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悪魔の詩(下巻) の商品レビュー

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2023/09/02

著者ルシュディはインドのムスリム社会に生まれたが、後にイスラム教を棄教し、国籍もイギリスに移した作家だ。 代表作「真夜中の子供たち」において、インディラ・ガンジーによる恐怖政治を告発したことは、インド国籍を手放した理由の一端を語っているように読める。 本作「悪魔の詩」は、自身...

著者ルシュディはインドのムスリム社会に生まれたが、後にイスラム教を棄教し、国籍もイギリスに移した作家だ。 代表作「真夜中の子供たち」において、インディラ・ガンジーによる恐怖政治を告発したことは、インド国籍を手放した理由の一端を語っているように読める。 本作「悪魔の詩」は、自身のルーツであるイスラム教を揶揄する内容だが、ルシュディの作家経歴を俯瞰して見れば、イスラム教を棄教することになった理由を、作品で語る必然性があったのだろう。 揶揄とは? ・預言者ムハンマドがひどく俗人的に描かれる。呼び名自体もマハウンド(犬畜生野郎と読めるのだとか)に改められる。 ・厳格な一神教であるイスラム教の聖典コーランに、実は多神教的に3人の女神が過去に存在し、以後その著述は抹消されたという説を、小説中で支持している。 ・預言者ムハンマドの妻たちと同じ源氏名の娼婦をそろえた娼館が大繁盛し、客の行列が店の周りを渦巻く。その様子が、カーバ神殿を中心にメッカ巡礼するイスラム教徒の姿と重ね合わせてユーモア化される。 等々ほかにも多数。なるほど刺激的な内容であり、特に娼館のくだりなどは、実際かなりルシュディの作家としてのセンスが効いていると思う。 文学作品において宗教を冒涜することは当然ながら自由。一方で、聖人を犬畜生と描かれたことに対して、心の平安を侵される人が少なからずが生まれることも当然。 それゆえにルシュディが命を狙われることになるのは、決して「当然」ではないが、「必然」だったとは言えてしまう、われわれが生きる時代について何らか思わずには済まない。

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2022/10/14

死刑判決が出るほどの小説とはどういうものかという、ある意味下世話な好奇心から読み始めたけれど、読んでみると素晴らしい文学作品だった。 ここにはカオスがあり、憎しみと裏切りと浅ましさと欲望と気高さと尊厳と自由があり、危ういバランスで両立している矛盾がある。 社会的な差別に怒り苦し...

死刑判決が出るほどの小説とはどういうものかという、ある意味下世話な好奇心から読み始めたけれど、読んでみると素晴らしい文学作品だった。 ここにはカオスがあり、憎しみと裏切りと浅ましさと欲望と気高さと尊厳と自由があり、危ういバランスで両立している矛盾がある。 社会的な差別に怒り苦しむ人々がいて、その人々は同時に社会的な差別を自分のために利用するしたたかさも持っている。 長年の不和と帰郷と挫折と奇跡、裏切りと愛がある。 この小説は人間と人生を、文学に可能な限り忠実に描いている作品の一つだ。 私がもっとイスラム教に詳しかったら、もっと深くこの作品を味わえたのかも。 こんなに素晴らしい作品が、クレイジーな軍事独裁国家のせいで政治的な存在にされてしまったのは気の毒だ。

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2009/10/07

最初から最後まで、とにかく突飛なストーリーで、あっぷあっぷしながら読み終えました。 『生まれ変わる』ということは、今までの自分を捨てること。 母国、育ってきた街、言語、宗教、両親、親戚、友人。 インド的文化を受け入れず、恥とし、 ありとあらゆるアイデンティティーを 新...

最初から最後まで、とにかく突飛なストーリーで、あっぷあっぷしながら読み終えました。 『生まれ変わる』ということは、今までの自分を捨てること。 母国、育ってきた街、言語、宗教、両親、親戚、友人。 インド的文化を受け入れず、恥とし、 ありとあらゆるアイデンティティーを 新しい自分という仮面の下に隠しながら、生きること。 一切を忘れた振りをすること。 だけど、その生き方で良いのかな? やっぱり、本心からそんなことは出来ない。 そして天から落ちた男達は舞い戻ってきた。 自らが生きるべき場所に。 奇妙な後味を残す本です。

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