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結晶世界 の商品レビュー

3.6

37件のお客様レビュー

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2024/09/16

ディストピアの古典的名作2作を読んだあと、破滅ものを読みたくなり同じく古典である本作を手に取る。 名作であるゆえ、概要を知っている人も多いかとは思うが、タイトル通り世界が結晶化していく。 その世界の終わりが、カメルーンの深い森から始まる中、その森を中心に主人公のサンダース医師と...

ディストピアの古典的名作2作を読んだあと、破滅ものを読みたくなり同じく古典である本作を手に取る。 名作であるゆえ、概要を知っている人も多いかとは思うが、タイトル通り世界が結晶化していく。 その世界の終わりが、カメルーンの深い森から始まる中、その森を中心に主人公のサンダース医師とそれを取り巻く人々の様々な人間関係が語られていく。 とびきりのSFを期待して読み出したのだが、SF要素はかなり薄い。 結晶化という現象は、科学的に語られているように見えて、随分と哲学的である。 また、結晶化という科学的な現象に対して、それを解決しようとする科学も特に出てこない。 どちらかというと、哲学的にあるいは人間の精神性をもって受け入れられる。 そして結晶化された世界は、大変に美しく記述される。 大変に美しく記述されるのだが、これがなんというか、SFを超えて執拗なまでに記述される。 その美しい結晶化された森に対して、件のサンダース医師達の人間関係が暗喩的に配置され、意味づけされる。 途中で思った。これはSFっていうより、純文だ。 ただ、純文という目で見ると、残念ながら私は純文としての美しさを感じられない。 もちろん筆力は素晴らしい。好みの問題。 んー、テンポかな。 一方、破滅ものSFとしてみるとちょっと中途半端感。 絶望感があまりない。 破滅ものの最大の魅力である、現実では一切混じり合い得ない「絶望と美」の同居が感じられない。 そう考えると、ネヴィル・シュートの「渚にて」は本当に傑作だったと思う。 繰り返しになるけど、純文学テイストが強いので、再読したら印象が変わる可能性はもちろんある。 もう数年経ったら、また読んでみようかな。

Posted byブクログ

2024/08/05

ここでは松岡正剛翁の遊読365での紹介をそのまま引用する。 「春分の日にアフリカの河で水死体となった男の腕は水晶のように美しく輝いていた。どうやら遠方の島宇宙で反物質銀河系が衝突して時間が消去し始めたらしい…。史上最も近くて遠い美を抽出しえた作品だ。」

Posted byブクログ

2023/02/21

被写体の選択行為とは。「荒涼とした風景」を表現した写真を観ての感想である。JGバラードの「結晶世界」というSFがある。タイトルの通り精神病患者の「荒涼」(結晶世界)とした心象風景を表現した作品であり名著と呼ばれている。SFには外の宇宙(スターウォーズのような作品)を表現した作品だ...

被写体の選択行為とは。「荒涼とした風景」を表現した写真を観ての感想である。JGバラードの「結晶世界」というSFがある。タイトルの通り精神病患者の「荒涼」(結晶世界)とした心象風景を表現した作品であり名著と呼ばれている。SFには外の宇宙(スターウォーズのような作品)を表現した作品だけでなく人間の内面の宇宙を表現した作品がある。文学作品でも三島由紀夫の「金閣寺」は人間の精神をシンボリックに表現した作品だし、映画作品でも「地獄の黙示録」はベトナム戦争を描きながら、人間の内面への旅路を表現した作品である。写真でもカメラマンの内面が表現される傾向は存在する。「荒涼とした」あるいは「殺伐とした」風景を好んで撮る行為には、カメラマンの精神性がそのまま現れる。被写体を選びシャッターを切る行為により心象風景が投影されるのである。春の「桜」や秋の「紅葉」だけが被写体ではないと思う。真摯に自己の精神と向き合えばシャッターボタンを押す行為にも内面が表現されることに気が付くであろう。写真技術を学ぶだけではなく文学作品に親しみ、そこから精神性を学ぶことにより、新しい作品のヒントを学ぶことも出来るであろう。写真の表現の幅を広げる為に文学・哲学を学ぶアプローチもあると思う。ありきたりの論考であるが、人間としてこの世に生を受けてきたからには、人間を学ぶことが非常に重要だと思う。この辺は文芸評論家「小林秀雄」の影響が非常に大きい。

Posted byブクログ

2022/12/09

 最後が余韻があっていい感じだが、全体としてはもし今書かれていたら発売されていないレベルである。  1969年発売当時の値段が160円の方が驚いた!

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2022/06/30
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※このレビューにはネタバレを含みます

イヤーやっと読み終わった。奥付見たら「1982年5月21日18版」だったので、大学生のときに買ったやつなのね。長かった……。 なんで今まで読めなかったのかというと、まあ単純にエンタメ的な盛り上がりに乏しい、非常に地味なお話だからなんですが、今回それを覚悟して読み進めていったら、第1部のラストでヘリコプターが墜落したりして「おっ案外派手じゃん」とか思ったりもしたのだった。そういうとこだけ見たらハリウッドが映画化してもよさそうな感じなんだけども。 とはいえ第2部に入ると雰囲気はますます暗く陰鬱で主人公が内省したりして、やはり地味なのである。そもそも作者は「なんで世界が結晶化しつつあるのか」とか「人類は結晶化にいかに立ち向かうのか」という点についてはあんまり興味がないみたいで(なぜという理由については多少説明があるけど)、小説は結晶化に対する登場人物の三者三様の心理描写に重きが置かれている。この辺、主人公(語り手)が癩病院の医師だったり背教者的な神父が出てきたりするのがたぶん何か象徴的な意味を負ってるような気がするのだけど、よくわからない。 しかしそんなことより強く思うのは、この翻訳がヒジョーに読みにくいということである。ぶっちゃけこの人、日本語があまり上手くないと思う。若い頃なにか別の小説も読んだことある気がするけど、特に会話がものすごく不自然なのよね。新訳流行ってるんだから、バラードも新しい訳で出ないかしら…… と思いました。作者の未読の作品まだたくさんあるけど、どうしようかなあ。

Posted byブクログ

2021/05/20

SF的な仕掛けは、宇宙から時間がなくなって、すべて結晶化していくという話。生と死がなくなるとか、ヨーロッパ文化があこがれてきた不死の管制とか、そういう蘊蓄がごたごたある。 舞台はアフリカのカメルーンの密林で、植物や家や動物や人間など、なんでもかんでも水晶のようになるという怪奇現...

SF的な仕掛けは、宇宙から時間がなくなって、すべて結晶化していくという話。生と死がなくなるとか、ヨーロッパ文化があこがれてきた不死の管制とか、そういう蘊蓄がごたごたある。 舞台はアフリカのカメルーンの密林で、植物や家や動物や人間など、なんでもかんでも水晶のようになるという怪奇現象がおこっている。 主人公は不倫相手の人妻に会いにきたサンダース博士で、彼はレプラ(癩病)の専門医で、自分もこれを煩っている。物語の筋は、サンダースが不倫相手(スザンヌ)に会いに来て、スザンヌがレプラを発症していることを知り、彼女が結晶化が進む密林に入っていって死ぬという話。これにセリーナという女を奪い合うベントレスとソーレンセンの話がからまる。 物語の最初でルイーズという記者とサンダースは関係をもつんだけど、過去の不倫相手はどうでもいいかなと考えたり、なんだかどうしようもない男だ。 最後は、まともなルイーズとマックス(スザンヌの夫)が、二人で水晶世界に戻っていくサンダースを見送っておしまい。 結晶世界の描写はそれなりに迫力がある。ルイセンコ論争のネタもでてくる。 ただ、退廃的であまり好きではない。 そして、訳がまどろっこしい。翻訳というより、受験の英文和訳みたいだ。それから「どえらい」など変な言葉がけっこうあるが、退廃耽美な感じなら、もうちょっと表現を工夫してほしい。たぶん、改訳したほうがいいと思う。『干魃世界』は改訳されたから、これもやりなおしてほしい。大きな主語も多いし、読みにくくてしょうがない。

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2020/09/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

初バラード。破滅三部作のひとつである本作。破滅と言うからにはパニックものかと思っていたが、まるで古い欧米の映画でも観ているかのように静かに進む物語。SFというよりは純文学に近いかもしれない。友人マックス(と、関係のあった彼の妻スザンヌ)を追ってマタール港にやってきたサンダーズ。そこで彼らの住むモント・ロイヤルへの道が封鎖されている事を知る。その理由を探るために異変の起こっている森へとサンダーズは向かうが...。水晶に覆われてゆく森の描写は美しい。対象的に森の中でサンダーズに降りかかる様々な出来事は悪夢的で現実離れしている。しかし結局、結晶化とは何だったのか、この後世界はどうなるのか、ほとんど明かされずただただ静かに物語は終りを迎える。サンダーズは結晶化した森とスザンヌに魅入られ森へと帰って行った。

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2021/08/02

アフリカはカメルーン共和国マタール河を遡るらい病院の医師サンダース博士。かつての同僚の妻を追ってのことだったが、マタール港に着くとそこから先の道は閉ざされており、植物や動物、人間もが水晶体に結晶化する世界が広がっていた。闇夜の薄明に輝く光、結晶が剣状に延びる様、それが眠りの森の美...

アフリカはカメルーン共和国マタール河を遡るらい病院の医師サンダース博士。かつての同僚の妻を追ってのことだったが、マタール港に着くとそこから先の道は閉ざされており、植物や動物、人間もが水晶体に結晶化する世界が広がっていた。闇夜の薄明に輝く光、結晶が剣状に延びる様、それが眠りの森の美女の森のように熱帯林に忍び寄る。この「結晶世界」の描写がなんとも秀逸だ。文庫本の表紙絵(松林富久治絵)がまたその活字世界を具現化していている。 「ブレードランナー」のそぼ降る雨の終末世界に対して、こちらは成長する結晶の森の終末世界化といった様相。静かな結晶の森のなかで一体どうなるのか? と思いきや物語の要はサンダース博士の愛の精神遍歴。SFにくくられるもので不倫の愛に出くわしたのは初めてかも。 映像で見てみたい。 買ってから2年近く経って読み終えた。 2020.9.18 読み終わってこの本の表紙をみるたび、結晶世界のイメージが頭のなかに浮かぶ。読んでる最中より読み終わった後の方が、物語世界に取り込まれる不思議な作品。

Posted byブクログ

2020/02/27

神保町の古本市で買った本のうちの一冊、読み終わるのにけっこう時間がかかった。あらゆるものが結晶に変わってゆく森の風景描写が幻想的で美しい。あと物語の終わり方が良かった。

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2020/01/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

冒頭から暗い。不穏な空気というか、登場人物たちが背負っている闇みたいなものが立ち込めていて、重い。 そして、主人公サンダーズが嫌だ。こんな男に、なんで惹かれる女がいるんだろう。ルイーズを与えて、罪滅ぼしのつもりなのか。 どこまでもバカにされてるな、マックス。 かと思えば、一人の女性をめぐって銃撃戦をやってる男たち。さっさと病院に連れて行けよ。 そんなくだらないいざこざを、結晶化していく世界の美しい描写で綺麗に誤魔化している。 人間模様はどうでもいいけど、確実に広がっている結晶化の刹那的な美しさと、クライシスな感じはため息が出るほど。

Posted byブクログ