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戸板康二の歳月 の商品レビュー

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2013/04/20

戸板康二の評伝。一)名探偵「中村雅楽」のルーツを探って。ニ)大正デモクラシーの落とし子たるモダニストの肖像。ふたつの《視点》から読む。 一)作者みずから探偵「中村雅楽」シリーズのあとがきなどで明かしているように、このキャラクターは数人の実在する人物たちによるモザイクとして生み出...

戸板康二の評伝。一)名探偵「中村雅楽」のルーツを探って。ニ)大正デモクラシーの落とし子たるモダニストの肖像。ふたつの《視点》から読む。 一)作者みずから探偵「中村雅楽」シリーズのあとがきなどで明かしているように、このキャラクターは数人の実在する人物たちによるモザイクとして生み出されたものらしい。この評伝では、「推理小説作家」戸板康二についてはわずかしか触れられていないものの、その人柄に「親炙」する「若い友人」矢野誠一の目に映った戸板の言動は、どことなく、と言う以上に「中村雅楽」に似ている。著者、矢野誠一が強調するいかにも「山の手の東京人」らしい品格4、人間関係における絶妙な間合いなど、まさに中村雅楽に通じる部分であり、大きな魅力のひとつといえる。ちょっとしたことだが、この本の冒頭で披露される少年時の改名にまつわる戸板本人による安楽椅子探偵的な「推理」などに触れると、まさしく雅楽本人のようでついうれしくなってしまう。交友関係については、著者をふくむ「若い友人」たちに慕われ、始終にぎやかに囲まれていた反面、久保田万太郎や折口信夫のような一癖も二癖もある年上の「怪人」からも信頼され可愛がられていた。他方、同年代との腹を割った付き合いは苦手だったのか、あまり登場しないような印象を受けた(実際のところはどうだったのだろう?)。 二)物心ついたときに大正デモクラシーの空気を吸い込んで育った人物には、軽快で、やわらかい心のモダニストが多い。著者も本文中でその人柄をたびたび「しなやかな自由人」と評しているとおり、1915年生まれの戸板康二はまさにその世代の人物の特徴を持ち合わせているように思われる。じっさい本人にもそうした意識はあったようで、そのことは「兄は、つねづね自分がとてもいい時代に育てられたことを感謝していました」という弟の言葉からもわかる。戸板康二の「人のよさ」を説明するのに著者はおもに「山の手育ちの東京人」という点を強調しているように思えるが、それにくわえてやはり徒花のようにいっとき花開いた「大正デモクラシー」という時代の影も同じくらい大きな要素として取り上げられてよいだろう。父親に連れられて行った「平和祈年東京博覧会」など本文で引かれているエピソードからも、その時代の開放的な空気や幼少時の甘い記憶が伝わってくる。だから、植草甚一や吉田健一といった東京という場所と大正という時間が生んだ稀代のモダニストとして、個人的には「戸板康二」という人間に魅力を感じずにはいられないのである。

Posted byブクログ

2009/10/04

矢野誠一が師匠と仰ぐ戸板康二との思い出をつづったもの。戸板康二の山の手のお坊っちゃんらしい品のよさを存分に伝えてくれる。

Posted byブクログ