樹の声 海の声 1 第一部 上 の商品レビュー
西洋の経理を日本にもたらし近代化に寄与した逗子民嘉の娘・咲耶の生涯をえがいた作品です。 平民主義教育の理念に共感する父の方針にしたがって、咲耶はきょうだいたちとは異なり、学習院ではなく尋常小学校に進学することになります。幼いころから自然のなかで生命の歓びを感じていた咲耶は、小学...
西洋の経理を日本にもたらし近代化に寄与した逗子民嘉の娘・咲耶の生涯をえがいた作品です。 平民主義教育の理念に共感する父の方針にしたがって、咲耶はきょうだいたちとは異なり、学習院ではなく尋常小学校に進学することになります。幼いころから自然のなかで生命の歓びを感じていた咲耶は、小学校で下町に暮らす同級生の小川まつと知りあい、自分たちが生きる社会がかかえている複雑な問題に目を見開かれるようになります。 学習院への編入試験のさい、英語の試験で白紙の答案を提出するなど、明治生まれの女性としては抜きんでた独立精神をはぐくんでいった咲耶の少女時代がえがかれており、興味深く読みました。
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明治29年生まれ咲耶の女性一代記。殆ど実話の世界を、明治終わりから大正にかけて10代から結婚生活までの女性の一人語りという形を取ることによって、こんなにも臨場感を感じることができるのは驚き。髭の優しい伯父さん榎本武揚、謹厳で怖い森鴎外、柔和な姿の有島武郎などが生き生きと現代人のよ...
明治29年生まれ咲耶の女性一代記。殆ど実話の世界を、明治終わりから大正にかけて10代から結婚生活までの女性の一人語りという形を取ることによって、こんなにも臨場感を感じることができるのは驚き。髭の優しい伯父さん榎本武揚、謹厳で怖い森鴎外、柔和な姿の有島武郎などが生き生きと現代人のように甦る。明治の女性も変わらない感性を持っていたのだろうと痛感する。咲耶、父、兄も魅力的。咲耶は私の祖母とほぼ同年。一層興味深く感じたところでもある。この時代は女性が学ぶということは難しかった時代だと思うが、ヒロインの人生は劇的に思う。病気の学校休学から休暇で叔父と小樽を訪問し、鰊(ニシン)漁に接した場面の描写が、生の躍動感に溢れた迫力で印象的。また結婚後の生活を巡っての深刻な話の中での兄から「白いカンヴァスをいつまでも求めることの愚かしい虚しさ」を語られる場面は今日では考えられない、重い言葉だった。
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