このようにほとんど忘れられてしまう存在であってもその後の文学が展開していく上でかけがえのない人は他にもおそらくたくさん埋もれているのだろう。そして今も現在進行形でそういう貢献は少なからずあるのだろう(昔に比べれば、オンデマンド出版や少部数での個人出版の選択肢や可能性はずいぶん広がっているだろうとは思うが)。そうした無名の活動の上に、いまの、そして未来のさまざまな文学や文化があるのだということをこれからは心に留めていたい。 私自身はモダニズム詩にはまったく明るくはないが、ボン書店ゆかりの詩の同人の中に最近別のところで名前を聞くようになった「左川ちか」の名があったので、また別の芋づるがみつかったような気がしている。
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戦前、モダニズム詩を出版する小さなボン書店という出版社があった。その出版社を営んでいた、鳥羽茂という人物を追いかけた、一種のノンフィクション。 筆者の内堀弘さんは古書店の店主。1920-1930年代のモダニズム文献を主に扱われている。本書の背景となっている時代の古書事情や出版事情...
戦前、モダニズム詩を出版する小さなボン書店という出版社があった。その出版社を営んでいた、鳥羽茂という人物を追いかけた、一種のノンフィクション。 筆者の内堀弘さんは古書店の店主。1920-1930年代のモダニズム文献を主に扱われている。本書の背景となっている時代の古書事情や出版事情に対しての深い知見は、驚きだ。 本書は、もともと1992年に白地社という出版社から出版されたもの。その後、2008年にちくまから文庫化された。文庫化された際に加えられた「文庫版のための少し長いあとがき」が、ある意味で、本書のハイライトだ。ネタバレになるので、内容については触れないが、最後の部分は、涙が出てきた。 他にはない味わいを持った本。お薦めだ。
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これは名著だ。 1932年に彗星のごとく現れて昭和初期のモダニズム詩人たちの詩集を出し続け、わずか6年で姿を消した出版社、ボン書店。本書は、そのボン書店の刊行人・鳥羽茂の足跡を、古書店主である著者が丹念に追ったものだ。 詩人ではなく、本の奥付にしか登場しない刊行人が対象ゆえ、当然...
これは名著だ。 1932年に彗星のごとく現れて昭和初期のモダニズム詩人たちの詩集を出し続け、わずか6年で姿を消した出版社、ボン書店。本書は、そのボン書店の刊行人・鳥羽茂の足跡を、古書店主である著者が丹念に追ったものだ。 詩人ではなく、本の奥付にしか登場しない刊行人が対象ゆえ、当然のことながら、その手がかりは限られる。それでも、その少ない手がかりをつないで、鳥羽を包んでいる謎を少しずつ丁寧に明らかにしてゆく。その手法も丁寧なら、書かれた文章も抑制の効いた素晴らしい文章だ。控えめすぎるくらい控えめで、でも鳥羽に対する思いはしっかりと伝わってくる。どこで読むのを止めるか、毎晩難儀した。 そして、本書のクライマックスは「文庫版のための少し長いあとがき」に待っていた。本書の単行本が出版されたのは1992年、ワタシが手にした文庫版の発行は2008年。この16年の間に、鳥羽の親族からの連絡などを通じて、その消息に関する新たな事実がいくつか判明したのだ。著者は、本編と同様、丹念にそれらをつなぎ合わせ、最後に鳥羽ゆかりの地を自ら訪れる。最後の一行を読み終えた時、ワタシの視界は涙で遮られた。
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戦前にモダニズム詩の美しい本を出版したプライヴェートプレスの主人を、少ない資料から追った評伝。 文庫版に際しての長いあとがき(という出版後の物語)が秀逸。幻だったものが霞の中から現れるような、あの感覚に浸らされた、梨の木をめぐる物語が特に。 プライヴェートプレスを興す心象という...
戦前にモダニズム詩の美しい本を出版したプライヴェートプレスの主人を、少ない資料から追った評伝。 文庫版に際しての長いあとがき(という出版後の物語)が秀逸。幻だったものが霞の中から現れるような、あの感覚に浸らされた、梨の木をめぐる物語が特に。 プライヴェートプレスを興す心象というのは、モダニズム華やかな戦前のある時期も今のそれも大して変わらないのかもしれないな。
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「一冊も売れない詩誌を作ることがボン書店年来の希望である」 ーそんな幻の出版社、出版人を探偵する。 「遠くの誰かへ何かを伝えようとしたのだろうか。私も、その誰かだったのだろうか」
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とある詩の出版社として短い間に印象を残した個人の肖像です。 著者が古書店主でもあり、装丁や書誌情報の流れは 網羅的でツボを押さえており、図版も充実していて それを眺めるだけでも楽しい。 ただし、後書きがズルすぎる。 表には出なかった人だから直接に聞き書きをするわけではない。 ...
とある詩の出版社として短い間に印象を残した個人の肖像です。 著者が古書店主でもあり、装丁や書誌情報の流れは 網羅的でツボを押さえており、図版も充実していて それを眺めるだけでも楽しい。 ただし、後書きがズルすぎる。 表には出なかった人だから直接に聞き書きをするわけではない。 各種出版物の足跡や、交友のあったであろう人への取材、 他の同人誌への寄稿や出身学校へのアプローチなど 著者の取材は熱意を持って、近づこうとしていく。 けれど、1930年代に活動していた小出版社の 一人事業主なんて足取りが掴めなくても当然である。 結局生まれなどもはっきりしないまま、 おそらく最後の住まいになったであろうところを訪れて終わる。 これだけでも十分に力作なんですけれど、ね。 冒頭に申し上げた通り、後書きがズルすぎるのであります。 初読のときはうっかり後書きから読まないようにしていただきたい。 それにしても日中戦争も始まっている中で、 詩人は詩をこねくりまわしていたのだという事実。 別に希望を見出すようなことではなくて、 そうするしかできない人たちはやはり、そうしているのだな、と思う。
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単行本(白地社版)だけでは未完結 文庫で加筆部分を読まなければ その結末を読まねば そしてその結末の先を読まねば
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知人の古書店主にこの本に興味があると言ったら借してくれた。読み終わって思わず、「すごい本を読んででしまった」と感想を伝えてしまった。詩専門の古書店主が昭和初期モダニズムの時代に発行されていたボン書店発行の書籍に魅せられ、刊行人・鳥羽茂をたどる旅。と言っても本編は前段が昭和初期モダ...
知人の古書店主にこの本に興味があると言ったら借してくれた。読み終わって思わず、「すごい本を読んででしまった」と感想を伝えてしまった。詩専門の古書店主が昭和初期モダニズムの時代に発行されていたボン書店発行の書籍に魅せられ、刊行人・鳥羽茂をたどる旅。と言っても本編は前段が昭和初期モダニズムとシュールレアリズムの様子が描かれ、後半が鳥羽茂の足取りを追っている内容といった感じ。時代の中に突然現れ、いくつかの詩と同人誌や書籍を残して消えた鳥羽茂の姿はまさに幻のようで雲をつかむようで、実在したのかと思うほど。しかしこの「文庫版のための少し長いあとがき」で思わぬ奇跡が起こったことを知る。私も解説の長谷川郁夫氏と同様、その部分で目頭が熱くなってしまった。そして鳥羽が大地に残した爪痕を丁寧に拾い上げた内田氏の労力と、神様がそのご褒美をくれたような結末に、読了後の震えと興奮で知人の古書店主に「凄い」と伝えたくなったのだった。これからこの本を読もうと思っている人には、書籍ではなく是非文庫版で読んで欲しい。鳥羽氏のことだけでなく昭和初期の詩にまつわる様々な運動、同人誌刊行の様子も知ることができ、当時の日本の文化的豊かさ知ることができたのは収穫。
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※このレビューにはネタバレを含みます
[ 内容 ] 1930年代、自分で活字を組み、印刷をし、好きな本を刊行していた小さな小さな出版社があった。 著者の顔ぶれはモダニズム詩の中心的人物北園克衛、春山行夫、安西冬衛ら。 いま、その出版社ボン書店の記録はない、送り出された瀟洒な書物がポツンと残されているだけ。 身を削るようにして書物を送り出した「刊行者」鳥羽茂とは何者なのか? 書物の舞台裏の物語をひもとく。 [ 目次 ] 第1章 ボン書店の伝説 第2章 出立の諸相―一九三〇~三二 第3章 『マダム・ブランシュ』の時代 第4章 追跡鳥羽茂 第5章 転換の諸相 第6章 消えてゆく足跡 終章 一九三九年夏 資料 [ 問題提起 ] [ 結論 ] [ コメント ] [ 読了した日 ]
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詩というジャンルは全くの門外漢だが、歴史の中に埋れてしまった才能に満ち溢れていた人物を紐解いて行く話の持ってき方は、どこかワクワクと読み進めてしまう面白さがあった。確かに他の方々のレビューにも有る通り"あとがき"がさらにこの話を盛り立てていると思う。
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