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休むに似たり の商品レビュー

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2013/03/29

書き言葉や話言葉に気をつかうべし、という本が大流行で、本屋さんの棚はまさに、そういった表現の百花繚乱状態なのだ。 であるのに、表現の究極の洗練たる形式美に、その効果が波及しないのはなぜなのだろう? >え、なんのこと? それは、短歌や俳句、川柳と言ったそれらのこと。 いやだ...

書き言葉や話言葉に気をつかうべし、という本が大流行で、本屋さんの棚はまさに、そういった表現の百花繚乱状態なのだ。 であるのに、表現の究極の洗練たる形式美に、その効果が波及しないのはなぜなのだろう? >え、なんのこと? それは、短歌や俳句、川柳と言ったそれらのこと。 いやだってあれはさ、一種の言葉遊びでしょう、高等遊民の?あるいはほら、言葉をつかったアートと言うかゲージュツというか。実用的じゃないんだよね。 古池や蛙飛び込む水の音 とかいわれてもね。 ・・・いやはや美しいですな~風流ですな~ワビサビってんですかね~ ・・・さて、仕事しよっと。みたいな? それにさ川柳ってあれでしょ? アヤノコウジキミマロ?の、なんちゃらババアばかりなり~とか。 あ、あれか、サラリーマン川柳とか売れているもんね。ほらほら、波及してるじゃんよかったねぇ。 うーん。なんかちょっと違うんだよねぇ。 池田澄子さんの「休むに似たり」のすごさは、むしろあたしは、ビジネスマンが読んでもいいのにと思う。彼女の分析力とまとめかた、その表現力はもう、そのへんのビジネススクールでお金払って聴く講義レベルだよ本当に。言葉の一つ一つも含蓄があり、語録にしたいほど。 例えば、俳句の師匠に師事してそれをなぞらないように鍛錬する理由を、師匠からの言葉として彼女はこう書く。 「一人の優れた俳人が居るとする。その弟子が精進して、師の作品に似た、師より劣った作品を作る。その弟子がまた、師の作品に似た作り方の、少し劣ったものを残す、とすれば、俳句の衰弱は約束されている」 これはそのまま、日本企業にもあてはまる。と、あたしは思う。平たく言うと大企業は、なべて前の人からの引継ぎを自分のところでいかに「無難に」こなすかと言う繰り返しの器用さが求められている。そりゃね、終身雇用は崩壊したって言うけれど、それでも大企業でぐるぐると部署を回遊するサラリーマン、傷を持ったまま他部署になんて、行きたくないもんね。その結果クリエイティブな発想は押し殺され、結果としては企業は先細らざるを得ない。よくあると思います、これ。 また、評論部分も大変素晴らしかった。例えばある俳人の句について彼女の分析はこうだ。 「攝津幸彦の俳句は言葉の多義性の操り効果によって読者を魅了した。それはひとつの言葉の意味を反転させること。一見一個の単語を、幾つかに区切ることで場面を変えること。あるいは切れの場をずらし、助詞の指示方向を変え、漢字で書かれた熟語の音の中から別の言葉を見つけること」 文章がこうよい、耳に心地よい、言葉が練られている、そういった通り一遍の言葉ではない彼女の洞察力と表現力。 言葉をいつくしみ、向き合い、本当に身を削りながら研ぎ澄ますことで、人はこういったものの見方が出来るのだなと思った。 ちなみに私は今もう一冊、村上隆の本を読んでいるのだが、そこで彼は「アーティストとして何よりも求められるのは、デッサン力やセンスなどの技術ではなく「執念」です。’尋常ではないほどの執着力’を持ち、何があっても’やり通す覚悟’があるならば成功できます」と言っている。 俳人とアーティスト、作品はまったく違うが、やはり突き詰める尋常でない執着心、こだわりは、一流の人に共通なのだと改めて思った。 いや、本当に、最高にいい読書でした。まんぞくまんぞく。 そうして最後に、池田澄子さんは川柳ではないけれど、さっきのサラリーマン川柳といったような消費される流行廃りではない、スゴみのある川柳をいくつか紹介して締めたいと思います。 川柳、あなどるなかれ、です。あ、そうして、短歌も。 (川柳) 手が好きでやがてすべてが好きになる(時実新子) 形而上の象はときどき水を飲む(大西泰世) 疼痛のように私を覚えてて(松岡瑞枝) いつか星ぞら屈葬の他は許されず(林田紀音夫) どこまでが椅子でどこから身体だろう(佐藤みさ子) 跳び箱の上はあの世のやわらかさ(草地豊子) 全身で向日葵の首締めている(樋口由紀子) (短歌) 削除したメールが流れつくという銀河があって輝いている(増田静) OLの行動原理はほのぼのと(アンデルセン+吉田戦車)だ(萩原裕幸) お前さあたまには酔った勢いで着信残してみたりしろよな(辻井隆一) もう二度と会わないなんて決めたっけまあその件はまたの機会に(辻井竜一) 二十五時、コンビニ時間 ローソンはいつも要点だけでいっぱい(松井秀) 逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない(雪舟えま)

Posted byブクログ