タイベレと彼女の悪魔 の商品レビュー
ユダヤの信仰、ユダヤ性をテーマにした10編。 多くは「モスカット一族」や「悔悟者」と同様に、信仰が試されるもの、あるいは信仰に揺らぐ者を描く。 しかし、ともすると道徳的、説教的な感じになりがちなテーマに対して、大変に高い完成度の物語に仕上がっており、とても面白い。 そして自身がユ...
ユダヤの信仰、ユダヤ性をテーマにした10編。 多くは「モスカット一族」や「悔悟者」と同様に、信仰が試されるもの、あるいは信仰に揺らぐ者を描く。 しかし、ともすると道徳的、説教的な感じになりがちなテーマに対して、大変に高い完成度の物語に仕上がっており、とても面白い。 そして自身がユダヤ教徒でありながらも、自分たちの信仰を客観的に、宗教の外にいる人間にもわかりやすく表現しているので彼らがどのような世界で生きているのかが大変よくわかる。 豊かな生活を送りたいというのは、人間の本能に根ざした欲求である。 その欲求を徹底的に排するのか、あるいはそれをある程度認めた上で、器用な信仰とでもいうような、現代的な信仰を確立していくのか。 信者の中でもその濃淡は異なり、内部でも軋轢や隔たりが存在する。 おそらくそこに正解はなく、個々人が自分なりの正解を出して生きていく。 本短篇10編は、そのような自分なりの正解を導き出した10人の姿が描かれている。 ユダヤ性や信仰の奥にある苦しみ、そしてさらにその奥にある宗教を排した人間性が垣間見える。 ここしばらく一連のシンガーの作品を読んできたが、結局のところ信仰や思想が人をつくるのではなく、人間性が思想や信仰にあらわれるのではないかと感じざるを得ない。 身も蓋もないのだが。 しかし面白いし読みやすい。もしユダヤに興味があり、その思想や歴史を教科書以上に知りたいと思うのであればシンガーの作品は本当におすすめ。 しっかり考えられる。
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