中世の秋(上) の商品レビュー
澁澤龍彦などの著作で…
澁澤龍彦などの著作でも有名な、中世ヨーロッパについての歴史書。人の美醜は顔の皮一枚で決まる、というフレーズが印象的です。
文庫OFF
ブルクハルト(『 イタリア・ルネサンスの文化 』)がルネサンスに「個人の発見」を読み取って以来、近代の幕開けとしてのルネサンスという理解が長らく支配的であった。ルネサンスが近代精神に与えた影響やその起点については様々な議論がある。今ではブルクハルトが考えたほどには中世とルネサンス...
ブルクハルト(『 イタリア・ルネサンスの文化 』)がルネサンスに「個人の発見」を読み取って以来、近代の幕開けとしてのルネサンスという理解が長らく支配的であった。ルネサンスが近代精神に与えた影響やその起点については様々な議論がある。今ではブルクハルトが考えたほどには中世とルネサンスは判然と区別できず、中世の中にこそルネサンスを育んだ土壌があるという見方が有力なようだ。本書も基本的にはこうした流れに棹さし、中世とルネサンスは「連続」しているという立場をとる。「中世の秋」という書名にはルネサンスが近代の始まりであるより、むしろ中世の終わりであるという含意がこめられている。ブルクハルトが対象にしたのが15世紀イタリアであり、本書で扱うのは同時期のフランスおよびオランダであるという違いもあるだろうが、ブルクハルトがイタリア・ルネサンスに見出したような「明るさ」は少なくとも同時期のフランスやオランダにはないという。 いつの時代も美しい世界にあこがれるが、中世のように混迷の生活に打ちのめされ、現在に深く絶望すればするほど、そのあこがれが深まるとホイジンガは言う。美しい世界を求める道は三つあり、第一は世界の外に通じる俗世の放棄、第二は世界そのものの改良と完成、第三は夢見ること、即ち、現実が絶望的なまでに悲惨であれば、せめてみかけの美しさで生活を彩り、社会そのものを遊びで満たすことで、現実を中和しようとする。ホイジンガは中世末期の文化を形作るのはこの第三の道であると言う。したがって生活を芸術にまで仕上げようとする姿勢は何もルネサンスに始まったことではない。だがルネサンスとそれ以降の時代で大きく異なるのは生活と芸術の分離である。やがて芸術は生活の中でその一部として楽しまれるのではなく、その外で、休養の時に崇める対象になったというわけだ。 近代社会とはある意味で「まじめ」な社会である。先にあげた三つの道で言えば、第二の道を志向するだろう。ホイジンガは「遊び」を文化の本質と考えたが、近代社会が「まじめ」を追求すればするほど、「遊び」としての芸術は生活や人生から切り離され、「まじめ」の疲れを癒す一時の慰みものに過ぎなくなる。芸術の「レジャー化」とも言えようが、それが歴史の不可逆の趨勢であるのかも知れない。ホイジンガにとって「中世の秋」とは「メランコリー」に浸された暗い時代ではあるが、芸術が生活の一部をなす「夢見る」時代であった。そんな遠い失われた過去へのノスタルジーに満ちた美しい書物である。
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中身に違いは無いと思うものの、やはりユニコーンと乙女のこの表紙のバージョンがよい。 大学時代に西洋史の授業の参考として先生から勧められた本の一つだった。 項目別に細かく分かれているので、気になるところから読めばよいというのも魅力。 また、歴史を専攻する大学生にとっては、歴史という...
中身に違いは無いと思うものの、やはりユニコーンと乙女のこの表紙のバージョンがよい。 大学時代に西洋史の授業の参考として先生から勧められた本の一つだった。 項目別に細かく分かれているので、気になるところから読めばよいというのも魅力。 また、歴史を専攻する大学生にとっては、歴史という学問に対する考え方や、叙述について深く学ぶことが出来る基本的な本といえるかもしれない。
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読後、なぜか、熟柿を実らせ燃える夕焼けに立つ柿の木のイメージが浮かんだ。 その果実は、聖と俗、栄光と悲惨、善良と邪悪、開放と閉塞、熱狂と静謐、光と闇、生と死の矛盾を孕んで熟れに熟れ、いまにも落ちかけている。 落ちた果実からは、やがて新たな芽が吹く。でも、それは別の話。 西洋史に...
読後、なぜか、熟柿を実らせ燃える夕焼けに立つ柿の木のイメージが浮かんだ。 その果実は、聖と俗、栄光と悲惨、善良と邪悪、開放と閉塞、熱狂と静謐、光と闇、生と死の矛盾を孕んで熟れに熟れ、いまにも落ちかけている。 落ちた果実からは、やがて新たな芽が吹く。でも、それは別の話。 西洋史にはまるでトンチンカンでもぐいぐいと読めたのは、本書が、出来のいい連作小説のようにイメージの連鎖で記述されているからだろう。 各章が、警句のようなフレーズで結ばれているのもいい。例えばこんな風に。 「世界のイメージは、かくて、月光を浴びる大聖堂の静けさに沈んでいった。思想は、眠りにはいっていった。」(第15章) 訳文について、堀越孝一の文体は悪く言われることもあるが、本書においては文句なし。
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人間の心は千年前からずっと変わらない。時代の価値観ははかない。人間ははかないものに囚われて、振り回されて、右往左往し続けている。 中世は中世人のための時代だ。現代がとても良い時代とは思わないけど、一番マシな時代だと思う。
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文化や宗教を通して人々の細かな感情の色など歴史の手から滑り落ちてしまった様々なものを拾いあげてくれている貴重な本です。史実は歴史の表層しか表現しないし、人の歴史を語っている機軸となる歴史書の一つだと思います。
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